超小形MEMS触覚センサによるヒトの触覚への挑戦(4)

立命館大学
情報理工学部 教授
野間 春生

6. 終わりに

 本稿では、超小形のMEMS触覚センサのアイデアからスタートして、ひとの触覚の持つ特徴やそこから加賀得られるヒトの触覚モデルを模し、機械学習の技術を用いて人口触覚情報処理のためのステージモデルを提案した。これまでの成果では1個のカンチレバーによって複数のカンチレバーの出力をもしており、ステージモデルとしての可能性を示した段階に過ぎない。今後は高密度に複数のカンチレバーを実装した触覚センサを用いた研究を継続する。

現在のMEMS触覚センサはプロセスの改良によって直径 1mmの中に小型化した12個のカンチレバーを納めたサンプルの開発に成功している。これをさらに小型化する目処は立っており、センサの実装密度としてはヒトの触覚受容器官なみ100/cm2での配置が技術的に可能である。ここで課題となるのが電源の供給と信号の出力である。カンチレバーの変形を計測するには、機械的変形をひずみ抵抗として計測しており、現状は各カンチレバーにホイートストンブリッジと後利得のアナログアンプを接続している。しかし1cm2に数百個のカンチレバーを実装する段階では、このアナログ回路を設けることは現実的ではない。われわれは現在これをデジタル回路の周波数出力で処理する仕組みを開発中であり、将来的にはフルデジタルでの信号処理の実現を目指している。

本センサを高密度に実装し誰もが手軽にその出力が利用できるようになれば、光学情報処理、つまり、映像情報処理(Computer Vision)の研究に匹敵する触覚情報処理(Computer Haptic)分野を立ち上げることが可能となる。複数の素子から同時に得られる情報から必要な信号のみを分離する研究はコンピュータビジョン研究で広く知見が得られており、その多くが触覚情報処理にも応用が可能である。それに向けて、センサの実用化に今後も邁進していく。

なお、本センサの開発情報は立命館大学 認知科学研究センターに設けられた力触覚技術応用コンソーシアム(http://www.ritsumei.ac.jp/research/center/consortium/tactile/)において、定期的に実施する研究会において公表している。

謝辞
本稿のMEMSに関する図面は共同研究者である新潟大学寒川雅之准教授から提供を受けた。

【著者略歴】
野間 春生(のま はるお)
立命館大学 情報理工学部 情報理工学科 実世界情報コース
メディアエクスペリエンスデザイン研究室

1994年3月 筑波大学大学院 博士課程 工学研究科構造工学専攻修了 博士(工学)取得
1994年4月 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 入社
2012年12月 株式会社国際電気通信基礎技術研究所 退社
2013年1―3月 Worcester Polytechnic Institute 客員研究員
2013年4月 立命館大学 情報理工学部 教授

学会役職
日本バーチャルリアリティ学会 理事(2019年−)

専門分野・研究テーマ
バーチャルリアリティ、触覚インタフェース、ウェアラブル&ユビキタスインタフェース