高速度カメラとイメージセンサ(1)

(株)ナックイメージテクノロジー
執行役員
小熊 和彦

1.はじめに

 目にも留まらぬ速さ、まさに人間の眼で識別できないものを見てみたい欲求を満たすことは高速度カメラの役目である。高速度カメラとは1秒間に何枚の映像を撮影できるかを表す「撮影速度」が高いカメラのことである。スポーツや広告などの制作分野、また産業機器、車の衝突試験、燃焼、溶接、宇宙開発、医療などの計測分野、これら多様な撮影に活躍している。
 高速度カメラはフィルム式と電子式の2種類がある。1870年代、馬の疾走を複数台のカメラで捉えたEadweard Muybridgeに始まり、20世紀までフィルム式は主流であった。それから約100年後の1970年代、撮像管とビデオテープを用いた電子式が初めて登場した。その後、撮影速度が上がるにつれて、高速度カメラは大容量の半導体メモリに映像を記録するようになった。
 ここでは、1回に数千コマ以上の連続した映像が撮れるカメラと使われているイメージセンサについて説明する。撮影速度はおおよそ100~1,000,000コマ/秒(以下fpsと略す)である。1,000,000 fps以上の撮影が可能なカメラは10コマ前後の記録に限られる。最大でも約100コマである。イメージセンサのタイプは異なるので本稿では触れない。

2.高速度カメラの歴史

 高速度カメラに使われた、初期のイメージセンサから現在のCMOSイメージセンサに至るまでの歴史について述べる。図1は弊社の高速度カメラの歴史を示している。縦軸は速さ(ピクセルレート)で「画素数x撮影速度」を指標とした。横軸は年代である。高速度カメラは何故CMOSイメージセンサを必要としたかが分かる。

2.1 2000年以前

 2000年以前は、高速度カメラは市販のイメージセンサを利用するしかなかった。そして、この時代のイメージセンサ(撮像管、MOS、CMD、CCD)はすべて画素順次信号処理の構造であり、信号出力は1本だった。図2はCMOSイメージセンサを信号処理の構造によって分類した図1) だが、これらセンサは (a) の構造に当てはまる。撮影速度はどれだけ速く各画素の信号処理をして出力できるかによって決まる。弊社は独自の読出しと信号処理あるいは光学系の工夫で高速化を実現したが、ピクセルレートは0.1 Gpixel/secが限度だった。これ以上の撮影速度を得るにはCMOSイメージセンサの出現が必要であった。

2.2 2000年以降

 1990年代の半ば、Dr. Eric FossumがPhotobit社を、ヨーロッパではimec出身者たちがFillfactory社を創立し、CMOSイメージセンサの開発・製造を始めた。構造の特徴を生かして、センサは信号出力を複数本持つことでピクセルレートを飛躍的に向上させた。
 弊社のカメラもピクセルレートは1桁上がり、2001年に1280×1024画素、1,000 fpsの製品が完成した。このセンサは水平方向(1行)の16画素の信号を同時に出力でき、信号出力は16本、10 bitのデジタルである。構造は図2 (b) の列並列信号処理である。高速化できた理由は次の3.1項で述べる。2000年以降、各社は映像信号をいかに同時に沢山出力して撮影速度を上げられるかの技術開発に努力している。
 なお、Photobit社とFillfactory社は現在存在しないが、これら会社の出身者達は新たな会社で市販品やカスタム品の高速度イメージセンサの開発を続けている。

図1 高速度カメラの歴史
図1 高速度カメラの歴史
図2 CMOSイメージセンサの構造
図2 CMOSイメージセンサの構造
図3 列並列信号処理の一例
図3 列並列信号処理の一例


次回に続く-



参考文献

1)  映像情報メディア学会編;「CMOSイメージセンサ」、コロナ社



【著者紹介】
小熊 和彦(おぐま かずひこ)
株式会社 ナックイメージテクノロジー 技術部 執行役員

■著者略歴
1976年 名古屋工業大学電子工学科卒業
1977年 株式会社ナック(現ナックイメージテクノロジー)入社、技術部
高速度カメラ、高速度イメージセンサの開発に従事