書評「センサ技術の基礎と応用」

「センサ技術の基礎と応用」
株式会社コロナ社(ISBN978-4-339-03386-1)
計測・制御セレクションシリーズ6
計測自動制御学会編 次世代センサ協議会編

小林 彬   臼田 孝   栗山 敏秀 
室 英夫   高山 敬輔  石垣 武夫 
柴崎 一郎  石森 義雄  浅野 安人 
大木 眞一  関口 眞吾  足立 正二 
五十嵐 朗  菰田 夏樹   共著



◎センサを扱う開発には必須の一冊

【現在多く使われているセンサ技術のほとんどを網羅】
 本書の表紙でまず目に付くのは、14名という共著者の方々の「多さ」だ。しかも、どの方々もその世界では実績も多い方々ばかりで、嫌でも内容の濃さに期待がかかる。また、この先生方が揃って「計測自動制御学会」「次世代センサ協議会」という、日本を代表するセンサ関係の知見のある団体の所属というので、書店の工学書の棚でも、コロナ社らしい学術的な装いの地味な装丁にもかかわらず、存在感がある。
 ページは全体で300ページ以下、というのは、思わず、なにか端折っていることがあるのではないか?と勘ぐってしまうが、実際にページをめくって見ると、先生方の各々の専門の章それぞれで、短い文章で必要なことが網羅され、さらにはそれぞれの分野で特に必要とされている用語なども太字で編集されているなど、全体として、さながら「センサの辞書」のような形で使えるように構成してある。完全な素人向けではない書籍ではあるものの、大学の工学系の学部の教科書などには、一通りの必要なことが書かれていて、お勧めの内容となっている。

【最近のセンサのトレンド】
 最近のセンサ部品のトレンドは、使用されるソフトウエアを意識して作られていることだ。最小のハードウエア構成でソフトウエアで必要な結果を得ることができるように、これらの部品は意識して作られている。
 自動運転車などの部品としても最初に名前が上がることの多い、LiDAR( Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging )のように複数の種類のセンサを組み合わせたうえ、加えて高性能で小さく低消費電力となったコンピュータを搭載し、実際に自動運転のソフトウエアに提供されるのはセンサの元のデータではなく、複数のセンサの出力を計算処理した後のデータ、ということが増えてきた。こういったセンサを私達は「インテリジェント型センサ(知能を持ったセンサ)」と呼んでいる。最近はこの方式のため、温度センサのリニアライザもアナログのハードウエアで行わず、元のセンサのデータをそのままデジタルに変換し、その後にソフトウエア処理して温度データをリニアな数値にする、ということが普通に行われている。

【「元データ」はなぜできるか?は重要】
 実際にこれらのセンサを使ってみると、思いもかけない、明らかにエラーと思えるデータが出力されていることがある。インテリジェント型センサを使うときは注意が必要なのだ。こういったエラーデータに惑わされないためには、インテリジェント型センサから出力されるデータ処理後のデータを扱うにしても、元のセンサデータがどのような原理でどのように作られていて、原理はどのようなものか?また、限界はどこにあるのか?などをある程度以上は把握して置くことが重要だ。特にLiDARのみならず、飛行機などでも使われるセンサでは、その出力結果の扱いが人命にかかわる場合もあるので、特にこういった知識はモノ作りの現場では、これまで以上に必要という場面も出てきている。それだけではなく、インテリジェント型センサの出力後のデータの加工などにも、センサの知識は多くの場合必須だ。

【ソフトウエア時代における本書の意義】
 現在の世界の産業分野において、経済産業省の推進する「Connected Industories(相互に密接につながった製造業)」の推進のみならず、その基礎となるインターネットをはじめとした通信インフラ、交易等、様々な分野でのデジタル化はここ20年ほどのトレンドだ。今はそれがソフトウエアの力でさらに推進・強化されており、近年ではIoT(Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence – 人工知能)などのソフトウエアの発展で更に加速している。しかしながら、そのソフトウエアに使う「データ」は、ほとんどセンサからのデータだ。本書でも触れられている撮像素子、音声を拾うマイクに使われる加速度を検知するセンサなどはそのわかりやすい代表例だ。世の中の森羅万象をセンサで受け取り、ソフトウエアでより高度な処理を行う、というこの流れも、元はといえばセンサの作ったデータだ。言い方を変えればセンサは「リアルな人間社会と機械の世界を繋ぐ重要な橋渡し役」ということになる。更に言えば「ITの時代」とは「センサの時代」なのかもしれない、とさえ、私は思っている。

本書が、さらなる人類の産業発展の多くの場面で活躍する方々のための「バイブル」として、センサの具体的な利用の場面で多く使われることを願ってやまない。


文:三田 典玄 (みた・のりひろ)
プロフィール:http://nmita.tw/?page_id=2

株式会社オーシャン(鹿島道路グループ) IoT事業部長
 http://www.oceanfp.co.jp/
一般社団法人センサイト協議会 委員