「分布型光ファイバひずみセンサ建設分野向けマニュアル」を発刊

特定非営利活動法人
光ファイバセンシング振興協会

光ファイバセンサのさらなる社会実装に向けて
 小型軽量、長寿命、防爆性、耐電磁ノイズ、長距離伝送容易など多くの特長を有する光ファイバセンサは、社会インフラのセンシング手段として期待されてきた。特に、分布型光ファイバひずみセンサは、光ファイバ全長にわたって情報が得られる稀有な手段で、長大構造物の網羅的な挙動把握が可能である。これまでにも、建設分野において社会実装が進みつつある事例もあるが、これらは分野内における一部のアプリケーションに過ぎず、広く社会に浸透しているとは言い難い。その展開の障害のひとつとして、分布型ひずみセンサに対する理解が広く得られていないことが挙げられる。
既往文献や報告書のなかには、分布型光ファイバセンサの基本事項に触れたものもあり、ユーザーの理解を促すものであるが、幅広い展開を加速する手段とは言い難い。展開を進めるひとつの手段としては、技術標準などの整備が必要である。しかし、分布型光ファイバセンサのうち、温度センサについてはIEC(国際電気標準会議)による規格文書が発行されているものの、ひずみセンサに関する標準は存在せず、拠り所となる新たな技術的文書が求められている。
そこで、分布型光ファイバひずみセンサの更なる社会実装を目指し、「建設分野における分布型ひずみセンサ導入のためのマニュアル」を作成、発行した。

様々なプレイヤーが一同に会してワーキング活動
マニュアル作成にあたり、特定非営利活動法人光ファイバセンシング振興協会内の「資格・認定・標準化委員会」に、マニュアル作成ワーキング(WG)を設置した。同協会は、光ファイバセンサの普及・啓発および推進などを目的とした機関で、企業などの団体会員および個人会員から構成される。有志のWGメンバーを募り、計13機関からの28名でマニュアルを作成した。メンバーは主に測定器やケーブルメーカーなどのサプライヤー側からの参加者が中心であるが、建設コンサルタントやゼネコンなどの参加者が1/3程度であった。2020年6月のキックオフ以降、リモートでの打合せを概ね毎月開催し、マニュアル記載内容の検討などを行った。

誰でも簡単に導入できるためのマニュアル作り
本マニュアルの章立ては、初学者でも分布型光ファイバひずみセンサを適切に導入できるような構成とした(図1)。第1章は同センサの概説、第2章では導入するためのフローを示し、目的に応じた計測方式・光ファイバセンサケーブルを選択して、同センサを導入できるような内容を記載した。さらに、第2章には同センサに特有の留意事項を付記した。第3~4章では適用事例、第5章では語句の定義とともに、付記すべきと考えられる事項を記載した。合わせて、マニュアル記載技術の問い合わせ先と、参考資料を巻末にまとめている。

図1 マニュアル表紙と目次
図1 マニュアル表紙と目次

マニュアルの冒頭では、分布型光ファイバひずみセンサの概説として、光ファイバの特長や種類、分布型センサを実現する散乱光など、初学者向け資料として必要な事項についてコンパクトにまとめている。さらに、実務上必要な最低限の事項として、光ファイバコネクタの種類や、コネクタ脱着の際の留意事項(端面の清掃など)について記載した。
実際に分布型光ファイバひずみセンサを導入するにあたっては、目的に応じて適切な計測方式や光ファイバセンサケーブルなどを選択することが重要である。例えば、施工管理においてはその結果をフィードバックするために短い測定時間の計測方式が求められること、維持管理においては長期耐久性を有する光ファイバセンサケーブルと設置方法が求められることなど、計測目的によって要求性能が明確化できる。そこで、与条件に基づき、図2に示すフローで同センサを導入することを推奨している。はじめに、計測の目的をはっきりさせることが重要である。その対象や要求性能をもとに、光ファイバセンサに求められる仕様や適用期間などが決められる。次に、目的に応じた計測方式と光ファイバセンサケーブル、さらには実施体制などを決定する。また、必要に応じて、システム化や性能検証を行う。そして、決定されたシステムをもとに、光ファイバセンサケーブルを敷設し、測定、評価を行う。

図2 導入フロー
図2 導入フロー

分布型光ファイバひずみセンサには、ブリルアンあるいはレイリーと呼ばれる散乱光が異なったり、散乱光の位置特定方法が異なったりと、特徴が異なる計測方式が数多くある。マニュアル内には、各計測方式の簡単な原理とともに、代表的な測定器の仕様などについて記載した(図3)。

図3 様々な計測方式
図3 様々な計測方式

測定目的や対象構造物、期間などによって、最適な光ファイバセンサケーブルを選択する必要がある。マニュアル内には、図4に示す代表的な光ファイバセンサケーブルの仕様などについて記載した。

図4 様々な光ファイバセンサケーブル
図4 様々な光ファイバセンサケーブル

その他に、同センサ適用の際に留意すべき以下の事項についても記載している。
■ブリルアン方式とレイリー方式:分布型光ファイバひずみセンサの計測方式は、ブリルアン散乱光またはレイリー散乱光を用いるふたつに大別できる。本センサの特性を理解するうえで重要であることから、その原理の違いを記載している。
■ひずみ係数の取得試験:測定器から得られるデータは散乱光の周波数変化であり、係数を乗じてひずみを算出する。ひずみ係数は光ファイバセンサケーブルによって異なり、その試験方法について記載している。
■ケーブル敷設時の確認:光ファイバを設置した段階では、現場での位置と光ファイバ上の位置の関係性がはっきりしていない。そのため、光ファイバセンサケーブル部の任意位置を加温するなどの変化を与え、現場での位置と測定器を原点とする光ファイバ上の位置の関係性を確認する必要がある。一般にマッピングと呼ばれるこうした位置確認作業について記載している。
■温度補償:本センサは、ひずみだけでなく温度の影響も受ける。ひずみ変化だけを測定するためには、温度補償が必要である。そのためには、温度用光ケーブルを併設する方法が一般的であり、その方法を記載している。
■データ取得:計測頻度や期間:計測目的によって、測定器を常設して連続計測する場合や、定期的に測定器を搬入して計測する場合などがある。特に常設の場合、電源や使用環境などに留意しなくてはならない。こうした留意事項についても記載している。
■システム化:測定器をより有効に活用するために、光スイッチで複数の光ファイバセンサケーブルを測定したり、アプリケーションサーバを併設して遠隔から監視したりすることも考えられる。分かり易いかたちでデータを示すために必要なデータの加工や表示、システム化について記載している。

豊富な適用事例も掲載
本マニュアル内には、類似事例導入時の参考となるよう分布型光ファイバひずみセンサの様々な適用例を紹介している。コンクリートへの適用例として、ひび割れ検知、ひずみモニタリング、PCケーブルの張力監視の三例を、また土工構造への適用例として、補強土の安定性モニタリング、道路舗装、グラウンドアンカーの張力監視の三例をそれぞれ記載している。
グラウンドアンカーはテンドン(緊張材)を用いて地山を安定化するもので、所定の引張り力が導入、地盤に伝達されていることが重要である。導入フローに応じて、その目的と、要求される空間分解能や測定精度から、計測方式(BOTDR)と光ファイバセンサケーブル(建材一体タイプ)を決定した。そうした経緯や、実際の導入と運用、測定結果などを写真や図を多用しながら掲載しており、同様の測定対象を検討している読者にとって大変有益な内容となっている(図5)。

図5 グラウンドアンカーの計測作業
図5 グラウンドアンカーの計測作業

今後に向けて
分布型光ファイバひずみセンサは、安全で高品質な施工管理、あるいは効率的な維持管理などに資するセンシング手段として、建設分野において広く展開が期待されている。その特徴や留意点などをとりまとめて、導入の手助けとなるマニュアルを作成した。本マニュアルは、光ファイバセンシング振興協会のホームぺージから誰でも無料でダウンロード可能であるため、ご興味ある方々に是非ご一読頂ければ幸いである。
今後、新たな適用事例を追加、改訂を行うなどして、本マニュアルの継続したブラッシュアップを続ける予定である。さらに、“分布型“だけでなく、“ポイント型”センサに関するマニュアル作成に取り組んでおり、さらなる展開加速の一助としたい。

図6 マニュアル発行のチラシ
図6 マニュアル発行のチラシ


問い合わせ先
特定非営利活動法人光ファイバセンシング振興協会
〒104-0061 東京都中央区銀座6丁目13-16 ヒューリック銀座ウォールビル7階
電話:03–6869–5738
ホームページ:https://www.phosc.jp/