京都大学化学研究所と産業技術総合研究所の研究グループは人工的に合成したリンドープn型ダイヤモンドを用い、NV中心(窒素―空孔中心)の室温での世界最長電子スピンコヒーレンス時間(T2)と、単一NV中心を用いた量子センサでの世界最高磁場感度実現に成功したと発表した。
このT2は、他の固体系電子スピンの中でも室温では一番長いものだとのこと。
NV中心は室温でも長いT2を有し、超高感度量子センサや量子情報素子の実現および量子センサの生命科学分野への応用の観点から注目されている。T2は重要な特性で、量子センサではT2が長いほど感度が良くなる。今回、研究グループは産総研で作製された高品質なリンドープn型ダイヤモンド中の単一NV中心のT2が、あるリン濃度で非常に長いことを見出した。リンは電子スピンを有するため磁気ノイズ源となり、リンをドープするとT2は短くなると考えるのが常識だが、今回の結果はそれに反する結果であったという。
系統的にリン濃度のみを変えた試料での結果からも、一定量以上のリンがドープされた試料において世界最長のT2が測定され、リンドープの効果が確認された。n型ダイヤによるT2長時間化は、合成中に生成した空孔欠陥が電荷を帯び、磁気ノイズ源となる複合欠陥の生成が抑制されたためと考えられるとのこと。精密なノイズ測定より、今回の試料でのノイズ源は、リン以外の不純物欠陥の電子スピンであることが示唆され、それらの抑制により、さらなるT2の長時間化も期待される。n型ダイヤにより最長のT2を実現した点は意義深く、さらなる高感度化に加え、n型半導体特性を活かした量子デバイスへの幅広い応用へ道を拓くものと期待されるという。
なお、この成果は2019年8月28日に英国の国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されると伝えている。
ニュースリリース(産総研):
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2019/pr20190828/pr20190828.html