海洋産業研究・振興協会の施策(洋上風力発電の推進)(2)

小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会
常務理事
小山内 智

(1) 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言研究

 わが国周辺海域のかなり広い部分が漁業活動の場となっており、洋上風力発電事業を行おうとする場合には、その海域の先行利用者との調整が大きな課題となる。従前の大型公共工事では、関西国際空港や本四架橋に見られるように、これによって影響を受ける漁業者に漁業補償を行い、該当する海域の漁業権を返上して、漁業を止めてもらうという形が採られてきた。これはこの種の公共工事により影響を受ける海域が広いこともあった。反対に洋上風力発電事業では、発電事業の影響を受ける範囲はそれなりにあるものの、必ずしもすべての海域の漁業行為を止めなくてもいいということもあり、当協会ではその前身である海洋産業研究会時代から、洋上風力発電も受け入れつつ地元の漁業にもプラスになるような方策を講じていく漁業協調という考え方を提唱してきている。おかげで漁業協調といえば海産研というイメージも定着してきている。
 またこの分野では、グループ研究と並行して風力発電事業の業界団体である一般社団法人日本風力発電協会と一緒に「洋上風力と漁業協調に関する勉強会」を開催し、全国漁業協同組合連合会、大日本水産会と水産庁、資源エネルギー庁、国土交通省港湾局、環境省にも参加してもらって海外の事例や、これまでの実験データ等についての情報交換を行っている。
 当協会は、2013年、15年に漁業協調の在り方に関する提言の第1版、第2版をまとめている(図4、図5)。第2版から少し時間が空いてしまっているが、次はいわゆる第2ラウンド、第3ラウンドの様子を見ながら判断することになるかと考えている。

洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2013.5.10)《第1版》
図4 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2013.5.10)《第1版》
ー着床式100MW仮想ウィンドファームにおける漁業協調メニュー案ー
洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2015.6)《第2版》
図5 洋上風力発電等の漁業協調の在り方に関する提言
(2015.6)《第2版》
ー着床式および浮体式洋上ウィンドファームの漁業協調メニュー案ー

(2) 洋上風力発電等の主力電源化に資する海底送電網の実現に向けて

 図6は、連携系統と呼ばれる、いわばわが国の送電網の骨格にあたるものである。わが国の発電事業、送電事業が北海道から沖縄までブロック、地域ごとに分かれており、送電会社も20年から経営は分離されてはいるが、発電事業者の子会社となっていることもあり、特に東日本では電気事業者の経営エリアを超えての系統連携が弱いという弱点がある。交通でいえば地域の国道は整備されているが、高速道路があまりないという感じになっている。18年9月に北海道胆振東部を震源とする地震の影響で北海道全体が停電になったことをご記憶の方も多いと思うが、北海道、本州間の系統連系が太ければ復旧はもっとスムーズに進んだものと思われる。

長距離海底直流送電のイメージ
図6 長距離海底直流送電のイメージ

 洋上風力発電の適地とされている東北日本海沖や長崎での発電の成果を円滑に無駄なく東京、大阪などの大消費地に繋ぐ必要がある。洋上風力発電の普及がわが国より進行しているイギリス、ドイツ等はわが国より国土が平たんなため系統連系も割と安価にできているが、わが国の場合、急峻な山を越えての送電網形成にはかなりのコストを要することとなる。いっそのこと列島を覆うような形で海底送電網をすべきであると考え、当協会では数年前から資源エネルギー庁等へその旨の提案を行ってきた。当初、資源エネルギー庁も、長期的な課題としてはその有用性は認めていたものの、喫緊の課題という認識はあまりなかった。しかし20年12月の洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会において直流送電による系統インフラの整備のマスタープラン具体化が書かれたように、重要な課題としての位置づけになってきた。ちなみにこのマスタープラン作成は、電力広域的運営推進機関という電力事業者の団体の業務となっている。まず20年度には、図7にあるようにNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の調査事業として「洋上風力等からの高圧直流送電システムの構築・運用に関する調査」が行われることとなり、当協会は、電源開発送変電ネットワーク(株)、(同)ユーコートエナジーと組んでこの調査を受託した。北海道と本州中央部を結ぶ直流高圧の海底送電線を敷設するための机上調査を中心とする仕事である。実際の調査には受託3者の他に、住友電気工業(株)、古河電気工業(株)、三洋テクノマリン(株)、日鉄エンジニアリング(株)、(株)三菱総合研究所も加わった。(同)ユーコートエナジーは、自然エネルギー発電を展開しているユーラスエナジーグループの一員で、特に北海道において積極的な事業を行っている企業である。国内に電線メーカーは数社あるが、直流高圧ケーブルを作っているのは、住友電気工業(株)と古河電気工業(株)の大手2社のみであるため、この2社の参加も重要であった。三洋テクノマリンは海洋調査会社である。ケーブルの容量、種類、設置海域の水深等についての検討を行った。
 日本海側の北海道~本州を最初に整備すべき連系線と、次に太平洋側の北海道~本州の連系線を整備対象に位置づけた。

令和2年度NEDO調査事業「洋上風力等からの高圧直流送電システムの構築・運用に関する調査」
図7

 図8は21年度の補正予算での実地調査を資源エネルギー庁から受託したもので、20年度のNEDOの調査が机上調査であったものを、実地調査に進めたものである。とても似た名前の調査が2つ並んでいるが、メインは下の海洋調査で、実際に海底送電ケーブルの設置をするための海象、海底地質等の調査である。三洋テクノマリン(株)、深田サルベージ建設(株)、海洋エンジニアリング(株)の3社が受託しており、いずれも当協会の会員会社となっている。上の先行利用状況調査は、海洋調査をスムーズに行うために地元関係者、特に漁業関係団体にこの調査の趣旨について説明を行いつつ、漁期とバッティングしないよう調整を行うものである。先行利用状況調査は22年度で終了したが、海洋調査は23年度まで継続された。

図8
図8

 今後の課題としては、高圧直流送電の周辺に発生する磁界が水産生物に影響を与えるか、その影響を抑えるにはどのような方策が有効かという問題が考えられる。

(3) 浮体式洋上風力発電の実用化に向けて

 図9は浮体式洋上風力発電の勉強会である。個別の参加企業名は省略するが、30社の会員企業に加えて、(一社)日本造船工業会、(一社)日本舶用工業会、海洋産業タスクフォース、(一財)日本海事協会、(一財)日本造船技術センター、(独)エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)がオブザーバーとして参加している。

浮体式勉強会
図9

 造船工業会に属する企業には、SEP船の建造、鉄製浮体の建造等の仕事が見込まれている。舶用工業会に属する企業については、浮体式風車が船舶安全法上は船舶として扱われると見られる等、着床式風車に比べてより船舶に近いものになることから、そこで使われる製品、サービスのサプライヤーとしての仕事が見込まれる。
 図10の海洋産業タスクフォースは、内閣府総合海洋政策本部に設置された参与会議の別動隊である海洋資源開発技術プラットフォームの分身のような存在で、その中のWG5が洋上浮体式風車発電ロードマップ策定のためのWGとなっており、官民協議会の目標2030年1000万KW、40年3000から4500万KWに至るロードマップを描くとともに、問題点の洗い出し、その解決策の検討等に取り組んできた。昨年、最終報告を取りまとめたが、この検討には当協会もオブザーバー参加しており、相互乗り入れのような形となった。図11は20年12月の官民協議会資料の抜粋であるが、この段階でも4区分、8分野の目標が挙げられているが、解決すべき問題点が多いということになり、海洋産業タスクフォースは、この問題点についての検討を行ってきた。

海洋産業タスクフォースの組織
図10 海洋産業タスクフォースの組織
「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発
 ロードマップ」における位置づけ
図11 「洋上風力の産業競争力強化に向けた技術開発
 ロードマップ」における位置づけ
出典:洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会

 日本海事協会(NK)は、船の検査を行う船級協会としてご存じの方が多いと思うが、風車の型式認証、洋上風力発電設備のガイドラインの作成をしているほか、浮体式風車については、船舶安全法上の船級検査を行うこととなっている。
 エネルギー・金属鉱物資源機構は、これまでも海洋資源、海底資源の開発の分野で連携をとってきた団体であるが、昨年の法律改正で名称が変更されるとともに、洋上風力発電の分野では、風況、海象等の調査、いわゆる日本版セントラル方式の実施主体として位置付けられたことから当協会のグループ研究に参加することとなった。
 造船技術センターは、今後建設等の作業で、どのような船が必要になるか、特にどのような技術開発が必要になってくるかについての情報が欲しいとのことである。
 洋上風力発電が先行している欧州では、遠浅な海岸が多く、大半が着床式で展開されているのに対して、わが国の域は深いところが多く、近い将来、浮体式を中心に開発が進められることになることから、昨年、資源エネルギー庁、国土交通省港湾局によって「洋上風力の産業競争力強化に向けた浮体式産業戦略検討会」が開催され、当協会もオブザーバーとして参加した。8月頃には検討会としての意見を取りまとめ、これを親組織である「洋上風力の産業競争力協会に向けた官民協議会」に報告する予定であったが、残念ながら政治的な事情によって、作業が遅れている。

 地震、台風、雷等わが国周辺海域の特性は、欧州のそれとは異なる部分があり、わが国の海象、気象に対応した風力発電のシステムを導入しなければならない。また、着床式以上に構造が複雑になり、多くの部品を必要とすることから、調査、設計、建設、運用、解体、撤収という各ステージで種々の仕事も出てくるものと想定される。
 当協会としては、会員企業に有益な情報を提供すべく努力をしていく所存であり、皆様のお力添えをお願いする次第である。



【著者紹介】
小山内 智(おさない さとる)
一般社団法人 海洋産業研究・振興協会 常務理事

■略歴

  • 昭和54年4月運輸省入省 船舶局監理課勤務
  • 平成3年5月在ノルウェー日本国大使館一等書記官(平成6年6月まで)
  • 平成9年6月国際油濁補償基金事務局法務参事官(平成13年5月まで)
  • 平成18年7月海上保安庁総務部参事官(警備救難担当)
  • 平成19年7月(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構業務・用地統括役
  • 平成20年7月海上保安庁総務部参事官(海洋情報担当)
  • 平成21年7月海上保安庁交通部長
  • 平成23年7月(独)航海訓練所理事
  • 平成25年7月北海道運輸局長
  • 平成26年7月国土交通省退職
  • 平成26年10月(株)コバック顧問
  • 平成28年7月海外鉄道技術協力協会理事長
  • 令和2年7月海洋産業研究会常務理事
  • 令和3年7月海洋産業研究・振興協会に改称
  • 現在静岡市海洋産業クラスター協議会委員
  • 現在横浜市海洋都市横浜うみ協議会委員