海中、海上の目・耳・鼻・口、そして肌触り -海洋産業タスクフォースの活動-(2)

佐藤 弘志(さとう ひろし)
海洋産業タスクフォース
佐藤 弘志

4.海洋資源開発

 海洋資源開発は海底の金属資源を対象とした資源開発事業であり、対象となる監視は油ガスの様な流体とは少し異なる。対象が個体となるため、海上への鉱物を輸送する際の漏れや海底掘削時に海底が乱される点の監視が必要となる(図4)。
 また、鉱物の種類によっては、海中に流出することで自然界に影響を与える可能性がある物質も含まれるため、これらの監視は重要となる。この事業では機能としては三つのセンサ搭載機器がAUV等に搭載されると考えられる。

  • 海底から資源輸送管:水深3,000~6,000mの海底から鉱物を海上まで持ち上げるパイプの状況監視
  • 鉱物回収地層:掘削は泥等を巻き上げずに行う事が必須条件で、この監視は環境保護上必須
  • 掘削地域周辺監視:掘削地区周辺で崩壊等が発生させない操業状況を監視
図4:海洋資源回収時に於ける、遠隔監視・制御イメージ図
図4:海洋資源回収時に於ける、遠隔監視・制御イメージ図

5.頭脳の機能

 これまでは現場での人の眼・鼻・耳・触覚を中心とする「無人探査機(AUV・ROV・Drone等)」が各々の事業にてどの様に活躍するのかという点を説明した。これらのセンサ取得のデータを人は神経や声(口)を使って脳に送るが、海洋事業の場合は通信設備により頭脳である中央制御室、並びにDXのシステムに送られる。それを図示化すると図5の様になる。

図5:海洋産業へのDX導入イメージ図
図5:海洋産業へのDX導入イメージ図

 AIを搭載したDXのシステムは経験した(ルーティン)事象に対して、確実な対処が自動的に行われる。経験していない異常事象はスーパーバイザーの指示を受けての対処となる。経験を重ね毎にスーパーバイザーへの依頼は減少し、重大事故に繋がる部分だけとなる。

DXのシステムでは人の代わりを行うために次のような機能が搭載されることが求められる。

  • エンジニアリング解析:異常状況の設備を特定目的(設備のコントロールパネルとの連動)
  • 操業監視-1:設備の通常状況確認監視(コントロールパネルと無人探査機の情報で対処)
  • 操業監視-2:地層や海底等に異常状況が無い事を監視(同上)
  • 保守解析:設備摩耗・能力低下を感知し定修時の対処案の検討機能(同上)
  • 事業検討:操業・保守の監視を通じて、設備の事業性を検討し提言する機能(DXシステム独自)

 設備の中央制御室で得られた操業データと現場での無人探査機から得られた現場データを組み合わせての対処が頭脳としてのDXシステムに求められる。

6.省人化による経済的事業展開

 このように海洋事業におけるデータ収集では殆ど人が関与出来ない事業モデルが求められる。人のアクセスが困難という状況に加え、人の投入は事業コスト上昇と密接に関与する点が事業者には重要な要素となる。 人が自由に滞在出来ない場所での事業であり、人が事業の前提となる様では海洋事業の展開は難しいものとなる。初めに述べた様に、海洋事業開発では人の代わりをする「現場対応の無人探査機」と「入手データを解析しての確実な操業を実現するDXシステム」の組み合わせが、これらを実現させる前提となる。

【海洋事業でのセンサの役割】 

 これまで事業の観点からセンサ、搭載する無人探査機、入手データを解析するDXのシステムに分けて説明してきたが、具体的にセンサは各事業に於いて、どの様な使用されるかという点を少し述べる。
 まず、システムが活用される各段階で整理すると、無人探査機と搭載センサは海洋事業の初期段階から有用となる。無人探査機の活用では、海洋事業の計画段階から操業に至るすべての段階での活用が可能である。 
無人探査機として海洋ロボティクスの技術が事業の各段階で活用可能になる部分を次の表2に纏めた。

表2:海洋産業における、センサの活躍可能範囲例
表2:海洋産業における、センサの活躍可能範囲例

 初期から最終段階まで無人探査機とそのセンサ、解析DXを利用することにて多くの状況確認ができ、海洋事業の進展に繋がると考えられる。
 海洋事業において無人探査機と搭載センサ、頭脳となるDXシステムの導入が容易と思われる方もおられるが、容易なものではなく、これらを使えるようにするという事が最も重要となる。その各々の導入には必要な段階があり、その概略を纏めると次のとおりになる。

無人探査機とセンサを導入する際に検討が必要なステップ(表3)

表3:AUV・Drone投入の必要なステップ
表3:AUV・Drone投入の必要なステップ

DX導入に必要なステップ(表4)

表4:DXにAI投入の必要なステップ
表4:DXにAI投入の必要なステップ

 何れも、きちんとステップを確認しながら、導入することで十分な活躍が期待できる。
 【新しい、「眼」・「鼻」・「耳」・「蝕感」そして「頭脳」】
 海洋への進出は今後、避けては通れない道筋であり、それには多大な努力と知恵を必要とする点はご理解のとおりである。それを少しでも確実な事業として立ち上げるには「無人探査機」・「搭載センサ」・「人の代わりをする頭脳」という三つは必要なツールであり、その開発は重要と考えられる。
 これらを活用することで日本における海洋開発が促進され、さらに日本の技術の海外活用が早期に実現されることを期待し、本寄稿を終了する。



【著者紹介】
佐藤 弘志(さとう ひろし)
海洋産業タスクフォース
東洋エンジニアリング株式会社 海外営業統括本部 カーボンニュートラス本部

■略歴

  • 昭和56年04月東洋エンジニアリング㈱入社
  • 平成05年06月エネルギー事業推進センター幹部部員・主査 等
  • 平成11年06月プラント事業本部施設・環境事業部エネルギーグループ兼 基本計画本部幹部部員・参事補
  • 平成12年10月プラント事業本部施設・環境事業部資源開発グループ幹部部員・参事補 -Toyo U.S.A., Inc.(副社長)
  • 平成17年04月より海外事業本部資源開発部長・資源エネルギー本部長 など歴任
  • 平成23年05月より執行役員・エネルギー事業本部長を歴任
  • 平成31年04月社長特命(ストラテジックアライアンス担当)
  • 令和03年04月プラントソリューション事業本部(シニアプリンシパル)
  • 令和04年06月海外営業統括本部カーボンニュートラス本部
  • (シニアプリンシパル、現在に至る)