ハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電について (1)

戸田建設(株) 戦略事業推進室 安仲 ともえ

1. はじめに

 近年、再生可能エネルギーの中でも特に風力発電が大きな注目を集めている。風力発電は、これまで陸上での設置が中心となっていたが、周囲を海に囲まれた日本では、広大な海域を利用した洋上風力発電が期待されている。洋上風力発電は、風車の基礎部分を海底に固定する着床式と、基礎部分が海に浮いている浮体式に分類される。着床式は設置可能な水深が60m以浅といわれ、欧州で主流となっているが、日本では欧州のような遠浅の海域が少なく、カーボンニュートラル達成のためには水深が深い海域に設置可能な浮体式の活用が必須となっている。戸田建設株式会社は浮体式洋上風力発電の実現に向け、2007年にハイブリッドスパー型浮体の研究開発を開始した。その後も年々スケールを拡大し、2013年には環境省による実証事業において2MWの実証機を長崎県五島列島沖に設置し、2016年から民間事業として実用化、現在も次のステップに向けて技術開発を継続している(図1)。本稿では、このハイブリッドスパー型浮体式洋上風力発電について紹介する。

図1 浮体式洋上風力発電への戸田建設の取り組み
図1 浮体式洋上風力発電への戸田建設の取り組み

2. ハイブリッドスパー型とは

 ハイブリッドスパー型とは、下部をコンクリート、上部を鋼で構成する細長い円筒形の浮体構造である(図2)。コンクリートは重量単価が鋼の約1/10程度であり、これを下部に用いることで、全て鋼から構成される従来のスパー型よりもコストダウンを図るとともに、浮体の重心を下げることにより安定性も向上させている。

図2 ハイブリッドスパー型浮体構造
図2 ハイブリッドスパー型浮体構造

 スパー型の利点としては、大量生産性と安定性が優れていることがあげられる。スパー型の構造は、図2からもわかるように、分岐がなく非常にシンプルであることから、大量生産への移行が容易に可能となる。また、スパー型は細長い円筒形の構造となっているため、風や波の影響を受けにくく、さらに浮体中心よりも低い位置に重心を置くことで高い安定性を実現している。
 一方、スパー型の課題としては、一般に洋上での風車組み立て時に大型起重機船を必要とすることがあげられる。洋上施工時に使用する大型起重機船は日本に数隻しかなく、手配が容易でないことや、作業可否が天候に左右されるためにコストや工程を圧迫する大きな要因となっていた。

次回に続く-



【著者紹介】
安仲 ともえ(あんなか ともえ)
戸田建設株式会社 戦略事業推進室
浮体式洋上風力発電事業部
技術企画部 技術課

■略歴
2016年 東京海洋大学海洋工学部海事システム工学科 卒業
同年   三井造船株式会社(現 三井E&S造船株式会社) 入社
2021年 戸田建設株式会社 入社 現在に至る