2.4産業プロセス(食品・薬品・化粧品)、水素利用関連
食品・薬品・化粧品 産業は、いわゆる「三品業界」として圧力計測の特徴から分類できる。
三品業界で使用される圧力計・圧力センサは計測器からの溶出等による汚染がないこと、洗剤や薬品を用いて計測器を洗浄ができること、温度(100℃超える)殺菌処理に耐えられえることが使用する条件となる。また、測定体の液だまりを最小限とし、且つ洗浄し易くするためフラットな受圧部を適用する場合が多い。
この用途で使用される圧力計、圧力センサを示す。
図2-4-1の機械式圧力計はセンサ素子としてブルドン管を用い、シリコンオイルを封入した隔膜構造となっている。
図2-4-2、図2-4-3は圧力センサで三品用途用として以下を特徴付けしている。
いずれも使用するセンサ素子と、素子を固定する設計を工夫することで封入液を使用せずにフラットな金属(ステンレス)製の受圧部を実現。もれの可能性がある封入液を使用しないので、医薬品・食品・化粧品製造プロセスに適した理想的な安全構造である。
加えて、凹凸が革新的に少ない接液面として、良好な洗浄性を実現している。
また、静電容量式のセンサ素子を使用することによって、センサ取付け時の「歪」影響を受けにくく、プロセス現場での設置やメンテナンスが容易に行える利点がある。図2-4-4。
接液面は電解研磨処理の後、不動態化処理を施して、高耐食、且つ清浄な面として不純物汚染がない構造としている。図2-4-5参照。
外装においては、高温の測定体を計測する場合の構造として、従来、放熱フィン形状を使用するが、この構造を工夫することによって、凹凸のない構造を実現すると共に流体計測温度150℃を実現させた。
この結果、外装は平坦となり汚れが付着しにくく、洗浄が容易となる。その結果、高品質なCIP(Cleaning in Place)洗浄が実現できる。図2-4-6参照
近年、脱炭素社会に向けた取り組みとして水素をエネルギーとして利用する産業が拡大しつつある。
通常、水素はガス体として利用されるので、圧力計測による監視、制御、売買が必要となる。
水素を取り扱う場合、腐食性はないが、爆発の危険や材料を脆化させる特性がある。
将来に向けて、安全且つ適正な圧力計測をするための製品とその特徴について解説する。
現在、拡大しつつある燃料電池車に水素を供給する水素ステーション及び水素サプライチェーンには多く圧力計測が必要とされる。
図2-4-7はその水素サプライチェーンの主な施設・設備を示した。
このような施設・設備で使用される圧力計、圧力センサの特徴を示す。
図2-4-8は主に水素ステーション内で使用される圧力計である。
前期したように、水素の爆発性、水素脆化特性に配慮した設計となっている。使用しているブルドン管及び圧力導入部は特殊金属「材料を吟味したステンレスSUS316LまたはHRX19®(XM-19)」を使用し、ブルドン管と圧力導入部の接合は水素用途として工程確立させた特別な溶接方法を用いている。
また、指針を確認する全面には破片が散乱しないセーフティガラスとソリッドフロント構造を設けている。尚、ソリッドフロント構造とは、圧力計背面を低強度(蓋が外れる機構)にすることによって、圧力計内で破裂が発生した場合その後方にエネルギーを開放する構造である。図2-4-9参照。
図2-4-10は水素計測用途で使用される圧力センサである。
この用途には水素ガス計測に特化した圧力検出素子が利用されている。受圧部は破壊靭性の高い金属を用い、且つ水素脆化しにくいステンレス鋼(SUH660)で構成している。圧力検出は感度の高い薄膜半導体歪ゲージをSUH660上に直接形成しているので高安定・高信頼である。また、圧力導入部は材料を吟味したステンレス鋼(SUS316L)を用いている。圧力導入部の接合は水素用途として工程確立させた特別な溶接方法を用いている。図2-4-11参照。
その他、高圧水素用途では防爆規格として「本質安全防爆規格(ExiaⅡCT4)」が求められる場合があり、この規格に適合したセンサが必要となる。
図2-4-10はExiaⅡCT4に適合した構造のセンサである。(図2-4-10右は表示付)
水素計測の安全性実証は歴史も新しく、現在も勢力的研究が進められている中で、水素ガスによる計測器への影響評価は重要となる。
図2-4-8、図2-4-10の計測器は表2-4-1に示した水素ガスに特化した影響評価試験をクリアしている。
尚、図2-4-10に示した圧力センサは表2-4-1を超える条件。
- 動圧試験1000万回をクリアする構造および、耐久性能
- 高圧水素長期引加後の耐圧破壊試験において破壊圧力:700MPa以上/70MPa級用圧力センサ
の実証を済ませている。
2.5半導体製造用設備
これまで、半導体産業は目覚ましい発展を辿ってきた。今般に至っても、パソコンやスマートフォンの需要は継続的に拡大しており、半導体を製造する装置産業も活況を呈している。半導体製造装置は一般産業機械と同様に圧力の計測と制御が必要となる。半導体製造装置の特徴として腐食性または有害及び爆発性ガスや液体を用いたり、高純度のガスや純水を扱うことが多い。従って使用される圧力計、圧力センサも特別な仕様が要求される。
圧力計測用途として、半導体材料ガスなどを扱うガス供給ラインや装置、材料であるシリコン基板を処理する純水や薬液の監視や制御が多い。(この解説ではCVDなどの真空装置に用いる真空計を除く。)
1)ガス供給ライン・装置
本導体製造用材料ガスはモノシラン、ジクロロシラン、ホスフィン、三フッ化ホウ素、フロン-14など腐食性、毒性、爆発性の特性があるものが多く、この計測に使用する圧力計・圧力センサは耐食性、圧力容器としての信頼性(漏れない)、防爆構造 が求められる。また高純度を維持するために計測器からのコンタミを極限まで低減させることが必要となる。
図2-5-1は材料ガスボンベキャビネット内・ガス配管ラインで使用される圧力計である。特徴はガスと接触する部分は全てステンレス材料、且つ溶接構造である。また、高純度用途では、圧力導入部を電解研磨した後に純水洗浄してコンタミを抑制している。
図2-5-2は上記と同用途で使用される圧力センサである。センサに内蔵されているセンサ素子の起歪部材質は複数種類から選択することができ、腐食性ガスに耐性がある高耐食合金(例えばCo-Ni系合金)を用いることもできる。センサ素子に接合している圧力導入部の材質も特殊加工を施したステンレス SUS316Lを用いる場合がある。
また、流体経路内の仕上げ処理(清浄度品質)はその用途によって、GP(General Purpose)、EP(Electro Polishing)、UC(Ultra Clean)を利用することができる。
その他、近年は国際的な防爆規格『IECEx』の取得、及び国内規格、欧州規格『ATEX』の取得を要求される場合が多い。
使用圧力範囲は~1MPa、~20MPaが多く利用され、日本国内ではゲーシ圧力仕様、海外では絶対圧力仕様が利用される場合が多い。
図2-5-3はセンサやバルブなどを省スペースに収納(集積化)するタイプのセンサで、1.125インチ表面実装等の集積化規格に対応している。
図2-5-4は圧力表示を付加させたものである。
図2-5-5は爆発性ガスの計測に対応した本質安全防爆規格に対応した圧力センサである。
図2-5-6は半導体純水装置、ウェハー洗浄機、ウエットエッチング装置など使用される圧力計である。腐食性液体(フッ化水素酸、硫酸、塩酸、過酸化水素酸など)や純水を計測するために耐食性、コンタミ対策の配慮がされている。
この圧力計においては流体との接触部全てが耐食性のフッ素樹脂で構成されている。また、外装はポリプロピレン樹脂として腐食性雰囲気を考慮している。
尚、圧力計の組立はコンタミに配慮してクリーンルーム内で行われる場合が多い。
図2-5-7は超純水用の計測に特化した圧力センサである。接液部はフラット構造として液溜り部を極力抑え、フッ素樹脂膜を多層積層したオールフッ素樹脂構造(図2-5-8)として金属イオン溶出量、コンタミの発生を最小限に抑えている。また、静電容量型のセンサ素子を搭載しており、温度特性に優れている。
図2-5-9は指示部一体型の圧力センサである。4桁デジタル表示、半導体接点出力2点、アナログ出力(電圧または電流)を装備している。
接液部分にOリングを使用しない構造で、コンタミの発生、金属溶出を抑え、薬液を用いる半導体製造装置の圧力監視用途に対応している。外装保護構造はIEC防塵・防水規格 IP54準拠として、ウェットステーション用途の仕様となっている。
【著者紹介】
長坂 宏(ながさか ひろし)
長野計器(株)取締役
■略歴
1982年 株式会社長野計器製作所(現 長野計器株式会社)入社
圧力センサ研究・開発業務に従事
2020年 同社 営業企画本部 取締役 現職