高性能ネオジム焼結磁石はスマホ、携帯電話、パソコン、工業用モータ、ロボット、EV(電気自動車)、HEV(ハイブリッド自動車)、風力発電等に幅広く使用されるようになった。このネオジム焼結磁石に関しては他の文献や資料に数多く紹介されているので今回は割愛させて頂く。ご興味のある方は著者にメールにてお問合せ頂ければ幸いである。
ここでは新規に研究開発され今後アクチュエータや環境発電あるいは3次元磁気センサ用途として期待されている永久磁石エラストマーをご紹介してみたい。
永久磁石エラストマーは永久磁石粉末とゴムやシリコーンゲルのような弾性体を混合して加熱硬化させた高粘弾性特性を有する新規な磁気機能永久磁石材料の事である。磁性エラストマーの研究に関しては既に鉄粉とシリコーンゲルを混合させて作成された報告があるのでそちらを参照頂きたい。1)、2)
ところがこれら磁性エラストマーは鉄粉を磁化させるために電磁石等の磁場発生源が不可欠であった。今回研究開発された永久磁石エラストマーは既にそれ自身で磁化を保持(これを保磁力という)しているので特別な磁場発生源が不要な事が最大の特徴である。つまり永久磁石エラストマーはこれ単独で外部電源が不要なデバイスになりえるという事である。簡単なエラストマーの模式図を以下に示す。
永久磁石エラストマー(以下エラストマートと呼ぶ)の作製
永久磁石粉末としては市販のボンド磁石用のネオジム磁石粉末(例えばマグネクエンチ社、MQFP- 14-12-20000-089)等を用い、磁性粉末の分散性を良くするため約5μ程度の平均粒径のものを選定した。高粘弾性を有する弾性体としてはシリコーンゲル(ジャパンモーメンティブ社TSE3062)等を使用した。まずネオジム磁石粉末をシリコーンゲルに入れてよく混合、その際真空脱泡機で脱泡処理を行う。次に試料容器近傍にネオジム磁石を設置し印加磁場下で試料容器にこの混合スラリーを投入し加熱硬化させた。硬化処理して常温まで放冷し、最後にパルス磁場装置等で着磁してエラストマーが完成する。今回は試料容器をφ18mとし得られたエラストマーは図に示す約φ18x18mmの円柱状の形状で作製した。試料容器形状を変えれば立方体、直方体、円盤状等任意形状のエラストマーの作製も可能である。なお着磁方向は今回試料の円柱軸18mm方向(z)に行った。
ネオジム磁石粉末の量を多くすればエラストマーから外部に出る磁束を増大出来るため磁場の強さの点では磁石粉末は多い方が良い。しかしネオジム磁石粉末を多くすると高粘弾性特性が低下するので大きな変形が困難となりかつ機械強度も若干低下する。用途やエラストマーの寸法&形状にもよるが磁場強度と高弾性性能を両立させるネオジム磁石粉末の重量比はおおむね50-70重量%が最適であった。
次回に続く-
参考文献
1) Tetsu Mitsumata and Noriyku Abe, Chemistry Letters Vo.38, No9 (2009)
2) Vinh Quang Nguyen, R.V. Ramanujan, Macromol, Vol.216, No.6 (2010)
3) 竹内、岩本、出口、井門、藤井、山崎、山口、MAGDA講演会予稿集, (2016)
【著者略歴】
山本 日登志(やまもと ひとし)
(株) KRI フェロ&ピコシステム研究部
■略歴
九州工業大学電気工学科 (1970-1974)
九州大学大学院電気工学科修士課程、博士課程 (1974-1979)
住友特殊金属(1979-2006)、工学博士取得 (1980)
日立金属 (2007-2009)
KRI (2010-現在に至る)
国内登録特許件数;永久磁石材料、製造方法、磁石応用関連で約120件以上
国際規格IEC/TC68の永久磁石国際規格主査 (1998-2002, 2006-2008)
JEITA(電子情報技術協会)マグネット技術委員 (1998-2008)
NEDO「フライホイール電力貯蔵用超電導軸受け技術開発」委員(2003-2006)
世界人名辞典 “Who’s who in the world” に日本人永久磁石研究者として初掲載 (2006)
■専門分野・研究テーマ
永久磁石材料、磁石材料応用技術、磁性材料全般、磁気計測