千葉大学先進科学センターの田中有弥助教らは、自然に整列する有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子(注1))用の材料を利用することで、荷電処理を一切要しない『自己組織化エレクトレット』型振動発電素子の開発に成功した。本研究は有機EL材料がエレクトレット(注2)の材料としても有用であることを実証したものであり、発電素子だけでなく、エレクトレットが使用されるセンサ、マイク等のデバイスの作製プロセスを簡略化や、低製造コスト化に貢献することが期待されるという。
この成果は2020年4月20日に科学誌「Scientific Reports」に掲載としている。
より安心・安全な社会を実現するために、ビルやトンネル、橋梁等の人工物や自然環境の現況、人の健康状態といった様々な情報を取得し、それをネットワーク上に送信する無線センサが大量に利用される時代が到来するといわれている。これまで無線センサの電源としては主にボタン電池が利用されてきたが、電池は頻繁に交換する必要があり、また使用後は有害なごみになる。そのため、光や熱、振動といった身の周りにあるエネルギーから電力を得る環境発電(エネルギーハーベスティング)が注目を集めている。エネルギー源によって様々なデバイスが提案されているが、周波数が低い振動で比較的高い出力電圧を得られるエレクトレット型の振動発電素子は特に有力視されている。
一般的にエレクトレットは絶縁体薄膜に荷電処理を行って作製する。例えばポリマー型の絶縁体薄膜には、コロナ荷電が広く普及しており、2 mC/㎡という高い表面電荷密度(注3)が実現されている。しかしながら、コロナ荷電は処理条件の最適化や均一な荷電が困難であり、その他の荷電処理方法も提案されているが、どれも製造コスト増加の一因となっていたとのこと。
この研究成果を用いることで、エレクトレット型の振動発電素子やセンサといった様々なデバイスの製造プロセスを簡略化することが可能となる。またこの研究は有機EL材料がエレクトレットからなるデバイスにとっても有用であることを実証したものであり、将来的には『自己組織化エレクトレット』を利用した新しいデバイスは、電池を使用しない自己給電型環境センサによるハイテク農業やインフラ設備の監視、医療器具の高度化と無線給電応用等へと展開されると期待される。
今後は極性分子の自発的配向機構の解明を目的として研究を進め、自己組織化エレクトレットの高表面電荷密度化、及びさらなる長寿命化を通じて、エレクトレット型デバイスの実用化につなげる予定としている。
注1)有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子
有機発光ダイオード(OLED)とも呼ばれる。有機半導体材料からなり、柔らかくて軽量という特長を有する発光ダイオードのこと。一般的に様々な材料の多層膜で構成される。
注2) エレクトレット
半永久的に電荷、もしくは電気分極を持つ絶縁体。
注3)表面電荷密度
薄膜の表面に存在する電荷量をその表面積で規格化した値。単位面積あたりに表面に存在する電荷量を示す。エレクトレット型の振動発電素子ではその出力電力は表面電荷密度の二乗に比例するため、表面電荷密度はデバイス性能を決定する重要なパラメータである。
ニュースリリースサイト(JST):https://www.jst.go.jp/pr/announce/20200420/pdf/20200420.pdf