最近の温度測定と校正技術(1)

(株) チノー
清水 孝雄

1. はじめに

近年,材料や製品の高品質化や高精度化において,設備監視・制御のパラメータのひとつとして温度の重要度が益々高まっている。また安心,安全,環境・省エネ等やIoTでのセンシング技術の広がりにより,温度測定の需要も増えている。ここでは,温度の定義・目盛,温度計校正時の不確かさ評価,および新しい温度センサ・校正技術などについて紹介する。

2.  温度の定義と温度目盛

図1 水の状態図(水蒸気,水,氷)
図2 水の三重点セルの構造と外観

温度は,国際単位系(SI単位)の基本量の一つで,その単位は,熱力学温度ケルビン(K)で「水の三重点の熱力学温度の1/273.16倍に等しい大きさである」と定義されている。現在1990年に制定された国際温度目盛(ITS-90)が国際的な温度標準であり,温度定点とその温度定点の間の温度を補間する計算方法が規定され,これらにより温度目盛が得られる。熱力学温度の基準となる水の三重点は,図1に示すような水蒸気と水と氷が共存している熱平衡状態で,図2は純水を真空のガラス容器に封入容器を示したものである。この容器は,水の三重点セルと呼ばれ,熱的に極めて安定した状態を保持でき,この温度を273.16K(0.01℃)と定義している。

近年,温度については,水の三重点では水の個体差があることから,人工的物等によらない単位系が検討され,2019年5月20日の世界計量記念日以降,熱力学温度のケルビン(K)の定義は,水の三重点に基づくものからボルツマン定数Kを用いたものに変更された。しかし,これまでの国際温度目盛(ITS-90)に基づく値との差は極めて少なく,これまでの温度目盛での運用上の影響は無視できる範囲である1)

3. 温度計について

3.1 温度計の種類と分類

図3 主な工業温度計

工業分野で主に用いられる温度計は,測定方法によって大きく接触式と非接触式に分類される。図3に主な工業用温度計を示す。接触式の温度計はセンサを測定対象(固体・気体・液体など)と接触させて,熱の伝導などを利用して温度測定するもので,センサには熱電対,サーミスタや測温抵抗体を用いる抵抗温度計などがある。

一方,非接触式の温度計はセンサが非接触であり,測定対象が発する熱放射エネルギーを測定する。その一つが放射温度計で,熱放射エネルギーを検出するデバイスに,シリコン・フォトダイオード,焦電素子,サーモパイル(熱電対が多数配置されたもの)などが使用されている。2次元で温度分布を測定できるサーモグラフィ(熱画像)も同じ測定原理の温度計である。

3.2 国内の温度計の生産台数と金額(経産省データ)

図4 国内の工業用計測機器の生産台数比率(2020年1-12月)

経済産業省が発表している2020年(1-12月)の工業用計測制御機器(温度計,圧力計,流量計,差圧計,その他)の種類別生産台数での比率は、図4に示すように温度計の生産台数比率は半分以上の56%を占めている。一方、金額比率では温度計は約24%である。2010年から2020年までの10年間で,生産台数自体は約2倍に伸びているが,生産金額はほぼ横ばいである。これは,温度計の種類による価格の差はあるが,多数点の監視用やIoT関連での需要による比較的安価な温度計が増えていることもその一因であると思われる。

4. 温度校正のトレーサビリティ

図5 日本のJCSSの温度トレーサビリティ体系

トレーサビリティ(Traceability)とは,“校正に使用した標準器・測定器のルーツが国家標準にまで正しくさかのぼれること“である。図5に日本のJCSS(Japan Calibration Service System)と呼ばれる計量法に基づくトレーサビリティ体系を示す。温度においては,JCSSでの「校正事業社登録制度」では,国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下,産総研)が所有する国家標準器を基に,特定標準器と呼ばれる白金抵抗温度計,熱電対,放射温度計を校正する高い拡張不確かさを持つ各種温度定点装置が温度の基準となる。この温度目盛が登録事業者の特定2次標準器の校正器に供給される。温度計の種類により,特定副標準器を所有する日本電気計器検定所を経由する場合と,直接産総研から供給される場合があるが,いずれも校正の実施による不確かさを記載した「校正証明書」によるトレーサビリティがとれた体系である。

次回に続く-

参考文献

1) 山田善郎,“温度(K)についての基礎解説と最新動向”,計測と制御,53-8(2014),p758



【著者紹介】
清水 孝雄(しみず たかお)
株式会社チノー 久喜事業所長 取締役常務執行役員

■略歴
1976年 東京教育大学 理学部応用物理学科卒業
1976年 株式会社千野製作所(現 株式会社チノー)勤務  現在に至る

■著書
・温度計測 基礎と応用(共著,コロナ社)
・ワイヤレスセンサシステム(共著,東京電機大学出版局)