徳島大学ポストLEDフォトニクス研究所(以下:pLED)及び大学院医歯薬学研究部(以下:BMS)による共同研究チームは、日本医療研究開発機構(AMED)による支援のもと、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のRNA/抗原を標的とした新規診断機器の開発」を2020年6月より進めてきた。
この度、最先端の光技術と診断プローブ技術を融合することにより、SARS-CoV-2の簡便・迅速検出が可能な技術を開発し、その成果の一部を第68回応用物理学会春季学術講演会(2021年3月16〜19日オンライン開催)にて発表した。
■研究の背景と研究体制
現在、一般に使用されているCOVID-19診断法は、ウイルスRNAを標的とした「PCR法」。PCR法では、DNA増幅の利用により、高感度である一方で、検査に要する時間、診断正確度、検査技師の熟練度、費用などの問題が指摘されている。このような背景から、簡便かつ迅速にCOVID-19を診断できる手法が望まれている。
徳島大学では、昨春のCOVID-19の感染拡大を受けてその対応に向けた学内連携研究体制をいち早く検討し、先端光技術とその医光融合研究に強みを有するpLEDと、COVID-19に対応可能なバイオセーフティーレベル3(BSL3)実験設備を有するBMSとの協働研究体制を確立した。この協働研究体制は、SARS-CoV-2の「不活化(殺菌)」と「検出」の両方に対応可能であることを特徴としている。SARS-CoV-2の不活化に関しては、深紫外LEDを用いて、不活化に有効な「深紫外光量」の定量化に成功した(2020年10月27日プレスリリース)。
SARS-CoV-2の検出に関しては、AMED「ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)」による支援のもと、pLED、BMS、大阪大学微生物病研究所、(株)カン研究所、医薬基盤・健康・栄養研究所、シスメックス(株)、(株)JVCケンウッド及び神戸大学大学院保健学研究科から構成された産学連携コンソーシアム体制を構築し、協働・協力により、SARS-CoV-2のRNA/抗原を標的とした簡便・迅速診断機器の開発を推進している。今回、pLEDとBMSが主体的に進めていた簡便・迅速な新型コロナウイルス検出法が、研究成果の1つとして創出されたとのこと。
■実証の結果
今回の研究成果では、表面プラズモン共鳴(SPR)と呼ばれる技術を利用している。SPRとは、特定条件の光を入射することにより金属中の電子が集団振動をする現象であり、これを利用するとウイルス等のバイオセンシングが可能になる。しかし、既存のSPRでは、SARS-CoV-2を検出可能なレベルの高感度性を得ることが困難だった。
本研究では、金ナノ粒子を用いた近赤外ナノ・プラズモニクス技術をSPRに導入することにより、センサ表面に光増強場を生成し、大幅な高感度化を実現した。同時に、SARS-CoV-2由来RNA配列に相補な一本鎖DNAプローブを開発し、センサ表面に固定した。このプラズモニックバイオセンサを用いてSARS-CoV-2由来RNAを計測したところ、現在PCR検査に必要とされる鋳型濃度に迫る低濃度領域(10-15モル/L=fM)の計測が、簡便かつ迅速に可能であることが示唆されたという。
■今後の展開について
今回の研究成果等を基にCOVID-19診断機器の基本仕様を確定し、数年以内の製品化を目指す。また、今回の開発技術は、DNAプローブの設計・開発により、SARS-CoV-2だけでなく、変異型SARS-CoV-2や新興・再興ウイルスにも迅速に適用可能であることから、未知の感染症に対する先取対策としても有用であると期待されるとのこと。
■研究予算
採択事業名称:国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)
ウイルス等感染症対策技術開発事業(実証・改良研究支援)
課題分野:「ウイルス等感染症対策に資する医療機器・システム等の改良研究支援」
研究開発課題名: 新型コロナウイルスのRNA/抗原を標的とした新規診断機器の開発
プレスリリースサイト(tokushima-u):https://www.pled.tokushima-u.ac.jp/pressrelease-7/2718/