4. 活用事例
4.1 アルパイン株式会社
『職業ドライバーの眠気・疲労感の解消可能な車室環境の研究』
職業ドライバーの長時間運転時の眠気と疲労感について,運転の阻害にならず緩和する方法が求められている。本研究では,自然で運転の阻害にならない方法としてアロマを研究対象とし,まず脳波の集中度・ストレス度・眠気度を分析して,最も眠気と疲労感の緩和に効果を与えるアロマを脳波から定量的に選出した。結果,脳波からあるアロマが選出出来ることが確認されたため,選出されたアロマの効果を運転環境下で検証した(図3, p < 0。05, N=20)。本結果は学会発表と学術誌発表を通して,学術的な形で発表を行なった4)。
4.2 一般社団法人 日本情報経済社会推進協会
『隠れた観光資源の生体信号からの検証』
外国からの訪日観光客は,日本人が気付いていない魅力を感じているのではないかという視点から脳波を用いた検討・検証を行った。日本人と外国人を被験者として,被験者はカメラ付きの感性アナライザを装着し,スカイツリー・秋葉原・浅草の3箇所を観光した。脳波計に付けたカメラとは別にカメラを各被験者に渡して,興味を持ったものの撮影を依頼した。ガイドに促されて撮影した写真と,自ら撮影した写真を脳波から取得した興味度と照合したところ,興味度が高いときには自ら撮影していることが多いという結果となった。ガイドが撮影を促したのは主にランドマークであったが,それ以外にも脳波から新たな観光資源が眠っていることが示唆された(図4・5)。
4.3 株式会社TVC
『コンビニエンスストアの店頭評価』
コンビニエンスストアでの店頭の評価について脳波を用いた検証を行った。店頭評価ではカメラ付きの感性アナライザを被験者に装着してもらい,店舗で買い物をしているときの脳波を計測した。店頭評価についての様々な検証の中からストレス度に注目した事例として,被験者が買い物をしている際の買いたい商品の欠品がわかった瞬間があった。目的の商品が欠品している際に利用客が感じるストレスについて,感性アナライザで『見える化』することができ,欠品のないストレスが少ない店舗作りの取り組みに繋げた(図6)。また,レジで並んでいる際のストレス度の上昇等の既に感覚的に理解していることも数値により『見える化』することで,店頭スタッフの意識改革に繋げた。
店頭評価では上記のような,『店舗の問題発見』や『スタッフの教育』に感性アナライザを活用している。
5. おわりに
本稿では,生体信号の一つである脳波から感性評価を行う上でまず注目すべき課題とその対処方法を述べた。また,実際に脳波から感性の評価を行うため作成した感性アナライザとその活用事例を紹介した。感性アナライザは,小型脳波計とタブレット端末で計測できるという特徴から紹介した方法以外にも様々な分析が可能となる。今後も人間の感性を考慮したものづくり・製品開発につなげるため,感性評価技術の開発に取り組みたい。
参考文献
4) 荻野幹人, 平林雄太, 満倉靖恵, 中辻晴彦, 齊藤裕晃, 大西佳成, 青木恵, “脳波を用いた次世代自動車車室環境の構築”, Vision Engineering Workshop 2017 (ViEW), pp。 230-235, 横浜, 2017年12月
【著者紹介】
太田 英作(おおた えいさく)
株式会社電通サイエンスジャム 主席研究員
■略歴
2002年4月~2017年3月 株式会社NTTデータMSE
2017年4月~現在 株式会社電通サイエンスジャム