モーションキャプチャ技術とその応用分野(1)

石原 範子(いしはら のりこ)
(株)スパイス
モーションキャプチャ事業部 執行役員
石原 範子

1.モーションキャプチャとは?

モーションキャプチャは人やモノの動きをデジタルデータにする技術で、CGキャラクターのアニメーション付け、スポーツ選手の動作解析、ロボットやドローンのリアルタイム制御など様々な分野で活用されている技術である。
モーションキャプチャシステムはその方式の違いにより、光学式・慣性式・ビデオ式などがある。

1.1 光学式システム

光学式モーションキャプチャシステムは複数台のカメラを使ってマーカーの位置をトラッキングするシステムである。位置精度が高く、現在最も幅広い分野で活用されている。

図1 全身のモーションキャプチャのイメージ(左)とOptiTrackモーションキャプチャシステム基幹ソフトウェアMotiveの画面(右)
図1 全身のモーションキャプチャのイメージ(左)と
OptiTrackモーションキャプチャシステム基幹ソフトウェアMotiveの画面(右)

1.2 慣性式システム

慣性式モーションキャプチャシステムは、体に装着した慣性センサから得た加速度・角速度・方位の情報を骨格モデルに当てはめることで体の動きを計測するシステムである。

図2 NANSENSEモーションキャプチャシステムを装着した人物とNANSENSE Studioソフトウェア画面

慣性式モーションキャプチャシステムは、体に装着した慣性センサから得た加速度・角速度・方位の情報を骨格モデルに当てはめることで体の動きを計測するシステムである。

図2 NANSENSEモーションキャプチャシステムを装着した人物とNANSENSE Studioソフトウェア画面

1.3 ビデオ式システム

ビデオ式モーションキャプチャシステムは複数台のカメラを使って人の動きをトラッキングするシステムである。マーカーレスでも計測が可能で、精度を求めるときにはマーカーを付けて計測することもできる。

1.4 モーションキャプチャシステム方式の違いによる比較

  光学式 慣性式 ビデオ式
仕組み 複数の赤外線カメラで対象に取り付けたマーカーの位置を計測。 対象に取り付けた慣性センサの姿勢を計測。 複数のビデオカメラで対象のシルエットを読み取る。
位置精度 ※1
リアルタイム性
キャプチャ対象 人、物 人、物
キャプチャ人数※2 複数可能 1人 複数可能
専用空間 必要 不要 不要
セットアップ カメラ設置、スーツ・マーカー装着 スーツの装着 カメラの設置
弱点 遮蔽物によるマーカーの欠落 磁場の影響によるデータの歪み 背景色と同化することによる誤認識

※1 ソフトウェアにも依存。 ※2 1システムあたりで同時にキャプチャできる人数。 表1 モーションキャプチャシステム方式による比較表


2.様々な分野で活用されるモーションキャプチャシステム

モーションキャプチャシステムは古くは人体の動作計測(スポーツ、歩行、リハビリテーションなど)などで使用されるようになり、より手ごろな価格で入手できるようになると、物体の動作計測・制御(精度検証、ドローン制御、ロボット遠隔操作など)、VR・AR・MR(シミュレーション、教育、VRアトラクションなど)、CGアニメーション(ゲーム、アニメ、映画など)など様々な分野で活用されるようになった。

2.1 人体の動作計測

歩行分析やスポーツ選手の体の使い方など人の動きを解析するためにモーションキャプチャシステムが使用されてきた。伝統芸能や人間国宝など後世に残したい技術を伝承するために三次元化された人の動きをデジタルアーカイブする、あるいは工場の作業者の負担を無くすラインの設計を検討するため、データを収集するなどでも活用されている。

2.2 物体の動作計測

リアルタイムで遅延なく計測できるようになり、モーションキャプチャはドローンやロボットアームのリアルタイム制御でも使用されるようになった。また人体以外の動作計測として動物の動作計測の事例もある。

図3 Motiveソフトウェアで計測中の画面
図3 Motiveソフトウェアで計測中の画面
図4 モーションキャプチャデータを馬のCGに流し込む様子
図4 モーションキャプチャデータを馬のCGに流し込む様子

2.3 VR・AR・MRでの応用

VRゴーグル、体験者の手、道具などの物体にマーカーを付け、その三次元的な位置・姿勢リアルタイムにVR空間へ反映するのにもモーションキャプチャシステムが使用されている。

図5 ヘッドマウントディスプレイ(以下、HMC)を装着した人がバーチャル空間内の物体と同じ現実世界の物体を操作する様子。
図5 ヘッドマウントディスプレイを装着した人がバーチャル空間内
の物体と同じ現実世界の物体を操作する様子。

全身のみならず、手指の繊細な動きもキャプチャできるグローブタイプのモーションキャプチャシステムを使用し、VR空間でシミュレーションすることもできる。この事例では、位置精度が高く、また遅延なく計測できなければ実現できないコンテンツである。


2.4 CGアニメーションでの活用

ゲーム・映画等のCGアニメーションをアニメータが手付け作業すると莫大な時間がかかる。短期間でより多くのアニメーションを制作するためモーションキャプチャシステムが使用される。



次回に続く-



【著者紹介】
石原 範子(いしはら のりこ)
株式会社スパイス
モーションキャプチャ事業部
執行役員

■略歴
2003年、株式会社スパイス入社。モーションキャプチャシステムがエンターテイメント向けに使用され始めた黎明期よりユーザーとしてシステムを使用してきた同社に入社後、20年にわたりモーションキャプチャの輸入販売に従事。光学式・機械式・慣性式など数多くの方式のモーションキャプチャシステムを取り扱い、一部製品については製品開発にも参加。