3.光ファイバセンサの研究動向
光ファイバセンサの研究動向を学術文献の発行件数から見てみよう。以後示すデータは、2020年11月末に文献データベースWeb of Scienceで筆者が検索したものである。まず、’fiber sensor’を検索語にして5年間毎の発行論文数を調べた結果が図5である。
検索語を’optical fiber sensor’としても、総数は減るが、傾向は変わらなかった。1990年代から増え始め、現在でも増加が止まらない様子がみてとれる。図中には、1971年から2020年までの総論文数のテーマ別内訳を円グラフで示した。FBGセンサが半数を占めることがわかる。ブリルアンセンサ、ラマンセンサ、DASが同数程度ずつある。ジャイロに関する論文も同じくらいの数である。これらのテーマ毎に5年間毎の論文数をみてみたのが図6である。
テーマの流行りすたりがあると予測したが、結果はどれもほぼ同様に伸びていることがわかった。よく見ると、ジャイロは1996~2000年に小さなピークがある。ジャイロとハイドロホンは1970年代後半から論文が出ているが、その他のものは1990年まではほぼ0である。続いて、被測定量毎の論文数を整理したものが図7である。縦軸の単語を含む1976~2020年の論文の総数として表している。温度が最も多く、次いでひずみである。圧力、化学量、ガスも一定数あることがわかる。
なお、以上の調査は、センシング手法の名称(FBG等)や被測定量の単語(Strainなど)を検索語として検索した結果なので、必ずしもそれが論文の主題になっていたかどうかは判別できていないことに注意して頂きたい。
国ごとの論文数を調べることはしなかったが、実感として、ここ10年間の中国からの論文が急増している。光ファイバセンサはいくつかの国際会議のテーマとなっているが、光ファイバセンサに特化された最も権威があって歴史も長いのが、International Conference on Optical Fiber Sensors(通称OFS)である。表1のとおり、1983年の第1回(ロンドンで開催)から今日まで続いており、規模が年々拡大している。2018年秋に第26回がスイス・ローザンヌで開催され、参加者数600名、論文数371であった。企業展示も30件程度と盛況であった。中国からの参加者や論文が多いが、英国、ドイツなど欧州勢も堅調であり、企業展示には欧州のベンチャー会社が多かった。風力発電、鉄道などへの応用があるようである。2020年6月に第27回が米国で開催予定であったがCOVID-19のために延期されている。現在のところ、2022年秋には日本で開催される予定である。
4.まとめと展望
光ファイバセンサはその特徴を生かして土木用途を中心に利用が広がりつつあるが、実応用のためには、目的に応じた光ファイバの敷設方法の開発、解析装置の低コスト化が課題である。土木応用に加えて、高層建物への応用も期待される。土木・建築インフラ、プラント、工場の管理目的では、センサから時々刻々吐き出される大量のセンシングデータの処理・管理方法も課題である。曲げ分布の正確な測定ができるようになると、配管メインテナンスや内視鏡への応用の道が開けると考えられる。10 m以下の長さの応用には、自動車、機械の開発現場での潜在的需要があるが、それぞれ個別に追加の技術開発が必要なことが多い。比較的ユーザーが増えている分野では標準規格化の動きが国内外である。多くの方に光ファイバセンサの特長を知っていただき、有意義な利用が広がることを期待している。
参考文献
5) 田中哲, OFS-25(第25回光ファイバセンサ国際会議)報告, 第59回光波センシング技術研究会講演論文集, LST59-17, pp. 115-120, 2017年.
6) 田中洋介, 第26回光ファイバセンサ国際会議(OFS-26)報告, 第62回光波センシング技術研究会講演論文集, LST62-17, pp. 125-131, 2018年.
【著者紹介】
中村 健太郎(なかむら けんたろう)
東京工業大学 科学技術創成研究院 教授
■略歴
1992年 東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了 博士(工学)
同年 東京工業大学精密工業研究所 助手
同大学大学院総合理工学研究科・講師、精密工学研究所・助教授を経て2010年1月より同研究所・教授
2016年4月より現職
応用物理学会光波センシング技術研究会委員長 (2014~2016年)、日本音響学会会長(2015~2017年)、光ファイバセンシング振興協会理事長(2015年~)、 日本学術振興会フォトニクス情報システム第179委員会委員長 (2016年~)など