2.校正機関認定の仕組みの具体例
我が国においてISO/IEC 17025に基づく校正機関を認定する主要な仕組みとして、計量法校正事業者登録制度(JCSS)がある。その登録・認定機関は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)認定センターである。日本の国家計量標準は通常、国立研究開発法人 産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)が所有する標準器または標準物質である。この計量標準を産業界等の測定器ユーザーへ適切に供給するための仕組みがJCSSである。この制度では、JCSSシンボルマーク付き校正証明書を発行できる校正機関を登録事業者と呼ぶ。なお、登録事業者のうち、国際MRA対応(計量法の制度に国際的な認定ルールを付加した審査を受けることを契約したもの)の認定を受けている事業者をMRA対応認定事業者と呼んで区別している(図1参照)。
JCSSは法律に基づく国内に限定された制度であるのに対し、海外の認定機関による認定は、どこの国のラボでも対象とすることができる。例として、米国のNVLAP*1、A2LA*2、PJLA*3、英国のUKAS*4等が挙げられる。これらの認定機関は、ISO/IEC 17025の規格に適合していることを審査して認定した試験・校正機関に対し、それぞれの認定機関のシンボルマーク付き証明書の発行を認めている。
したがって、認定シンボルマーク付きの校正証明書であれば、国家計量標準(基本的にはSI)にトレーサブルであり、かつ不確かさのついた信頼性の高い校正結果が提供される。
*1) National Voluntary Laboratory Accreditation Program
*2) American Association for Laboratory Accreditation
*3) Perry Johnson Laboratory Accreditation
*4) United Kingdom Accreditation Service
3.ISO/IEC 17025認定校正機関が求められる場面
近年、「自動車産業向け品質マネジメントシステム規格」IATF 16949の認証を取得した組織やJISマーク表示制度等の製品認証制度における試験所では、そこで使用される測定器については、ISO/IEC 17025認定校正機関のシンボルマーク付き校正証明書の付いた校正が要求されている。これは、製品の規格適合性をより厳しく評価するために課せられた手段の一つであると考えられる。このことからも、測定器ユーザーは、これらの認証の取得企業のみならず、製品やサービスの品質レベル維持のために信頼できる試験所や校正機関を選択することが重要である。
4.認定校正機関としての活動
一般財団法人 日本品質保証機構(JQA)では、全国4事業所でJCSS登録事業者として25区分中17区分について登録・認定を取得し校正サービスを行っている。また、A2LAからも9分野において校正機関の認定を広範囲に取得し校正サービスを行っている。その一部を表1に示したが、長さ、質量、温度、電気量など計測の基本量はほぼ網羅している。これらの校正を受けることにより、認定シンボルマークの付いた校正証明書が発行されるため、ISO/IEC 17025での要求事項を満たした機関で校正されたことが証明され、国家計量標準またはSIにトレーサブルでかつ不確かさの付いた校正値を得ることができる。また、品目によっては出張校正でも認定シンボルマーク付き校正証明書が発行できるので、運搬困難な測定器や多数の測定器の同時校正の場合に特に有用である。
認定範囲の校正品目例 | |||
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長さ・角度 | 高精度長さ標準器・マイクロスケール | 質量・力・トルク・ 硬さ・圧力 | 分銅・おもり・はかり |
各種校正用マスタゲージ類 | 力計・一軸試験機 | ||
精密測定機 | トルク計測器・トルクツール | ||
工場測定工具・直尺・巻尺類 | 硬さ試験機 | ||
角度測定器 | 圧力計・真空計 | ||
電子計測器・放射線・EMC | 電圧・電流測定器 | 体積・流速・流量 | 体積計 |
電圧・電流発生器 | 風速計 | ||
電力測定器 | 気体流量計 | ||
減衰器 | 音響・振動 | 騒音計・計測用マイクロホン | |
周波数測定器 | 振動加速度計・振動試験機 | ||
高電圧測定器 | 温度・湿度 | 温度計 | |
放射線測定器 | 湿度計・温湿度試験装置 | ||
LCR測定器 | 濃度 | 光散乱式粒子計測器 | |
EMC試験用計測機器 | その他の計測器 | 粘度計・その他 | |
その他電子計測器 |
おわりに
ISO/IEC 17025認定校正の特徴とそのメリットについて述べてきた。近年になって測定器の校正は質の問われる時代になってきている。校正証明書を書類として揃えておくだけでは、本来の意味の測定器校正の実施や、計測のトレーサビリティの確保にはならない。今後は、製品やサービスの品質をより確実にし、安心・安全の提供をより強固なものにするために、信頼できる試験・校正を受けることがその一つの手段になるであろう。
【著者紹介】
片桐 拓朗(かたぎり たくろう)
一般財団法人 日本品質保証機構 理事
■略歴
東京都立大学大学院工学研究科電気工学専攻修了。
1985年4月、財団法人 機械電子検査検定協会(現 一般財団法人 日本品質保証機構)に入構。
計量器、計測器の検定、校正事業に従事。
2005年から2010年までJCSS、A2LA認定校正事業の品質管理責任者に従事。
2015年より現職。