メラニン前駆体ドーパミンを重合して得られるポリドーパミンで、均一な人工メラニン粒子を作製し、孔雀や玉虫の色を模倣した鮮やかな構造発色を実現。
光と微細構造との光学的相互作用で発現する構造発色は、自然界でしばしば見ることができ、孔雀、玉虫、モルフォ蝶などの色は構造色として知られている。自然界における構造発色においてはメラニンが重要な役割を果たしている。メラニンは人の毛髪や皮膚に色を与えている黒色の色素で、生体内でメラニン顆粒が周期的に配列すると光との干渉により構造色が発現する。黒色のメラニンが散乱光を吸収することで、くっきりとした鮮やかな構造色となる。しかし、メラニンは生体内では酵素反応により作られ、人工的に作製することが困難な素材であった。最近、メラニン前駆体のドーパミンを重合させたポリドーパミンを素材として作製された人工メラニン粒子による構造発色が実現され、注目されている。
Science and Technology of Advanced Materialsに発表された、日本、千葉大学の桑折道済によるレビュー論文 Progress in polydopamine-based melanin mimetic materials for structural color generation は、ドーパミンを用いて合成した人工メラニン:ポリドーパミンによる構造発色の最近の研究をまとめている。また、この人工メラニンを用いた構造色材料の応用を拓くための研究や今後の研究の展開についても紹介している。
構造色は、光の波長に近いサブミクロンサイズの微細周期構造に光が当たることで干渉などにより、特定の色が発色する。しかし、干渉を起こさない光は散乱してヒトの目には白くみえるため、構造色が見えにくくなる。メラニンで構築された微細構造は、メラニンが黒色の材料であるために散乱光が吸収され、くっきりと目立つ構造色を発現することができる。しかし、メラニンを人工的に合成することは困難である。
ポリドーパミンは、メラニンを生成する原料となるアミノ酸誘導体ドーパミンを重合させたものであり、種々の材質の基板への付着性に優れるので、表面改質剤としての研究が進展していた。著者のグループは、ドーパミンを水/メタノール混合液中で重合させると単分散なポリドーパミン粒子が生成することを見出した。ポリドーパミンは天然メラニンとほぼ同じ組成で生体適合性があり、しかもメラニン同様に黒色である。基板上にこのポリドーパミン粒子の分散液をスプレー塗装し、ポリドーパミン粒子を集積させると、メラニン微細構造と同様に構造発色させることができる。粒子表面を磁性界面活性剤で被覆すると分散性が良くなり、しかも磁場を印加することで、色調を変化させることもできる。また、ポリドーパミン粒子の粒子径を変えることでも色調の変化は可能である。
ポリスチレン粒子をコアに、ポリドーパミンをシェルにしたコアシェル型の人工メラニン粒子も研究されている。ポリスチレン粒子からなる微細構造では、散乱光の吸収がないために、ヒトの目には白色に見える。しかし、ポリドーパミンで被覆したコアシェル型の人工メラニン粒子では散乱光をポリドーパミンシェル層が吸収し、明瞭な構造色が現れる。ポリスチレンコア粒子の粒子径やポリドーパミンシェル層の厚みを変えることで色調を変えることができる。
一般に、コロイド粒子は最密充填構造を取りながら堆積する。この様な秩序的集積体による構造色は見る角度により色の変わる、いわゆる虹色構造色になる。一方、コアシェル型粒子のポリドーパミン層を厚くすると、表面が荒れた構造になり、粒子は秩序的に集積できなくなり、アモルファス的に集積する様になる。アモルファス的集積体では、どの角度から見ても同じ色となる非虹色構造色が現れるようになる。
自然界には構造色の元になる微細粒子に種々の形状がある。例えば孔雀の羽毛内部のメラニン粒子はロッド状粒子であり、またある種の鳥たちでは中空状粒子となっている。ポリスチレン/ポリドーパミン・コアシェル型の人工メラニン粒子を用い、これらを模倣した粒子が作製され、粒子形状と構造色の関係が調べられている。楕円状粒子ではアスペクト比の増大に伴い、構造色がブルーシフトし、また、中空状粒子では中空部にポリドーパミン層と異なる屈折率を持つ材質を満たすと構造色が大幅に変化することも認められている。
人工メラニン粒子を用いた構造色材料は、例えば、インクや織物の染色、化粧品などに用いられる可能性がある。また、強い光を当てる、濡らす、温度を変える、などの外部環境により構造色が変化することを利用した偽造防止といった応用も考えられている。ゴムなどのエラストマー中に粒子配列構造を形成すると、エラストマーの伸び縮みに応じて構造色の色調が変化することから、エラストマーに負荷がかかった時、発生する歪みを検出することができるセンサとしての利用も考えられているとのこと。
本誌リンク(オープンアクセス):
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/14686996.2020.1852057