光ファイバセンシング技術が拓くインフラの防災と未来(2)

川端 淳一(かわばた じゅんいち)
鹿島建設(株)土木管理本部
技術管理部長
川端 淳一

3. 光ファイバネットワークを活用したインフラモニタリングの将来像

3.1. 通信網利用と群管理への活用

 はじめに紹介したようにセンシング用の光ファイバは,通信用で使われている光ファイバ(シングルモードファイバ)と同じ種類であり,また,我が国の光ファイバ通信網は世界有数で国土をあまねく網羅している。これらを,相互に接続することができれば,計測器から光ファイバ通信網経由で遠隔地からインフラを巡回しながら監視することが可能となる。光ファイバは信号の減衰が小さく,長距離伝送が可能であることから,ひとつの計測器で数10㎞程度の計測範囲をカバーすることができる8)。現在,さらなる延伸化に向けた開発にも取り組んでいる。既存の通信網アセットを有効活用することで,現地へ赴くことなく,また現地電源設置は不要と言ったこれまでにない効率的なインフラモニタリングが実現でき,インフラを群として管理できるようになる。

3.2. 移動体追跡

 近年,DAS(Distributed Acoustic Sensing)やDVS(Distributed Velocity Sensing)と呼ばれる振動計測の取り組みが盛んである。DASも,通常の通信用光ファイバで実現可能で,kHz を越えるサンプリング周波数で,109オーダーのひずみ(伸縮)をとらえることができる。空間分解能は数メートル以上と大きく,また大きなひずみ変化をとらえることはできないが,非常に感度が高いことが特長である。例えば,道路沿いに光ファイバが敷設されれば,道路を通過する車両や歩行者からの振動をとらえることができる感度を有する。光ファイバ全長に沿って網羅的に得られる計測結果をもとに,車両の追跡などが試みられている9)。これまで紹介した事例が、主に定期点検や震災時BCPの用途であったのに対して、これは光ファイバセンサを平時に活用できる機能である。車両や歩行者その他の道路情報を把握できる光ファイバは,従来の道路の価値を向上する役割を果たしうる。

光ファイバを用いた交通流の見える化
光ファイバを用いた交通流の見える化

4. おわりに

 わが国の経済活動を支えるインフラは,道路や鉄道だけでなく,上下水道,ガス,電力,通信など多岐にわたり,それぞれは冗長性を確保しながらネットワークを構成している。こうした線状構造物を点検するうえで,光ファイバセンサは最適な監視手段のひとつと言え,その社会実装に必要な関連技術(光ファイバの設置技術,計測技術,データの評価技術など)が揃い,展開が進んでいる取組みについて実例をもとに紹介した。インフラの多くが高経年化している現在,わが国の生活と経済活動を支えるうえで,維持管理を効率的に行い,震災時における被害を最小限に抑えられるセンシング技術への期待が高い。また,それを現実化するためには単に構造物を維持するだけでなく,インフラ構造物の付加価値を増して社会を発展させ,ひいてはわが国の競争力を向上させるような取組が必要と考える。インフラ構造物に様々な,価値を新しく付加できる光ファイバセンサは,そのためのキーテクノロジーであると考えている。



参考文献

  1. 岡本圭司,今井道男,川端淳一,瀬尾昭治,山下明希,椎野直樹,伊藤靖之(2023),令和5 年度土木学会全国大会第78 回年次学術講演会,CS11-62.
  2. 川端淳一,永谷英基,那須郁香,今井道男,吉村雄一,辻 良祐(2023),令和5 年度土木学会全国大会第78 回年次学術講演会,CS11-58.


【著者紹介】
川端 淳一(かわばた じゅんいち)
鹿島建設(株)土木管理本部 技術管理部長

■略歴

  • 1986年早稲田大学 大学院 建設工学修士卒
  • 1992年筑波大学 工学研究科 工学博士
  • 1992年鹿島建設㈱ 技術研究所
  • 1999年~2000年英国 ケンブリッジ大学 工学部 派遣研究員
  • 2005年~2006年鹿島建設㈱ 名古屋支店 現場勤務
  • 2018年~鹿島建設㈱ 本社 土木管理本部