【KRIの物理殺菌ナノ構造技術例:2つの物理殺菌ナノ構造形成プロセス】
KRIがこれまでに開発した物理殺菌構造形成プロセスとその効果の一例をご紹介させて頂く。
下記ナノ構造は安価な無機系の原材料で簡易的に形成できるプロセスで、ポイントは鋭利なナノ構造が形成可能で、且つナノオーダーで形状制御性がある事である。
本技術では基材からナノサイズの突起を成長させるナノ構造成長法と、スパイク状の粒子を形成し、分散溶媒として構造に吹き付けるナノ構造塗布法の2つのプロセスによる物理殺菌構造を形成できる。
これらのプロセスで形成した物理殺菌ナノ構造の菌、カビ不活化効果を評価した一例を示す。
殺菌性能
菌類として、グラム陰性、グラム陽性、真菌類として酵母の不活化効果を評価した。
ナノ構造成長法プロセスを用いて、サイズの異なるナノ構造A、Bの2種作製(サイズ:A<B)し、物理殺菌ナノ構造の有効性、及び形状による不活化効果の差異を下記評価法にて確認した。
比較対象としては、古くから抗菌効果があり汎用的に使われるアルミ無垢材料を用いた。
~評価法~
◆対象:グラム陰性、グラム陽性、酵母
・各菌体濃度を定量した溶液をナノ構造表面に滴下し、30分、60分接液後溶液を採取
・菌溶液を培地に散布してコロニーカウント法による不活化効果の定量評価(数字が大きい程効果が高い)
~評価結果~
アルミ無垢材料に対して、作製した物理殺菌ナノ構造では高い殺菌、カビ抑制効果が得られた。更に、構造のサイズにより有効性が明確に変化していることからもナノ構造のデザインが重要である実証結果であると考える。
カビ抑制性能
次に硬い殻に覆われており、菌類よりも一般的に不活化が困難な芽胞類として最もポピュラーなカビである黒カビ(Aspergillus niger)の成長抑制効果を評価した。
カビ抑制においては、不活化効果のない樹脂(ABS)とその表面にナノスパイク粒子塗布法により物理殺菌構造を形成したサンプルの2種を比較する。
~評価法~
◆対象:黒カビ
・カビ胞子濃度を定量した溶液を構造表面に散布後、栄養、湿度を供給しつつ成長を目視確認
・60日後のカビ成長をナノスパイク層の有無で比較
~評価結果~
図4から、樹脂表面では黒カビの菌糸が樹脂表面を覆いつくす程成長しているのに対し、ナノスパイク粒子表面では菌糸の成長が見られない。胞子の形状も樹脂表面と比べ異形様となっている事が観察できる。不活化が困難なカビに対しても本アプローチが有効である結果が得られた。
【現状の開発状況と今後の展開】
現状の開発状況の1例を示す。
今後の展開としては、昨今の状況を鑑み、ウイルス不活化効果を発揮するナノ構造プロセスの開発を中心に進めている。これまでの菌、カビに比べ遥かに小さい対象であるウイルスに適したサイズのナノ構造を緻密に制御するプロセスの実現がキーポイントと考える。
【研究の応用先募集について】
KRIでは本研究の応用先を広く募集している。
抗菌、防カビ、更には抗ウイルス機能を構造表面に付与したいニーズをお聞かせ頂きたい。
担当者連絡先:w-yoshikawa(a)kri-inc.jp
【著者紹介】
吉川 弥(よしかわ わたる)
株式会社KRI フェロ&ピコシステム研究部
■略歴
・2014 KRI入社
・MEMSや微細加工を主とした研究に従事
・2020 現在に至る
■専門分野・研究テーマ
殺菌技術、MEMS、形状記憶合金、半導体製造装置、プラズマ物理