3. 流量校正の種類
3.1 校正方法
液体流量センサの校正方法としては、秤量法、比較法、体積法が挙げられる。
校正のための設備として、不確かさが明確にされた校正設備が求められる。不確かさの大小に影響する因子としては、設備の管理はもとより、校正に使用する標準器が重要である。表3.1.1に液体流量センサの校正方法と、そこで用いる標準器についてまとめる。表には流量を求めるために直接用いる標準器を挙げた。設備や設置環境の因子の影響を明らかにするために使用する標準器(温度・気圧など)や流量センサからの出力信号を測定する標準器も必要である。
校正方法 | 標準器 |
---|---|
秤量法 | 秤(質量)、タイマー(時間) |
比較法 | タービン流量計、コリオリ流量計、電磁流量計などの流量計(流量)、タイマー(時間) |
容積法 | タンク・体積管(定容積)、タイマー(時間) |
3.2 秤量法による校正
図3.2.1に秤量法による校正設備のブロック図を示す。
高架水槽から校正対象の流量センサに水を流し込み、秤量タンクに水を溜める。秤量タンクには、ダイバータによって水の流れを切り替え、一定時間のみ水を溜める。秤量タンクに水を溜める時間をダイバータの動作に連動したタイマーで計測し、秤量タンクに溜められた水の質量を秤で測定する。測定した質量を秤量タンクに水を溜めた時間で割ることで質量流量を求め、これを標準流量とする。校正対象の流量センサからの出力信号がパルス信号のとき、秤量タンクに水を溜めている期間に出力されるパルス数をカウンタによって計測し、標準流量と比較することによって校正する。
3.3 比較法による校正
図3.3.1に比較法による校正設備のブロック図を示す。
校正対象の流量センサと直列に接続したマスターメーターを標準器とし、供給源から流体を流し込む。この接続によって校正対象の流量センサとマスターメーターは同じ流量を測定することになる。校正対象の流量センサとマスターメーターからの出力パルスをカウンタで測定し、同時に測定時間をタイマーによって測定する。校正対象の流量センサとマスターメーターそれぞれの平均流量を求め、両者を比較して不確かさを求めることによって校正する。
3.4 容積法による校正
図3.4.1に容積法による校正設備のブロック図を示す。
この方法では、あらかじめ体積を校正した水(標準体積)を校正対象の流量センサに流し、流し終えるまでの時間を測定する。標準体積を測定時間で割ることで標準流量を求め、校正対象の流量センサの出力と比較して校正する。
標準体積としてタンクや体積管が用いられる。
4. 液体流量計の校正設備
4.1 恒久的な設備
水による液体流量センサの校正設備例を図4.1.1に示す。
高架水槽から水を流し込み、テストラインに設置した校正対象流量センサを通過させる。高架水槽は、常時オーバーフローさせることで水位を保ち、一定の瞬時流量で水を供給できる構造としている。さらに転流器(ダイバータ)によって、水を秤量タンクまたは戻り水路へと導く。ダイバータを使用する代わりにバルブの開閉で流体の流路を切り替える設備もある。校正対象の流量センサに水を流す配管は、上流側を整流装置と流量センサの口径の40倍以上の直管とで構成し、流入する水の流れを十分に発達した軸対称の流速分布としている。校正対象流量センサから出力される信号がパルス信号の場合、パルスをカウンタによってカウントする。また、秤量タンクに水を溜める時間、あるいは校正対象流量センサへ水を流す時間を計測するためのタイマーと、秤量タンクに溜めた水の質量を計測する秤を備え、積算流量を求める。配管ライン(テストライン)を複数備えるとともに、流量計からの出力信号として、オープンコレクタや電圧のパルス信号、4~20mAの電流出力、瞬時値の表示などに対応できるようにして、様々な口径、流量範囲、校正対象出力の流量計の校正を可能としている。
例えば、口径250mmの流量センサを校正できる設備は、テストラインの長さ10m以上、水頭数10mの高架水槽を備える規模である。
4.2 現地校正設備
標準器を校正対象の流量センサが使用されているサイトに持ち込んで校正を行う現地校正設備の例を図4.2.1に示す。この例では比較法で校正を行う。比較法では標準器(マスターメーター:ここでは比較法における標準器をマスターメーターと呼ぶ)を使用している。マスターメーターとしては、高精度で原理的に上流側・下流側の直管長などによる制約を受けにくいコリオリ式流量計が使用されている。図4.1.2の設備にマスターメーターと現地校正で使用する機器が設置されており、マスターメーターの上流と下流にホースを介して現地の校正対象の流量センサが取り付けられた配管を接続して校正する。
4.3 微小流量用設備
医薬品や半導体製造装置など、ごく少量の液体の流量を管理する必要が生じるケースでは、微小用の液体流量センサが使用される。3.2~3.4に示した方法での校正が可能であるが、わずかな流量を安定して発生させる機構が必要である。また、流す液体の量が非常に少ないため、不確かさの小さな校正結果を得ようとすると、長い時間を要することとなる。また、少量の液体を長時間かけて取り扱うために蒸発による影響が大きく、その対策を講じた設備が必要である。
5. 注意事項
流量センサによる測定結果は、配管への据え付け状態や使用方法に左右されることがあり、再現性や繰り返し性を良くするためには幾つかの注意事項がある。正確な測定結果を得て校正するためには適切な手順に従わなければならない。また、流量センサの高機能化が進んだ結果、信号処理が高速化し、使用される現場の口径や流体の種類に合わせてソフトウェアにより信号処理することで汎用性を高めた製品も普及している。このような高機能なセンサでは、ソフトウェアの設定が適切に行われていなければ、意図した結果が得られないことがある。
流量センサの校正手順における注意事項の代表例を表5.1に示す。
対象の流量センサ | 注意事項(問題点) | 影響(理由) |
---|---|---|
流量計全般 | 流量センサと配管の中心がずれている | 直管長を有する流量センサの場合、偏差に影響を与える |
絞り流量計 超音波流量計 電磁流量計 渦流量計 |
直管長が不足している | 流れを十分に発達させた流速分布でなければ正確な測定結果が得られない |
コリオリ流量計 | 配管にストレスが加わっている | コリオリ力に影響を与える |
電磁流量計 | 検出器がアースに接地されていいない | ゼロ点(配管の基準電位)に影響を与える |
流量計全般 | キャビテーションの発生 | 測定結果が安定しない |
電磁流量計 | 流量センサの管路内が汚れている | 正確な測定結果が得られない。測定結果が安定しない |
流量計全般 | 取扱説明書に示された設置条件や設定を守っていない | 補正や信号処理を行う高機能なセンサではソフトウェアの設定内容が測定結果に影響を与える |
6. おわりに
流量センサは社会インフラや製造設備で重要な役割を担い、正確な計量や高品質な製品づくりに貢献している。流量や口径の範囲、出力の種類など、流量センサの高機能化・高性能化が進むとともに、流量センサの校正の適用範囲が広がり、ニーズもますます高まるものと考える。
【著者紹介】
岩政 明(いわまさ あきら)
島津システムソリューションズ株式会社・技術部 兼 流量計校正試験所
■略歴
2008年 島津システムソリューションズ株式会社入社。
2011年 流量計校正事業に従事し、現在に至る。