東京理科大ら、固体酸化物燃料電池のアノード電極材料として応用可能な薄膜を開発

▮研究の概要
 東京理科大学 先進工学部物理工学科の樋口 透教授、山田 庸公講師、同大学大学院 理学研究科応用物理学専攻の野竹 剛氏、門脇 勇優氏、三菱ケミカル株式会社の高柳 真博士らの研究グループは、プロトン伝導性固体酸化物燃料電池(PC-SOFC)のアノード電極材料として優れた性能を有するBaCe0.4Pr0.4Y0.2O3-δ薄膜(BCPY薄膜)の開発に成功した。また、開発した薄膜の各種分析を行い、300 ℃で10-2 S·K/cm以上の伝導性を示すことを実証し、電極表面で高い反応活性を誘発する正孔-プロトン混合伝導性が生じていることを解明した。

 近年、環境への負荷が小さく、高効率な固体酸化物燃料電池(SOFC)や固体高分子型燃料電池(PEFC)に使用される電解質・電極材料に関する研究が盛んに行われている。しかしながら、これらの燃料電池は作動時間、動作温度、用途の面で課題が多く、より低温で優れた性能を有する燃料電池の開発が強く求められてきた。そこで本研究グループは、これまであまり着目されてこなかった燃料極側のアノード電極材料に着目し、過去の豊富な知見に基づいた新たな電極膜の開発を行った。

 本研究では、RFマグネトロンスパッタ法によりAl2O3 (0001)基板上に新規物質BaCe0.4Pr0.4Y0.2O3-δ薄膜(BCPY薄膜)の薄膜を作製することに成功した。成膜直後のBCPY薄膜とウェットアニール処理(水蒸気雰囲気中での熱処理)後のBCPY薄膜中の酸素空孔率をX線吸収分光法と欠陥化学分析によって定量的に評価し、正孔-プロトン混合伝導性について調べた。光電子スペクトルの結果、酸素イオンサイトに形成されたO-H結合ピークが観察され、プロトン伝導性が示唆された。また、価電子帯上端とフェルミ準位のエネルギー差が活性化エネルギーに近いことから正孔伝導性が生じることが示唆された。以上の結果から、ウェットアニール処理後のBCPY薄膜が300 ℃で10-2 S·K/cmを超える表面正孔-プロトン混合伝導性を示すアノード電極材料として適用できることを明らかにした。

本研究成果をさらに発展させることにより、中温域で作動し、従来よりも高性能なPC-SOFC開発への貢献が期待されるとのこと。

▮研究の要旨とポイント
・300~600 ℃の中温域で作動する電気化学反応ベースのプロトン伝導性固体酸化物形燃料電池(PC-SOFC)は、新たな再生可能エネルギーとして期待されている。
・PC-SOFCのアノード電極材料として応用可能な新規物質BaCe0.4Pr0.4Y0.2O3-δ薄膜の開発に成功した。
・300 ℃で10-2 S·K/cm以上の優れた伝導性を示すこと、電極表面で正孔とプロトンの混合伝導性が生じることを明らかにした。
・本研究をさらに発展させることにより、作動時間、耐久性、出力などの課題を克服した新たな燃料電池の開発が期待される。

本研究成果は、2024年6月18日に日本物理学会英文学術雑誌「Journal of the Physical Society of Japan」にオンライン掲載された。

プレスリリースサイト(tus.ac.jp):https://www.tus.ac.jp/today/archive/20240420_9498.html