1.はじめに
TOTOは、1964年の東京オリンピック開催で湧くホテル建築現場に日本初のユニットバスルーム工法を提案して以来、新しい提案をし続けている。現在国内の浴室には、大別して三つの基本機能が備わっている。一つ目は保温性能を高めた”魔法びん浴槽”、二つ目は速乾性と触感(やわらかさ・あたたかさ)を向上させた”ほっカラリ床”、そして三つ目にヒトの感性(入浴感)を追求した”クレイドル浴槽1)、ファーストクラス浴槽”となっている。加えて近年では心地よさを追求した楽湯機能(ブロー機能)、使用シーンに応じて明るさ変えることが出来る照明技術、さらには、浴室の床を洗浄・除菌するクリーン技術など次々と新しい機能が搭載されている。TOTOの浴室事業は、先人たちから引き継がれた知恵をさらに進化させ、今も浴室の新たな快適さを提案し続け、お客様より好評を頂いている。
本報告では、海外向けに発売された”Flotation tub”(図1)に焦点を当て、研究・開発に活用された、ヒトの感性を可視化する取り組みと湯・水中でヒトを捉えるセンシング技術について紹介する。加えて、なぜ世界に向け湯につかり、心身を休ませる”日本の入浴文化”を発信する必要があったのか?といったところについても、脳血流動態を探る取り組みと合わせて補足・説明する。*同商品は2019年世界最大級の家電見本市(International Consumer Electronics Show:CES)でイノベーションアワード、同年3月にエジソン財団よりエジソンアワード(銅賞)を得ている。
2.ヒトの運動制御と浴槽形状の関係について
ヒトは静かに立っている時でさえ、意識しないレベルで体を調整していることが知られている2)。湯の張られた浴槽内でヒトは、浮力によって体重が免荷された状態となる。そのため、陸上で姿勢を保つ時と同じように、もしくはそれ以上に複雑な姿勢制御を行っていると予想した。そこで、研究当初は、湯水中で静かに姿勢を保つときの浴槽とヒトの接触面を広くすることで姿勢保持のし易さを狙った。結果、従来に比べて接触面を約30%拡大させ、しっかり支える”ゆりかごに包まれたような入浴感”を謳った浴槽を2012年に世に出している1)。
次回に続く-
参考文献
1) 加藤智久., デザインと機能を融合させた浴槽とハンドグリップ, 日本機械学会誌, 116(1135), 374-375, (2013).
2) Kato T, Yamamoto S, Miyoshi T, Nakazawa K, Masani K, Nozaki D.: Anti-phase action between the angular accelerations of trunk and leg is reduced in the elderly, Gait Posture, 40(1), 107-112, (2014)
【著者略歴】
加藤 智久(かとう ともひさ)
TOTO(株)ビジネスイノベーション推進部
■略歴
2005年 TOTO株式会社へ入社
同社総合研究所の主席研究員を経て
2019年10月から、同社ビジネスイノベーション推進部
ビジネスイノベーション推進グループに在籍
■専門分野
制御工学、生体工学、神経生理学
生体医工学会、人間工学会の各会員
現在、米国シリコンバレーにて新技術・新事業の探索活動に従事
博士(工学)