4.河川堤防の侵食をリアルタイムで検知「侵食センサ」
河川の増水により堤防が決壊すると甚大な被害が発生するため、日常の点検により堤防の軽微な変状を把握し、必要に応じて補修を行う維持管理が行われている。
堤防の侵食に対するモニタリングは徒歩による目視点検を主体としているが、降雨や増水による水の濁り、夜間等の条件が重なると目視による変状の発見は困難な場合がある。そこで、従来の目視点検に加え堤防決壊の前兆となる軽微な変状をリアルタイムで検知するモニタリングシステムが開発されている6)。
侵食センサの模式図を図5に示す。侵食センサには3軸のMEMS加速度センサを使用し、侵食により生じるセンサ自身の姿勢変化(傾き・回転)を計測する。侵食を検知すると磁気通信技術により受信装置へ信号を発信し、河川管理者へ通知する。磁気通信技術の採用により、土中や濁流化した水中からでも通信でき、侵食をリアルタイムで検知することが可能となった。
庄内川における実証試験では、大雨による侵食を3台の侵食センサで検知した(図6)。
5.低周波磁界により水中・地中の砂礫まで追跡「砂礫トレーサー」
河川の土砂移動の実態を把握することは、河川の流域全体における土砂管理計画に役立つ。土砂移動の計測では色付けした礫をトレーサーすることが多いが、河床の土砂に埋まり追跡できない場合があった。そこで、地中・水中でも通信可能な低周波磁界を用いた砂礫モニタリングシステムが開発されている。
システムの概要を図7に示す。現地で採取した礫に発信機を埋め込み、出水後の移動距離を可搬型探知機で検知する。礫ごとに異なる周波数の発信機を内蔵することで、礫の識別を行う。安部川砂防における実証試験7)では、水中や土砂に埋まったトレーサーも追跡でき(図8)、2回の増水において短い距離では300m、長い距離では5,300mの土砂移動が確認された。
6.土石流の発生を直ちに知らせる「ワイヤセンサ」
土石流は、山腹や川底に堆積した土砂が水と一体となり下流へ押し流される現象であり、長雨や集中豪雨に起因して発生する。全国の土石流危険渓流は18万箇所以上にのぼる8)。土石流は時速20~40kmで流下するため、短時間で下流の集落などに到達し人的・物的被害を引き起こす危険性が知られている。土石流が発生した場合、直ちにサイレン等で下流域周辺の住民に知らせ、避難を促す必要がある。
ワイヤセンサの模式図を図9に示す。河川上流部で河道を横断するようにワイヤを張り、対岸の立木や岩盤、砂防えん堤等にワイヤセンサを設置する。土石流によりワイヤが切れると、土石流警報器が検知し回転灯・サイレンにより通知する。
2014年8月に広島市で発生した土石流災害では、災害後の緊急対策工事の安全管理および対策工事完成までの住民への警報連絡手段として、8渓流に合計28台のワイヤセンサを施工した(図10)。
7.おわりに
近年、降雨が激甚化しているため、より広範域での河川モニタリングシステムの構築が必要と考える。今後も計測機器メーカとして、防災へ寄与できるよう尽力する。
参考文献
6) 佐古俊介、柳畑亨、石沢孝、須賀原慶久、中山修、味方圭哉:計測機器を用いた河川堤防の変状検知モニタリングシステムの開発、第4回河川堤防技術シンポジウム講演概要集、p65-68
7) 西川友幸、高橋正行、細野貴司、江島敬三、谷 弘行、伊藤力生、才田 誠:安倍川砂防における低周波を用いた土砂移動実験、平成17年度砂防学会研究発表会概要集、pp136-137
8) 国土交通省:都道府県別土砂災害危険個所、国土交通省ホームページ、https://www.mlit.go.jp/common/001286018.pdf(入手2021年7月24日)
【著者紹介】
飯田 あゆ美(いいだ あゆみ)
坂田電機株式会社
■略歴
2013年 坂田電機株式会社へ入社。
計測機器の設置、データ解析業務に従事。
2021年 現在に至る。