海洋産業研究・振興協会の施策(洋上風力発電の推進)(1)

小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会
常務理事
小山内 智

 当協会の概要は、図1のとおりとなっている。当初は「海洋産業研究協会」と称していたが、近年研究とともに、会員にとってメリットとなるような産業振興策の提案も業務の中で重みを増しつつあることから、2021年海の日をもって名称を「海洋産業研究・振興協会」と改称した。しかしながら、従前からの「海産研」の略称も並行して使用されている。
 旧法人制度の下では、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の4省が所管行政庁であったが、近年ではこの4省に加えて内閣府総合海洋政策本部とも連携をとって仕事をしている。


一般社団法人海洋産業研究・振興協会(海産研)の概要
図1 一般社団法人海洋産業研究・振興協会(海産研)の概要

 会員は、海運、造船、鉄鋼、海洋工事、海洋調査等大型の海洋プロジェクトに関わるような業種の企業が中心となってきたが、近年大型プロジェクトがなくなっていることもあり、会員企業の関心が洋上風力発電に向きつつあり、協会としても仕事の大きな柱となっている。これを受けて最近では洋上風力発電事業に携わる企業やものやサービスを提供している、提供しようとしている企業の入会も増えている。
 会の情報サービス事業としては、定例研究会、グループ研究、会報、メールマガジンと見学会がある。

1. 定例研究会

 定例研究会は、一般的にはセミナーと呼ばれている種類のもので、その都度にテーマを決めて、有識者の方に講師をお願いして、年数回開催している。21年度以降の開催事例を図2として掲げてある。21年度のはじめに当時ノルウェーの船級協会に所属されていた正林さん(現在はエクイノールに所属)に3週連続で洋上風力発電のコスト削減をテーマの中心にお話をお願いした。これ以前の定例研究会は、会場出席が中心であったが、講師がノルウェーオスロに在住ということもあり、当協会としてははじめて講師も出席者もすべてリモート参加という形式を採用した。これまでは会場に30人も集まれば、当協会の定例研究会としては盛況という感じであったが、これを機に、洋上風力発電をテーマに取り上げれば会場、Webあわせて100名は参加いただけるという感じになってきている。
 有識者の方に学術的な話しを聞くだけではなく、企業の方に先進的なサービスの話しをお願いしたり、水産関係の方に講師をお願いすることもある。
 会員企業、官公庁、公益法人等に所属の方、研究の方等については無料で参加できる。会員以外の企業の方については、通常有料となっているが、状況により異なる。開催は、3.のメールマガジンでお知らせしている。

定例研究会 21年度以降の開催事例
図2 定例研究会 21年度以降の開催事例

2.会報

 会報は年3,4回の発行を行っている。海産研会報という黄色い冊子である。

3.メールマガジン

 海洋産業についてのニュース、当協会のイベント等を毎月皆さんにお知らせしている。購読は無料なので、ご希望の方は、HPから申込みいただきたい。

4.見学会

 コロナ禍発生以降しばらくの間、見学会は開催できなかったが、22年度は、7月に横須賀沖の第2海堡と10月にハマウィング、帆船日本丸、横浜みなと博物館の見学会を、23年度も6月に神奈川大学みなとみらいキャンパスと氷川丸、11月に海上技術安全研究所、IHIそらの未来館、IHI瑞穂工場の見学会を開催した。これも開催に際しては、メールマガジンでお伝えしている。

5.グループ研究

グループ研究
図3 グループ研究

 当協会は、特定のテーマについて、会員の中から希望者を募って研究を進めるグループ研究を開いており、23年度は図3に掲げる7個のグループ研究を開催している。括弧内は、参加している会員企業数である。このうち、①、⑤、⑥が洋上風力発電の振興に関わるものとなっている。
 それ以外の②は、従前はメガフロートと呼ばれていたマリンフロートの活用に関わるもので、フロートの技術を活用できる機会はないかの検討を行っている。
 ③は当初、沖ノ鳥島保全の関連で大型のプロジェクトが期待できたことから始まったが、昭和の終わりから平成のはじめにかけて護岸等の工事が行われ、最近では大型工事は見込めなくなっている。しかし南鳥島周辺海域にかなりの量のレアアース泥の存在が見込めること、その開発拠点として島の利用が考えられること、島周辺の玄武岩質が二酸化炭素の貯留に使えると考えられること等から、参加会員の関心は南鳥島に向きつつある。
 ④は、潮力、波力等風力以外の海洋エネルギーの利用を中心に勉強している。
 ⑦は今年度から始めたもので、2050年のカーボンニュートラルに向けてブルーカーボンの重要性が高まっていることに鑑み開始したものである。



次回に続く-



【著者紹介】
小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会 常務理事

■略歴

  • 昭和54年4月運輸省入省 船舶局監理課勤務
  • 平成3年5月在ノルウェー日本国大使館一等書記官(平成6年6月まで)
  • 平成9年6月国際油濁補償基金事務局法務参事官(平成13年5月まで)
  • 平成18年7月海上保安庁総務部参事官(警備救難担当)
  • 平成19年7月(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構業務・用地統括役
  • 平成20年7月海上保安庁総務部参事官(海洋情報担当)
  • 平成21年7月海上保安庁交通部長
  • 平成23年7月(独)航海訓練所理事
  • 平成25年7月北海道運輸局長
  • 平成26年7月国土交通省退職
  • 平成26年10月(株)コバック顧問
  • 平成28年7月海外鉄道技術協力協会理事長
  • 令和2年7月海洋産業研究会常務理事
  • 令和3年7月海洋産業研究・振興協会に改称
  • 現在静岡市海洋産業クラスター協議会委員
  • 現在横浜市海洋都市横浜うみ協議会委員