1.はじめに
現在、国土交通省では建設現場の省力化・効率化の施策として、BIM/CIM(Building Information Modeling/Construction Information Modeling)および i-Constructionを推進している。
BIM/CIMでは、3次元モデルを測量・設計・施工・維持管理の各フェーズで現場適用しており、令和5年度から原則適用となっている。i-Constructionでは、平成28年度にICT土工から適用され、浚渫工・舗装工・地盤改良工と順次拡大してきている。3次元モデルと3次元測量データを元にして土工重機(バックフォー、ブルドーザ、振動ローラ等)の自動運転をめざしている。当社においては、3次元データを測量できる計測機器を多数保有して現場適用している。(図―1)
一般的に地表面からの距離が高くなるほど、地表面における測量精度が低下しており、地表面のmm単位の沈下計測では、レベルやトータルステーションを使用している。(図―2)
都市部でのトンネル工事では、シールド機を用いて掘削するシールド工法が用いられており、シールド機の掘進にあわせて地表面の沈下測量が行われている。住宅地や道路上のレベル測量は私有地や交通量により計測が困難な場合が多い。
本研究では、従来、沈下測量が困難となっていた沈下計測範囲において、人工衛星によるSAR(Synthetic Aperture Radar)衛星画像を用いてmm単位の精度で計測できるか検証を行った。SAR衛星は、雲や雨の影響を受けることなく地表面の状況を確認できる特長があり、シールド機の掘進に合わせて地表面沈下がmm単位でしかも面的に計測できたので、報告する1)。
2.SAR衛星の沈下計測原理および計測手順
SAR衛星は、宇宙から電波を照射し、波長の位相差の違いから沈下及び隆起を観測する(図-3)。本研究では、ドイツが運用しているXバンド(波長:3.1cm)のTerraSAR-X(テラサーエックス)衛星30シーンを使用して沈下計測を実施した。
SAR衛星による沈下計測においては、宇宙から照射された電波が地面・電柱・照明および建屋構造物の上部・側面等の各部で反射し、波長の位相差を計測することになる。本研究で利用するTerraSAR-X衛星は、11日周期に同じ位置を飛行するので、沈下計測も11日ごとに算定できる。SAR衛星による沈下計測手順を、図-4に示す。
本研究では、より多くのSAR画像を利用することによって安定した変動把握が可能なPSInSARと呼ばれる解析手法を利用した。PSInSARは、15-20枚以上のSAR画像を必要とし、SAR衛星データ内から安定して計測可能な点(PS点、ピーエス点/恒久的散乱点)を用いて位相データの差分解析を行うことになる。具体的には、SAR画像に対してマスク処理から解析範囲を絞り込み、SAR衛星軌道情報、大気状態、建物等の高さ等の補正を段階的に行っていく。
本解析を当該エリアに適用した場合のPS点は、シールド掘進ルート上の幅10mにおいて、約0.6観測点/m2の観測密度であり、地表面沈下計測を面的に実施できると考える。(図―5)このPS点は、全30回撮影されたSAR画像において安定して観測された点となる。
次回に続く-
参考文献:
- 宮田岩往、五十嵐善一他:シールド工事(下水道工事)におけるSAR衛星による地表面沈下計測の精度確認について:土木学会第72回年次学術講演会(平成29年9月)Ⅵ-323,P.645~P.646
【著者紹介】
五十嵐 善一(いがらし ぜんいち)
株式会社パスコ 新空間情報事業部 事業推進部 顧問
■略歴
- 1979年大阪大学工学部土木工学科卒業
- 1979年株式会社奥村組入社
- 2016年株式会社奥村組入社定年退職
- 2016年株式会社パスコ入社
- 2020年株式会社レンタルのニッケン顧問職にて入社
- 2022年株式会社オリンポスの顧問職にて入社
- 現在、株式会社パスコ、株式会社レンタルのニッケン、株式会社オリンポスの3社の顧問職を担当