河川流量のモニタリング(2)

(国研)土木研究所
水工研究グループ
山本 晶

4. 流量観測の今後に向けて

4.1 さらなる技術開発とその支援

 流速計や水位計については、低価格化や高精度化のほか、新たな計測手法や活用方策等を目指した開発が現在でも産学の各機関において行われている。国土交通省でも、「革新的河川技術プロジェクト」の1つとして流量観測の無人化・自動化に向けた機器の開発を支援している。
 土研においても、電波式流速水位計を用いた流量の自動観測に向けた研究を継続している。近年は、流速水位計の小型化を行いドローンに搭載した電波式流速水位計による計測実験等を実施した(写真-5)。また、流速水位計の電波照射方向を遠隔または自動で制御可能となるよう、雲台に搭載した電波式流速水位計による計測実験を国内数か所で実施している。
 本稿では主に流速の計測技術について紹介したが、流量を精度よく把握するためには、洪水中に変動する河床の高さを把握することが必要になる。河床高の計測、推定についても土研では今後取り組みを進めていく予定である。

写真-5 電波式流速水位計を搭載したドローン
写真-5 電波式流速水位計を搭載したドローン

 こうした取り組みを産官学で共有し、連携して推進するために、土木学会水工学委員会に河川観測高度化研究小委員会(委員長:名古屋大学 椿涼太准教授)が設置されている。土木研究所としては、こうした場も活用し情報共有を通じて各機関の研究開発への支援を行っている。

4.2 新技術の普及に向けた取り組み

 電波式流速計等の新しい観測技術は、直轄河川を中心に各種調査に利用されつつあるものの、現場レベルではまだそのノウハウが十分でないのが実情である。土研には地整等からの問い合わせが多く寄せられており、積極的に技術指導を行っているところである。
 一方、こうした利用はまだ直轄河川の一部であり、多くの現場(特に都道府県)では新しい技術に関する知識が十分ではない。土研では、開発した技術の広報、普及のため、「土研新技術ショーケース」を各地方ブロック毎にほぼ2年に1度の頻度で主催する等、積極的な活動を行っている。電波式水位計についてもこの場で講演やパネル展示を行い、その有用性等について積極的にPRしているところである。
 また、こうした観測技術を普及させていくためには、河川の状況に応じた適切な観測方法を提示していくことが重要と考えている。土研では、今後国土交通本省や地方整備局等とも連携して様々な河川において複数の手法で観測を行い、河川の状況等に応じた各種流量観測技術の適用性の検証を行っていく予定である。

5.おわりに

 近年の水文観測技術の高度化を受け、平成29年3月に国土交通省の水文観測業務規程が改正された。改正された主な点は、雨量観測の手法としてレーダー雨量計が正式に位置づけられ、データを蓄積することとされたこと、流量観測の一手法として非接触型流速計が位置付けられたことである。また、令和3年5月に閣議決定された第5次社会資本整備重点計画では、基準水位・流量観測所における自動流量観測導入率を令和7年度までに100%とすることが目標として掲げられている。こうした政府の方針を支援するため、土木研究所では、今後も非接触型流速計の普及の取り組みや流量観測の高度化に向けたさらなる研究開発を続けていく。

参考文献

1) 萬矢敦啓、墳原学、工藤俊、小関博司、笛田俊治:電波式流速水位計の開発、土木学会論文集G(環境)、土木学会、Vol.72、I_305-I_311、2016

2) 佐藤匡、萬矢敦啓、橋場雅弘:平成28年台風10号空知川上流における画像処理型流量観測の適用性-大規模出水に対応した流量観測高度化(その2)-、国土交通省北海道開発局第60回(平成28年度)北海道技術開発研究発表会

3) 河川砂防技術基準 調査編、平成26年4月、国土交通省水管理・国土保全局

4) 平成14年度版水文観測、国土交通省河川局監修、独立行政法人土木研究所編著、社団法人全日本建設技術協会



【著者紹介】
山本 晶(やまもと あきら)
国立研究開発法人 土木研究所 水工研究グループ 水文チーム
上席研究員

■略歴
東北大学工学部土木工学科卒業
1993年 建設省入省
2003年 国土交通省東北地方整備局河川部河川計画課長
2007年 国土技術政策総合研究所危機管理技術研究センター水害研究室主任研究員
2010年 東北地方整備局河川部水災害予報企画官
2011年 国土交通大学校建設部建設企画科長
2013年 国土技術政策総合研究所河川研究部水害研究室主任研究員
2016年 香川県土木部次長
2018年より現職