洋上風力発電に関する世界の状況、技術の進展、日本の課題、長崎の取り組み(1)

長崎大学
海洋未来イノベーション機構
  織田 洋一

1.欧州の状況

欧州各国では2000年頃から本格的な洋上風力発電の促進政策が開始された。しかし、初期の約10年間は拠点港を含むインフラ整備や産業サプライチェーンの拡充等が充分ではなく、発電コストは上昇を続けた。欧州の洋上風力発電コストが低減傾向に転じたのは年間新設出力が0.9GW、累計出力が3GWに拡大した2010年以降である。(注:1GW=100万kW)
現在は年間1兆円を超える市場に拡大し2019年末の発電能力は22GWに達している。(図1)

(図1) 欧州の洋上風力発電能力拡大推移1)

欧州の洋上風力発電コストはここ数年間で急速に低減している。例えば、2019年9月に実施された英国の事業落札では、数年後に操業を開始する事業(合計5.5GW)の売電価格が£40/MWh (¥5.20/kWh)前後で落札され、2015年から約66%も低減した。これを現在価値に換算すると約£45/MWh(¥5.85/kWh)に相当し、英国の電力平均卸売価格と同水準である。(1英ポンド=130円換算)
欧州委員会(EC)は、2050年までに230~450GWの洋上風力発電が必要であると提言し、これを達成するための議論が始まっている。洋上風力発電の合計出力が450GWに拡大すれば、欧州の全電力需要の約30%を供給できることになる。
洋上風力発電の拡大と本格的な発電コストの低減を実現するためには大規模な導入目標と長期的な市場拡大政策が必要である。

2.世界の状況

国際エネルギー機関(International Energy Agency)は、世界の洋上風力発電の平均コストが2024年までにUS$60/MWh(6.5円/kWh(1US$=108円換算))に低減するとの予想を2019年10月に発表した。この中で過去10年間に技術革新によるコスト削減でエネルギーの大変革をもたらした分野として、シェールガス革命と太陽光発電を挙げたうえで、洋上風力発電もそれに加わる可能性があると指摘している。
欧州で発展してきた洋上風力発電は、今後世界に普及し発展すると予想されている。例えばBloomberg NEFは世界の合計発電能力は2030年に177GWに拡大すると予測している。今後アジアや米国でも洋上風力発電が普及し、中国が世界最大の洋上風力発電導入国になると予想されている。(図2)

(図2) 2030年までの世界各国の洋上風力発電能力の拡大予測2)

3.事業開発ステップ

欧州の実績では、洋上風力発電事業が計画から発電開始までに要する平均期間は約11年で、 各段階毎の主な実施内容と所要年数は表1の通りである。

(表1)洋上風力発電の事業開発ステップ3)
段階 名称 年数 主な実施内容
1 海域リース 2年 候補地選定、環境影響評価、空間利用計画
2 許認可 4年 初期調査、系統確保、概要設計、建設許可、技術検証、事業性評価
3 資金調達 2年 詳細設計、業者選定、事業入札、売電契約、最終投資判断
4 建設設置 3年 機器製造、事前組立、陸上工事、洋上工事、連系、発電開始
(写真1) 英国の洋上風力発電ファーム Dudgeon Offshore Wind4)

次回に続く-

【著者紹介】
織田 洋一(おだ よういち)
1952年9月10日生まれ
国立大学法人長崎大学 海洋未来イノベーション機構 コーディネーター

■略歴
1977年 4月  三井物産株式会社入社
        金属資源本部(新規事業開発、リサイクル事業推進などを担当)
2008年 4月~ 三井物産戦略研究所
       (洋上風力発電、海流・潮流発電、海底資源開発などを担当)
2017年10月~  国立大学法人長崎大学  海洋未来イノベーション機構

■社会における活動
2013年10月~2015年3月  名古屋大学客員教授
2015年11月~2016年3月  内閣官房 総合海洋政策本部 参与会議
             新海洋産業振興・創出PT
             洋上風力発電・海洋再生可能エネルギーWG
2016年 1月~2017年3月 文部科学省科 科学技術・学術審議会
             海洋開発分科会 次世代深海探査システム委員会
2016年 3月~2018年3月 国立研究開発法人 海洋研究開発機構
             イノベーション促進プログラム選考メンバー
2019年10月~2020年3月  内閣府 総合海洋政策本部 参与会議
             科学技術・イノベーション スタディグループ
2019年12月~2020年3月  戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期
             革新的深海資源調査技術 ピアレビュー会議 など