フラウンホーファー研究機構・日本代表部の活動及びセンシング関連研究の紹介(1)

林田一浩
フラウンホーファー日本代表部
アシスタントマネージャー

1.はじめに

フラウンホーファー研究機構はヨーロッパ最大の応用研究機関であり、ドイツ国内に点在する75の研究所および研究ユニットでは「社会に役立つ実用化のための研究」をテーマに、あらゆる科学技術分野において応用研究を行っている。フラウンホーファー日本代表部はフラウンホーファー研究機構の日本における窓口として、日本企業等の研究パートナーのニーズに応えるべく多彩なサービスを提供している。また、センシング分野ではResearch Fab Microelectronics Germany (FMD)の活動が近年特筆される。フラウンホーファー研究機構の概要、日本での活動やご協力可能性に加え、FMDの概要やセンサシステム、MEMSアクチュエータ関連の研究内容を紹介する。

2.フラウンホーファー研究機構

フラウンホーファー研究機構は、産業に直接役立ち、社会に貢献する応用研究を行う研究機関として1949年に設立された。フラウンホーファーの名称は、太陽光のスペクトルにおけるフラウンホーファー線を発見した科学者であり、発明家や企業家でもあったヨーゼフ・フォン・フラウンホーファー(1787 – 1826)にちなんでいる。

図1 ミュンヘンのフラウンホーファー研究機構本部(©Kai-Uwe Nielsen / Fraunhofer)

現在では約3万人のスタッフと、ドイツ全土に75の研究所や研究ユニットを抱える欧州最大の応用研究機関である。年間研究予算は総額28億ユーロ(約3450億円)にのぼり、そのうち24億ユーロ(約2922億円)が委託研究により賄われている。委託研究の約70%以上は、企業からの委託研究やドイツ連邦・州政府、EU等の財源による公的プロジェクトである。企業からの委託研究収入、公的プロジェクト収入、ドイツ連邦・州政府からの拠出金がそれぞれ約3分の1ずつを占めており、これがいわゆる「フラウンホーファーモデル」の特徴である。このように、公的資金と民間資金の双方によって支えられる「半官半民」の非営利団体(NPO)である。各研究所レベルでは、研究・運営面で研究所毎に独立した運用がなされており、委託研究のうち約25%~55%を産業界の企業からの委託研究が占める構造になっている。企業からの委託割合が多いほど、成績が良く独立性の高い研究所として評価される。社会に貢献する応用研究を行い、経済の競争力を強化するのがフラウンホーファー研究機構のミッションである。

全75の研究所や研究ユニットでは、主に6分野(健康・環境、安全・セキュリティ、モビリティ・交通、エネルギー・資源、生産・サービス、コミュニケーション・知識)に関するさまざまな研究を行っている。2021年には「フラウンホーファー戦略的研究領域(Fraunhofer Strategic Research Fields)」を策定し、人工知能(AI)、デジタルヘルスケア、バイオエコノミー、資源の効率化・気候技術、水素技術、量子技術、次世代コンピューティングの7分野を重点的に取り組むべき研究領域として位置付けた。

各研究所は基本的に全10のフラウンホーファー・グループのうち研究分野に関連する1グループに所属している。センシング関連でも、マイクロエレクトロニクス・グループに11研究所が所属する。また、約20の研究テーマ毎に関連する研究所がグループ横断的に所属するフラウンホーファー・アライアンスもあり、さまざまな専門知識を有する研究所や研究部門が連携している。ただし、先述のように各研究所は研究・運用面でそれぞれ独立しているため、グループやアライアンスのそれぞれで各研究所間の健全な競争も見られる。

大学における基礎研究と産業をつなぐ「橋渡し」としての機能もある。例えば、フラウンホーファー研究所の所長は基本的に大学教授を兼務しており、学術界とも強く融合している。このため、学生や大学院生が大学に籍を置いたまま、研修や博士論文執筆のために研究所に勤務することもある。また、研究所に勤務する学生が民間企業からの委託研究を通じて産業界との協業経験を積み、のちに民間企業に進んでフラウンホーファーへの研究委託元になることもある。人材流動性も比較的高く、例年約10%の研究者・科学者が産業界や学界に移り活躍している。さらに、産業界には委託研究という形で優れた科学的知見を組み合わせたニーズ主導の研究開発サービスを提供している。このように、応用研究を通じて学術界と産業界の間の「イノベーションギャップ」を橋渡しするのがフラウンホーファーの重要な役割である。図2のように、基礎研究を1とし、量産を9とする技術成熟度レベル(Technology Readiness Level :TRL)で見ると、主にレベル4~6前後の研究を手掛けることが多い。

図2 「イノベーションギャップ」を橋渡しするフラウンホーファーモデル(© Fraunhofer)

3.日本代表部の活動

図3 フラウンホーファー日本代表部
(© Fraunhofer)

フラウンホーファー日本代表部は2001年、フラウンホーファー研究機構の日本における拠点として東京・赤坂のドイツ文化会館内に開設された。開設以来、日本の企業、大学および公的機関等の研究パートナーとドイツの各フラウンホーファー研究所をつなぐ窓口として、次のようなさまざまな活動を行っている。

  • 研究分野と適合する研究所のマッチング
    フラウンホーファー内の幅広いネットワークを活用し、お客様の委託研究ニーズに最も合う技術や研究所、研究者をご紹介している。
  • NDA、契約締結などの段階におけるサポート
    日本のお客様とドイツの研究所との委託研究プロジェクトサポートの豊富な経験に基づき、NDAや委託研究契約締結時のサポートを提供している。
  • テレビ会議、電話会議での研究プロジェクトのサポート
  • ドイツの研究所に訪問するお客様のサポート
    具体的な委託研究プロジェクトに関してドイツのフラウンホーファー研究所をご訪問されるお客様向けに、研究者とのアポイントメントのアレンジを行っている。
  • 日本での展示会やワークショップ・セミナーなどを通じた情報発信
    フラウンホーファー各研究所ではワークショップやセミナー の開催のほか国内展示会への出展を行い、ドイツから届いた最新研究開発動向のご紹介や研究者と直接議論できる場を 提供している。
  • ウェブサイトやニュースレターなどでの情報発信
    ウェブサイト(www.fraunhofer.jp)や月一回配信のニュースレターを通じて、ドイツから届いたフラウンホーファー関連のニュース、各研究所で行われている最新の研究開発成果や、日本でのイベント情報、展示会出展情報等を発信している。

また、2012年には東北大学内に「NEMS/MEMSに関するデバイスおよび製造のためのフラウンホーファー・プロジェクトセンター」が設置され、フラウンホーファーENAS(エレクトロ・ナノシステム研究所)と東北大学工学部の研究者がNEMSやMEMSに関するデバイス、その製造について共同研究を行っている。2018年には東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)とフラウンホーファーENASとの間で学術交流協定が更新され、より緊密な連携のもとに研究協力が進行中である。

現在、フラウンホーファーは日本国内の企業様等より年間約21億円の委託研究を頂いている。近年のオープンイノベーションへの関心の高まりを受け、フラウンホーファーと日本のお客様との関わりも年々増えている。コロナ禍前の2019年には、約330件の問い合わせと100件のフラウンホーファー研究所への視察訪問があった。

日本企業等のお客様との主なご協力可能性としては、図4に示す4つのパターンがある。フラウンホーファーでは、お客様のニーズに応じた委託研究を主に行っている。お客様から日本代表部に研究希望テーマや内容等の問い合わせを頂き、ご関心に適合する研究所をマッチングしてご紹介している。プロジェクトベースの契約が基本で、内容や期間はケースバイケースであるが、半年~1年前後のプロジェクトも多い。また、委託研究の枠内で委託元の研究者がフラウンホーファー研究所に一定期間滞在する形で共同研究を行うこともあり、日本企業研究者の受入実績もある。さらに、コンサルティングや市場調査、ワークショップの形でプロジェクトを受託するケースもある。

図4 フラウンホーファーとのご協力可能性(© Fraunhofer)

次回に続く-


【著者紹介】
林田 一浩(はやしだ かずひろ)
フラウンホーファー日本代表部 アシスタントマネージャー

■略歴
2016年、慶應義塾大学法学部政治学科を卒業。大学卒業後、フラウンホーファー日本代表部に勤務。
2018年からアシスタントマネージャーとして、委託研究プロジェクトサポート・コーディネートおよび広報を担当。