FBGセンサとその応用(1)

長野計器(株)
生井 貴宏

はじめに

ここでは、光ファイバセンサの中でも多点型の代表格とも言えるFBGセンサの適用事例を中心に紹介する。先ずは、土木構造物のモニタリング分野への適用である。道路橋梁に対して義務化されている5年に一度の全数点検は、1巡目を終え既に2巡目に入っているが、点検の効率化や定量化などの課題が明らかになる中で、2019年に道路橋定期点検要領が改訂され、支援のための新技術導入の余地が広げられた。コスト等での課題はあるものの、FBGセンサを始めとする光ファイバセンサが橋梁点検に活用される環境が、急速に整ってきたと感じている。

次に紹介するのは、船舶におけるモニタリング分野への適用事例である。造船、海運などの海事産業にもDX(デジタルトランスフォーメーション)の波が急速に押し寄せており、中でも自動航行船については、主要各国で激しい開発競争が繰り広げられている。センサやモニタリング技術は、DXの要となる技術であろうが、中でも船体構造の応答をモニタリングするシステムにおいては、FBGセンサが有力な候補になると考えている。

1.FBGセンサとは

光ファイバセンサには、異なる原理に基づく幾つかの方式が存在し、それぞれに適した用途は異なる。光ファイバでひずみを計測するという手法で言えば、光ファイバに沿って連続した一定区間毎のひずみや温度の分布を計測する分布型と、局所的なひずみや温度を計測するポイント型に分類でき、分布型で代表的なものはBOTDR方式であり、ポイント型で代表的なものは光ファイバ内にグレーティング(回折格子)を有するFBG(Fiber Bragg Grating)方式である。FBGセンサは、光ファイバの導波路であるコアの一部にグレーティング(回折格子)を製作したものであり、図1に示すように、その反射光はグレーティングピッチΛ(格子間隔)と屈折率nに比例する。屈折率と格子間隔は光ファイバの温度とひずみによって変化するため、温度センサやひずみセンサとして用いることができる

図1 FBGセンサの構造と反射光の波長
図2 FBGセンサの波長変化

2.変換機構

図3 FBG傾斜センサの構造

測定対象物の表面にそのままの形で接着するなどし、ひずみセンサとして使うことも多々あるが、ひずみ以外の物理量センサとして用いることもできる。ここでは、傾斜センサ、加速度センサ、変位センサの構造例を紹介する。 図3は、傾斜センサの構造例である。原理は単純で、錘が金属製の板バネと光ファイバによって支持されており、傾斜による錘の変位がFBGセンサに伸縮を与えるものである。
図4は、加速度センサの構造例である。原理は傾斜センサと同一であり、加速度による錘の変位がFBGセンサに伸縮を加えるものである。
図5は変位センサの変換機構の例である。プーリ―に巻かれたワイヤーの先端が変位するとプーリ―が回転し、中央のボビンが鉛直方向に変位する機構を持つもので、ボビンの先端に連結した板バネ上のFBGセンサのひずみを変化させるものである。

図4 FBG加速度センサの構造例
図5 FBG変位センサの構造例

このようにFBGセンサに変換機構を設けることで構造物のモニタリングの指標となる様々な物理量を計測することができる。さらにこのような機構に組み込んでおけば構造物への取り付けも容易である。

3.FBGセンサの適合性

FBGセンサのインフラ構造物モニタリングに対する適合性を考えてみる。ここで、代表的なFBGセンサの特徴を以下にまとめる。
(1) 光ファイバなので非常に軽量であり、センサが長寿命。
(2) 電力を消費しないのでセンサ自体に給電不要。
(3) 電磁波など誘導ノイズの影響を受けにくく強電界下でも使用可能。
(4) 数km~の伝送距離が可能で、屋外にも敷設可能。
(5) 落雷の影響を受けない。
(6) 1本の光ファイバに複数のセンサを接続できる。
(7) 耐環境性能、安定性に優れ、経時変化が少ない。

写真1 FBGセンサの落雷試験
図6 落雷時の読み取り値(異常なし)

これらはインフラ構造物に対し、中長期的に継続してモニタリングを行う用途に適した特徴と言える。

4.土木構造物のモニタリングへの適用

写真2 モニタリング構造物

4.1 構造物の微小変位をモニタリングした事例

写真2はバイパス道路建設中の様子(2010年3月撮影)である。元々扇状地のところにコンクリート製の凾渠(写真中①、②)を設置したところ、地盤沈下が生じ、写真手前側に僅かずつ傾いていくことが判り工事が中断した。工事の再開の是非を判断できるまで凾渠の変位を連続的にモニタリングすることとなり、長期にわたり連続してモニタリングすること、屋外設置ゆえに落雷による誘導サージからセンサを保護する必要があったことなどからFBG傾斜センサ4台とFBG変位センサ2台から構成されるシステムを選択した。

図7 システム構成
図8 変位センサ
図9 傾斜センサ

図7はシステム構成図である。凾渠①、②は上から見た図である。地盤沈下によって生じた2つの凾渠のすきま長の変化をモニタリングする為に両者の間に変位センサを2台設置した。また、地盤沈下に伴う凾渠の傾きを監視する為に傾斜センサを4台設置した。各センサは光接続箱の中で光ファイバの幹線ケーブルに融着接続している。光ファイバセンサの読み取り装置とデータ保存用のPCは計測小屋に設置し、定期的にディスクに保存された連続データを確認した。

表1 センサの仕様
変位センサ 傾斜センサ
外観
測定レンジ 0 ~ 50 mm ±3°
精度 ±1%R.O ±3%R.O
最大損失 3dB以下 3dB以下
波長レンジ ±2nm ±2nm
防水性能 IP65相当 IP65相当
質量 1.5kg 1.0kg
図10 傾斜角の推移 (約5か月)
図11 変位の推移 (約5か月)

図10は工事再開が決定されるまでの5か月間連続して測定した傾斜角をプロットしたものである。図11は同じ期間の変位をプロットしたものである。5か月後には凾渠の変位の進行がほぼ収束したと判断され、工事の再開が決定した。この例のように、屋外のインフラ構造物でセンサを常時設置し長期間モニタリングする用途において、光ファイバセンサの利用価値は高い。

写真3 モニタリング構造物(工事再開後)

次回に続く-



【著者紹介】
生井 貴宏(いくい たかひろ)
長野計器株式会社 開発センター FBG開発課

■略歴
2004年3月 芝浦工業大学大学院修士課程 修了
2004年4月 長野計器株式会社 入社