空間系LiDARから水中への展開(3)

島田 雄史
(株)トリマティス
代表取締役
鈴木 謙一
(株)トリマティス
マネージャー

3.2 水中LiDARへの取り組み
LiDAR KITの開発経験を活かし、可視光光源を用いた水中LiDARの開発に取り組んでいる。その取り組みの一環として、水中LiDARの投受光器を評価するため、簡易水槽を用いた水中伝搬実験系を構築し、基礎的な実証実験を行った。水中伝搬実験系の構成概略図を図3に示す。投光器は、波長450nm(青色)、最大出力1.6Wのパルス駆動GaN-LD、受光器は、青色光に高感度なMPPCである。光入射窓間距離 3.38m の筒状の水槽を挟み、片端に投受光回路、もう一端に平面鏡(反射ミラー)を設置し、往復伝搬した青色 LD からのパルス光を MPPC で検出し、出力波形をオシロスコープにより測定を行った。 測定した波形の立ち上がりは、約500psであり、高分解能 LiDARへの適用に十分な特性であることが分かる。

図3 水中伝搬実験系の構成概略図

水槽に水道水を注水する前後で測定したMPPC出力波形を図4に示す。2つの波形の時間差は、約7.8 nsであった。試みに450nmでの純水の屈折率1.337を用いて換算した水槽の長さと実際との誤差は+2.2 cm (+0.7 %)であった15)。その他、水のゆらぎが伝搬特性に与える影響16)など、簡易水槽による水中伝搬実験系を用いて水中LiDARを開発する上での基礎データを取得した。

図4 水道水注水前後で測定したMPPC出力波形

簡易水槽を用いた水中伝搬実験系による基礎評価を受けて、ROV(Remotely Operated Vehicle)に搭載可能な汎用的な水中LiDARの開発を行った。開発した水中LiDARを図5に示す。開発した水中LiDARは、測定距離分解能5mm、ROVに搭載可能、水深10m以上の耐水性などの特徴を備えている。また今後の実験に備えて、カスタマイズが容易な光学系の実装を行っており、LiDAR KITと同様に、出力、波長などのカスタマイズが可能である。

図5 開発した水中LiDAR試作機

3.3 水中LiDARの海洋探査への応用
3D at Depth(アメリカ)17)、2G robotics(カナダ)18)や、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)により、ハイエンドな深海向け水中LiDARの開発が行われている。特に、JAMSTECは、AUV(autonomous underwater vehicle)に搭載することを前提とした水中LiDAR(3Dレーザースキャナー)の開発を行い、伊豆大島南方約20kmの大室ダシ・大室海穴内部に ある海底熱水噴出域の3D可視化を行っている19)。開発した水中LiDARは、波長532nm(緑色)、パルス幅1.0ns、ピーク出力1.5kW(平均出力0.3W)のパルス光源を用い、分解能0.6cm、探知距離20m以上を実現している。深海で使用するため、対水圧は1000mを実現し、重量は地上で17.2kg、水中2.1kgである。数十センチ規模のチムニー(熱水の成分が沈殿して形成される煙突状の構造物)や熱水が噴出している様子を、水中LiDARにより、従来の音響観測技術では表現できない精度(数cm単位)で可視化することに世界で初めて成功している。

次週に続く-

参考文献

15) 高橋他、信ソ大2017、C-3-20

16) 高橋他、信総大2018、B-10-30-20

17) 3D at Depth, https://www.3datdepth.com/

18) 2G robotics, https://www.2grobotics.com/

19) JAMSTECプレスリリース(2015年12月2日)
http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20151202/

著者略歴

島田 雄史 (しまだたけし)
• 1994年 4月国際証券株式会社(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)入社
• 1995年 9月株式会社応用光電研究室(現在は消滅)入社
• 2001年 7月株式会社オプトクエスト設立に参加
• 2002年 8月富士通東日本ディジタル・テクノロジ株式会社(現在は富士通に吸収)入社
• 2004年 1月有限会社トリマティス(現株式会社トリマティス)設立、代表取締役 CEOに就任
• 2018年一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)の共創プログラムであるALANコンソーシアムの代表にも就任

鈴木 謙一(すずき けんいち)
• 1990年4月日本電信電話株式会社入社
• 2009年3月博士(情報科学)取得(北海道大学大学院博士後期課程修了)
• 2011年IEEE1904.1 SIEPON WG(現IEEE1904 ANWG)副議長
• 2012年8月HATS推進会議光アクセスAd-hoc WG(現光アクセス相互接続連絡会主査
• 2013年4月日本電信電話株式会社NTTアクセスサービスシステム研究所グループリーダ
• 2019年2月株式会社トリマティス入社