1.光ファイバセンサって何だ?
1970年にコーニング社が伝送損失20 dB/kmの光ファイバを実現したのが実用的な光ファイバ通信の幕開けと言ってよいであろう。その後、理論限界程度までのより低い損失の実現がなされ、また、光ファイバ通信に適した半導体光源の開発も進んだ1)。この光ファイバを、通信ではなく計測やセンシングに利用することもそのころから始まっている。従って、光ファイバセンサ技術の始まりは1970年代であるが、当時は冷戦時代であり、潜水艦探知用の高感度な水中音響センサ用途の開発が米国を中心に盛んであった。一方、光ファイバが低損失(0.2 dB/km程度)なことを利用した長距離測定が可能であること、1本の光ファイバに沿って10 kmを越える距離の分布的連続測定や多点測定が測定点に電力供給せずにできること、電磁ノイズの影響を受けないこと、電気絶縁性・防爆性が高いことなどにより、温度分布、ひずみ分布、電力設備の電流測定などのためにさまざまな原理が考案され、それらの民生応用が発展した2-4)。
光ファイバ温度分布センサはトンネルや化学プラント、工場などの温度管理、火災検知に有効である。ひずみ分布測定は、河川管理、斜面管理、橋梁保全、パイプラインの管理など土木分野でさまざまな応用が進んでいる。土木構造物の施工時への利用も始まっている。石油・ガスの採取現場、風力発電装置の管理などの応用も海外を中心に行われている。また、長い光ファイバをコンパクトなコイル状にし、超高感度な回転速度センサ応用も進展した。MEMS振動ジャイロでは実現不可能な高い感度は宇宙応用、航空応用、高度な姿勢制御などには欠かせない技術となっている。
このように、一口に光ファイバセンサと言ってもさまざまあるが、1月から2月にお送りする解説群では主に温度やひずみの分布を測定するものを中心としている。1月には光ファイバに沿って連続的に分布測定ができるセンサについて、2月には多点型のセンサについて紹介する予定である。本稿では、総論として、光ファイバセンサ技術全体を俯瞰し、また、これまでの研究開発動向を概説する。具体的な原理や応用については次号以降の解説にご期待いただきたい。
2.光ファイバセンサの種類と原理
2.1 光ファイバセンサの分類
光ファイバセンサはいくつかの概念で分類することができる。その1つは図1のように空間分解能の有無で分ける方法である。完全な分布型は光ファイバケーブルに沿って任意の位置の温度なりひずみなりを知ることができ、光ファイバセンサの最も重要な特徴を有している方式である。多点型は光ファイバケーブルに沿った複数の離散点で感度を有する方式である。空間分解能の無いものは、ファイバコイルを用いたジャイロや電流センサ、音響センサである。
以上のセンサは全て光ファイバ自身をセンサとしたものであるが、光ファイバの端部に特別なセンサ機構を設けた単点型センサもある。これは、光ファイバは単なる信号伝送路である。これらを図2にまとめる。
2つ目の分類法は、検出原理によるものである。これは光の位相によるか、光の強度によるか、あるいは光の波長によるかなどで分類できる。光の位相を用いると極めて高感度なセンサとなる。光ファイバジャイロや水中音響センサなどがこれに属し、光の干渉を用いて光位相のわずかな変化を検出する。光ファイバに光を入れると、多くの光はそのまま光ファイバの中を伝搬してゆくが、一部は後方に散乱される。この後方散乱光には、後述のように3つのものがあり、それぞれの強度や周波数の性質を用いた温度やひずみのセンシングが行われる。また、ある波長だけを反射する構造を光ファイバコアに作った光ファイバブラッググレーティング(FBG)は多点型のセンサとして応用例が非常に多い。
2.2 光ファイバセンサの原理
ここでは、分布型と多点型のセンサについて、それらの原理を概説する。光ファイバに光を入射すると、図3のような後方散乱光が生じる。光ファイバのわずかな非均一性により入射光と同じ波長(同じ周波数)の散乱光が発生するのがレーリー散乱である。パルス光を入射して、そのパルスが戻ってくるのに要する時間と光ファイバ中の光速からやまびこの原理で散乱光が発生した位置と光量を知ることができる。これを装置化したものがOTDR(Optical Time-Domain Reflectometry)であり、光ファイバの故障個所の検査など通信メインテナンスに広く用いられている。光ファイバの曲げ損失なども検知できるので、古くからセンシング応用も行われている。近年、レーリー散乱光の位相の変動の分布を測定する技術が開発され、分布型音響センサ(DAS, Distributed Acoustic Sensor)として注目を集めている。極めて高感度な振動検出が可能であり、通信用の既設ファイバを利用した地震波の観測などの報告例が増えており、今後の活用が期待される。
一方、入射光と10~11 GHz周波数がずれたものがブリルアン散乱である。これは伝搬光とそれに波長の合った音響波との相互作用で発生するもので、弱い散乱であるが、光ファイバに加わる引っ張りひずみに応じて周波数が変わるので、ひずみ測定に応用される。0.1%のひずみで50 MHz程度の周波数変化が生じる。1℃当たり1 MHzほどの温度感度もある。光パルスのもどり時間から位置を割り出すものがBOTDR(Brillouin OTDR)として装置化されている。ブリルアン散乱スペクトルの幅(約30 MHz)のためにパルス法では空間分解能を上げられないので、光源に周波数変調をかけた連続光を用いる光相関領域反射法(OCDR, Optical Correlation-Domain Reflectometry)や光周波数領域反射法(OFDR, Optical Frequency-Domain Reflectometry)が考案されている。OCDRでは入射光の周波数を正弦波状に変調して、光ファイバ上のある区間の一点だけで定常的な干渉を起こすことを利用して位置を知る方法である。OFDRは入射光の周波数を鋸歯状波変調すると散乱点までの距離に応じて干渉信号の周波数が異なることを利用するもので、レーダーやライダーでも使われている方式である。これら2方式も製品が存在する。
ラマン散乱は光ファイバの構成分子の熱振動によるもので、入射光に対して10数THzずれている。温度によって強度が変化することを利用して、分布型の温度センサとして古くから応用されている。数~10 kmの距離にわたって空間分解能1 mで1℃程度の温度分解能が得られるものが標準的である。
以上は、通常の光ファイバケーブルをそのまま用いるものであるが、光ファイバコアに軸方向に微細な周期構造を作ったファイバグレーティングを用いると多点センサを構成することができる。特に、図4のように、ブラッグ反射を起こす500 nm程度の周期の数100~1000対のわずかな屈折率変調を作ったFBG(Fiber Bragg Grating)を用いたセンサが多数製品化されている。軸方向に延ばすと主にこの周期が変わり、反射波長が変化する。これによってひずみセンサとして応用できる。
通常のシリカガラスファイバに書き込んだFBGでは、100万分の1のひずみに対して1.2 pmの波長変化を生じる。温度に対しても感度を有し、その値は12 pm/℃程度である。図2(2)のように、周期の異なる複数のFBGを1本の光ファイバ中に書き込めば、光波長によってセンサを識別する波長多重方式の多点センサとして用いることができるのが特徴である。利用できる光波長のバンド幅などを考慮して、1本の光ファイバで20~30点の多点測定が可能である。同じ波長のFBGを多数用いてOTDRなどで各FBGの情報を得ることも考案されている。多くの光ファイバセンサについて言えることだが、ひずみ感度と温度感度をいかに分離して利用するかが応用上の要点であり、いくつかの方法が考案されている。
次回に続く-
参考文献
1) 末松安晴, 伊賀健一, 光ファイバ通信入門, オーム社, 1982年.
2) 藍光郎監修, 次世代センサハンドブック, I編, 9章, 2008年
3) 保立和夫,村山英晶監修, 光ファイバセンサ入門,光ファイバセンシング振興協会, 2012年.
4) 光ファイバセンシング振興協会ホームページ:http://www.phosc.jp/index.html
【著者紹介】
中村 健太郎(なかむら けんたろう)
東京工業大学 科学技術創成研究院 教授
■略歴
1992年 東京工業大学大学院総合理工学研究科 博士課程修了 博士(工学)
同年 東京工業大学精密工業研究所 助手
同大学大学院総合理工学研究科・講師、精密工学研究所・助教授を経て2010年1月より同研究所・教授
2016年4月より現職
応用物理学会光波センシング技術研究会委員長 (2014~2016年)、日本音響学会会長(2015~2017年)、光ファイバセンシング振興協会理事長(2015年~)、 日本学術振興会フォトニクス情報システム第179委員会委員長 (2016年~)など