低酸素トレーニングでの運動負荷レベルを簡便に決定可能な評価手法を開発

 慶應義塾大学医学部スポーツ医学総合センターの勝俣良紀専任講師、同整形外科学教室の大川原洋樹研究員らと、(株)グレースイメージングの共同研究グループは、常酸素環境と同様に低酸素環境下での運動においても、ウェアラブル汗乳酸センサを用いて汗乳酸値をリアルタイムにモニタリングすることで簡便に求められる汗乳酸性閾値(sLT)が、嫌気性代謝閾値(AT)(注1)の指標として優れた信頼性・妥当性を有することを明らかにした。

 今回の研究では、軽量で簡易的なウェアラブル汗乳酸デバイスを用いて得られたsLTが、低酸素環境下でも、ATの有用な推定値を決定できることが示された。この評価手法が広く低酸素トレーニングに導入されることで、個別性に応じた適切な低酸素トレーニング環境を提供し、疾病予防や治療、スポーツパフォーマンスの向上など、多様なニーズに応える新たな運動戦略の立案に寄与していくことが期待される。
この研究結果は2023年12月21日(日本時間)に Scientific Reports 誌で公開された。

◆研究の背景・概要
 運動は万病の薬といわれ、病気の有無に関わらず健康を維持するために重要である。近年、低酸素トレーニング(注2)が、より低負荷で効率的なトレーニングができると認識され、都市部を中心に、トレーニングジム等にも低酸素環境のトレーニング室が併設されるようになってきている。低酸素トレーニングはアスリートの持久力の向上にも寄与されることが期待されているが、従来行われてきた高地での低酸素トレーニングは身体の健康に与える影響も少なくなく、地上に作り出した低酸素環境下でのトレーニングがトレンドとなりつつある。低酸素トレーニングにおける負荷設定や効果判定には低酸素環境下で持久力の指標となる嫌気性代謝閾値(Anaerobic Threshold, AT)を計測することが有用であると考えられ、これまでは呼気ガス分析装置を用いた解析による換気性作業閾値(Ventilation Threshold, VT)が ATの代表的な指標として用いられてきた。
 しかし、VTの計測には高額で大掛かりな装置が必要であり、解析には専門的な知識を要するため、広く運動愛好者・アスリートに対して適用することが出来る、より簡便なAT指標の計測手法が必要とされてきた。そこで本研究グループは、近年、ATの新たな指標として、常酸素環境下では妥当性が認められた汗乳酸性閾値(Sweat Lactate Threshold, sLT)の計測手法を低酸素環境へ応用し、その評価手法の有用性を検証した結果、低酸素環境においてもsLTがATの指標として高い信頼性・妥当性を有していることを明らかにした。

(注1)嫌気性代謝閾値:ヒトは運動時に使用するエネルギーの生成経路を運動負荷の大きさによって変えるが、その変化点となる運動負荷となるポイントを指す。スポーツ愛好家から循環器系疾患を患う方まで、広くその人の個別の運動耐久性の指標とされている。

(注2)低酸素トレーニング:大気中の酸素濃度が低い高地でのトレーニングのみならず、昨今では酸素濃度を調整したテント型のブースやトレーニングルームでのトレーニング、吸入酸素濃度を下げた状態で運動可能なマスク型のデバイスなどを用いたトレーニングなどを含む。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000009.000054709.html