戸田建設(株) 戦略事業推進室 安仲 ともえ
3. コスト削減への取り組み
戸田建設では今後の事業拡大に向け、ハイブリッドスパー型のコスト削減に取り組んでいる。コスト削減のポイントとして、現在、大きく以下の2点に焦点を当てている。
1点目は、スパー型の利点である大量生産性を活かした生産体制を確立することである。まず、長崎県五島市にハイブリッドスパー型浮体建造ヤード(Offshore Wind Hub 五島)を整備し、コンクリート部と鋼製部の製造、艤装品の取り付け等を実施している。浮体建造手法としては、1基分の浮体をいくつかの部材に分けて製作するブロック建造手法を採用している。浮体組立の手順としては、まず、建造ヤードで製作したコンクリート部の各ブロックと、工場で製作した鋼製部の各ブロックをそれぞれ組み立てる。次に、コンクリート部と鋼製部を連結する。最後に、タワーを連結して浮体を一体化する(図3)。組立完了後、一体となった浮体を岸壁から半潜水型スパッド台船(図4)に積み込み(図5 ロールオン)、施工海域まで曳航する。
浮体構造がシンプルな円筒構造となっているため、製造、組立時に特別な技術が不要で、さらに同一形状、類似形状の部材のため、製作の効率化が可能となる。また、組立、積込み作業は全て浮体を水平に寝かせた状態で実施するため、特殊なクレーンや大きな地耐力を必要とせず、一般的な岸壁での建造が可能である。従って、建造場所を選ぶことなくどこの地域でも容易に大量生産が可能となり、大幅なコスト削減が可能となる。
2点目は、スパー型の課題である洋上施工時に大型起重機船を必要とするという点を改善することである。洋上施工手順としては、まず、ハイブリッドスパー型浮体建造ヤードで組み立てた浮体を半潜水型スパッド台船にロールオン後、施工海域まで曳航する。施工海域に到着した後、半潜水型スパッド台船を潜水させた後に浮体を海面に浮き上がらせ、浮上した浮体を半潜水型スパッド台船から引き出す(図5 フロートオフ)。次に、浮体内部にバラスト水を注水し、下部に重心を移動させることで浮体を建起す。最後に、建起した浮体上部に風車本体の各部品を取り付ける。
大型起重機船を使用する場合、天候により作業可否が左右され、傭船料の増加や工程遅延の影響によるコスト増加が生じるが、半潜水型スパッド台船を利用した工法では、従来浮体の建起し等に使用していた大型起重機船を必要としない。これにより、大型起重機船の使用という課題を解決した。
4. おわりに
ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電の建造と洋上施工手順は非常にシンプルであり、造船所のような特殊な設備や技術を必要とせず、全国にある一般的な港湾で建造が可能である。また、技術開発から建造、洋上施工、維持管理、撤去までの一貫体制で、ニーズに応じた様々な種類の風車を搭載可能であり、世界中の海域への対応が可能となっている。今後もより広いニーズに対応し、事業拡大を目指して更なる技術革新を進めていく所存である。
【著者紹介】
安仲 ともえ(あんなか ともえ)
戸田建設株式会社 戦略事業推進室
浮体式洋上風力発電事業部
技術企画部 技術課
■略歴
2016年 東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科 卒業
同年 三井造船株式会社(現 三井E&S造船株式会社) 入社
2021年 戸田建設株式会社 入社 現在に至る