生産性・品質向上、設備保全の革新を実現する分布型光ファイバ温度センシング(1)

横河電機(株)
平井 剛

1. はじめに

分布型光ファイバ温度センシングを用いた温度監視は、敷設した光ファイバケーブル内に光パルスを入射し、ケーブル内に発生した散乱光を利用して温度分布を測定するもので、ケーブルを敷設した箇所の温度を連続的に測定できることから、広範囲な温度監視で火災検知等の防災面への活用だけではなく、新型コロナウィルス感染対策のため広範囲のリモート監視への活用も高まっている。
プラントを含む重要施設などは、設備の老朽化、人員削減、ノウハウの未継承などが運用や操業上のリスクとなっており、防災のため温度監視のニーズは高まっている。
当社は、分布型光ファイバ温度センサとして、2011年には中距離タイプの「DTSX200」、2014年には長距離タイプの「DTSX3000」、2018年には火災検知を主とした「DTSX1」を発売した。同シリーズは、バイオマスペレットや石炭を運搬するベルトコンベアの異常発熱の検知、非在来型の石油・天然ガス井戸内の温度変化の測定、パイプラインやタンクにおける高温・低温の液体・ガスの漏れ検知、化学リアクタの生産性・品質向上、機器故障、設備異常に起因する事故を回避するための設備保全などに活用されている。
近年では防災に加え、DXをキーワードとした生産性・品質向上、設備保全への活用例が増加しているが、防災アプリケーションにはない高度な要求があるため、当社独自技術を用いて対応している。以下、生産性・品質向上、設備保全の最新事例を紹介する。

第1図. 線形熱感知器「DTSX1」

2. リアクタ内部温度状況の監視(生産性,品質向上)

プラントでは様々な要因により、導入時に計画された生産性や品質を維持することが難しいケースが見受けられる。
例えば、リアクタ内部の化学反応で製品を生産する工程があるが、第2図のように一般的なリアクタは数メートルごと、一つの方向のみにポイント型の温度センサが設置されているのみである。

第2図. リアクタに設置された温度センサ

この温度センサだけでは、リアクタ円周方向の特定の一方向のみ、かつ高さ方向では数メートルごとの温度しか確認することができない。
実際のリアクタ内部では、反応状況によりリアクタ円周方向での温度変化に加え、高さ方向での温度変化も生じることもあり、温度分布の不均一が生産性や品質に影響を与えるケースがある。第2図の温度センサ設置では、その不均一を捉えきることはできず、設置された3つの温度センサがたまたま同一温度を示していた場合、リアクタ内部の温度は全て同一と判断されることもあり、生産性や品質に何らかの異常があった場合でも、温度変化による反応状況は異常調査の対象から除外されることにもつながり、真の原因に辿り着くことが難しく、その解決のための期間に発生する生産の損失、費やす工数などの負担は小さくない。

それに対し、分布型光ファイバ温度センシングでは、第3図の通り、光ファイバケーブルをリアクタ表面にらせん状に敷設する。リアクタ表面温度のデジタル化により、リアクタ内部温度の不均一(第4図)を推定することで、生産性・品質に何らかの異常が見られた場合、リアクタ表面と内部の温度相関との因果関係から、原因調査の大きな手掛かりとなる。この温度データを運転指標とすることで、生産性と品質向上に大きく貢献している。

第3図. リアクタに設置された光ファイバケーブル
第4図. 温度不均一がデジタル化されたイメージ
(画像をクリックで拡大)

この場合に取得される温度データであるが、一般的な分布型光ファイバ温度センシングで起こりうる事象として、実際の温度とは違う測定結果が出ることがあり、これにより原因調査を難しくすることがある。これは分布型光ファイバ温度センシングの装置内部回路のリンギング、ひずみ、応答などの要因が挙げられるが、当社のDTSXシリーズは複数の知財化された独自技術の組み合わせなどにより、これらを排除している。
例えば、長きに亘り光・高周波計測で培った技術で光素子、トップアンプの歪み低減により、第5図のような卓越した過渡応答特性を実現している。また、独自の温度校正技術(特許5152540、特許5975064)やキーコンポーネントに付帯するA/Dコンバータの改善技術(特許5467521)により、優れたリニアリティ特性を実現している。

第5図. 過渡応答の例

今回のリアクタの生産性・品質向上は、上記複数の当社独自技術を搭載しているDTSXシリーズのみで実現できた事例である。
今後これらの事例にAIを活用し、現在の生産性・品質向上の運転指標としての活用から、生産性・品質向上を実現するプロセス制御への活用を進めるべく準備を始めている。

次回に続く-

参考文献

1) 足立, ”プラント活用が急速に広まる光ファイバ温度分布センサ”, 計測技術, Vol.42, No.12, 2014, pp.32-36

2) 佐藤, “プラント活用が急速に広まる光ファイバ温度センサとその実績例”, 計装, Vol.57, No.4, 2014, pp.59-64

3) 福澤, “光ファイバ温度分布センサ活用の新提案”,計測技術,Vol. 43,No. 2,2015,p. 43-47

4) 福澤, “高度活用が広がる光ファイバ温度センサDTSXのソリューション”, 横河技報

5) 大矢,福澤, “プラント設備の火災リスク対策に適した線形熱感知器”, 計測技術,

商標:
DTSXは横河電機式会社の登録商標である。
その他、本文中に使われている会社名、製品名は横河電機株式会社、および各会社の登録商標、または商標である。



【著者紹介】
平井 剛(ひらい つよし)
横河電機株式会社
IAプロダクト&サービス事業本部 インフォメーションテクノロジーセンター
ITC営業統括部 マネージャ

■略歴
2000年 横河電機株式会社 入社。主に光半導体事業に従事。
2012年 分布型光ファイバ温度センサ事業に異動、現在に至る。