海洋観測の自動化、省力化に向けて(2)

渡 健介(わたり けんすけ)
合同会社オフショアテクノロジーズ
代表社員
渡 健介

4. 観測の自動化

JAMSTECでは、海洋観測の省力化を図るために、観測の自動化を進める技術開発を行っている。前述のCTDセンサは環境の変化をデータに置き換えることは出来るが、観測自体は、乗船している人間がウィンチやロープを利用して観測を行う。その点においてはセンサだけでは観測が自動化出来ているとは言い難い。そのため、開発したCTDセンサを搭載した小型の自動昇降フロートの開発を2014年から進めていた。
2000年のミレニアムプロジェクトとして始まった「アルゴ計画」は水深2,000mまで自動で潜航・浮上する観測フロートを世界中の海に多数展開し、気候変動に影響を及ぼす海洋内部の変動を監視するために、300km四方に1台、全世界で約3000台のフロート(アルゴフロート)を展開するという国際観測プロジェクトだが、利用されるアルゴフロートは20~30kgと手軽に扱えるサイズではない。そこで、エルニーニョ現象や温暖化等に直結する大気海洋相互作用の観測に特化した、潜航深度は500mと浅いが、小型で多様なプラットフォームから投入可能なフロートの設計・開発を進め、小型アキシャルピストンポンプを搭載した浮力調整装置(VBT)の開発、消費電力を抑えるための電磁弁とモーターの制御の最適化により、小型化と長寿命化を両立した。
開発したフロートは、全長1m未満、空中重量7.8kgと一人でも取り回しが可能なサイズである(Fig. 7)。

Fig. 7 小型観測フロート「MOF」
Fig. 7 小型観測フロート「MOF」

JAMSTECの研究船を利用して様々な環境でテスト観測が行われたのち、これに関しても合同会社オフショアテクノロジーズにて知財の使用許諾を取得して、製品化を実施している。

Fig. 8 MOFで取得したデータの例
Fig. 8 MOFで取得したデータの例

現在は主に、船舶から投入して、様々な環境での学術目的の観測や、技術試験などに利用されているが、将来的には、例えば無人航行船(ASV)や、さらには航空機からの自動投入も視野に入れ、開発を進めている。

5. 観測の自動化、省力化に向けて

海洋観測センサの普及は品質の安定化や量産によるコストダウン、ユーザーニーズに合わせた設計の最適化など、研究機関での実施は難しく、メーカーでしか成しえない工程によって実現される。これらは、地道な評価の積み重ねによって到達する目標であるが、より良い製品を生み出すためには避けて通れない道である。長期的な視点で見た時、研究開発の成果を社会に実装し、地球温暖化という共通の課題解決に貢献していくために、しっかりとした研究開発を進めていきたい。また、これらの観測機器の充実によって、漁業や工業など、様々な分野との関わりを深め、多くの産業分野が海洋に関わりやすくすること、そして人々がどこにいても、海の中の環境を精緻に正しく理解していける社会の一端を担っていけることを目指している。

Fig. 9 オフショアテクノロジーズの将来イメージ
Fig. 9 オフショアテクノロジーズの将来イメージ


出典,参考文献

  1. 高精度CTDセンサーの開発
    高橋 幸男, 渡 健介, 石原 靖久
    JAMSTEC Report of Research and Development 2018 年 26 巻 p. 36-53
  2. Argo 計画:気候監視のために 全球海洋の変動をリアルタイムで捉える観測システム 細田 滋毅,須賀 利雄(Bull. Soc. Sea Water Sci., Jpn., 65, 29 - 34(2011))


【著者紹介】
渡 健介(わたり けんすけ)
合同会社オフショアテクノロジーズ 代表社員
/国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)
 経済安全保障重要技術育成プログラム統括プロジェクトチーム
 スマートセンシング技術開発プロジェクトチーム 海況観測・解析ユニット
 ユニットリーダー代理

■略歴

  • 2005年東京都立科学技術大学 工学部 航空宇宙工学科 卒業
  • 2007年首都大学東京大学院 工学研究科 航空宇宙システムデザイン専攻 修了
  • 2007年ソニー株式会社 デジタルイメージング事業本部 PV機構設計部
  • 2013年国立研究開発法人海洋研究開発機構 技術開発部 海洋観測技術グループ
  • 2018年合同会社オフショアテクノロジーズ 起業 代表社員