非冷却赤外線イメージセンサ②

立命館大学 理工学部特任教授
木股雅章

実用レベルの性能を持った抵抗ボロメータ非冷却赤外線イメージセンサは、1992年にHoneywellが発表しているが、Honeywellの成功に刺激され、その後多くのMEMS非冷却赤外線イメージセンサが開発された1)。代表的なもの(抵抗ボロメータ方式も含む)を図3に示した。

強誘電体は、抵抗ボロメータが注目される前、非冷却赤外線イメージセンサの検出器材料として主流であり、初期はバルク強誘電体材料が用いたハイブリッド構造の素子が開発されていた。強誘電体を薄膜化することで、抵抗ボロメータのようなブリッジ構造を持った画素を作製することができ、高感度化が期待され開発が進められたが1)、十分な性能は得られなかった。

図3 いろいろなMEMS非冷却赤外線イメージセンサ

ダイオードは、電流―電圧特性に温度依存性があるので、温度センサとして用いることができる。SOI基板を利用してダイオード構造の下部基板を除去して断熱した非冷却赤外線イメージセンサが開発されている1)。SOIダイオード方式の非冷却赤外線イメージセンサは、現在のところ抵抗ボロメータ方式と競合できる唯一の方式となっている。

熱電方式は、熱電対を多数接続したサーモパイルを温度差センサとして利用するものである1)。抵抗ボロメータに匹敵する感度が得られないため、ローエンド赤外線アレイセンサとして開発が進められている。

温度変化を直接電気信号に変換しない方式もある。バイマテリアルとサーモオプティカル方式1)は、そうしたものの代表である。バイマテリアル方式は、膨張係数の異なる2つの薄膜材料を重ね合わせた構造の機械的な変形を利用しており、サーモオプティカル方式は、光学的な透過特性が温度によって変化するファブリペロ干渉フィルタを利用した非冷却赤外線イメージセンサである。こうした方式は、抵抗ボロメータ方式の代替として期待されたが、十分発展しないまま衰退している。

参考文献

1) 木股, “赤外線センサ 原理と技術”(科学情報出版)(2018).

次週へつづく―