自律型無人探査機(AUV)戦略について(2)

角田 智彦(つのだ ともひこ)
内閣府総合海洋政策推進事務局
角田 智彦

(4) AUV官民プラットフォームの開催

 総合海洋政策本部参与会議のAUV戦略PT「中間取りまとめ」において、「AUVの開発や利用に取り組む我が国の企業、大学・公的機関、関係府省が連携」する必要性が示された。これを受けて、AUVの社会実装に向けた交流や様々な情報共有を促進するとともに、戦略策定に向けた将来ビジョンやロードマップ等について検討するため、令和5年5月にAUV官民プラットフォーム(事務局:内閣府総合海洋政策推進事務局)を設立した。その第1回全体会議(5月24日開催)では、海洋政策担当の谷公一大臣(当時)より「AUVの社会実装に向けた議論が深まり、産官学が連携した取組みが加速していくこと」への期待を、ビデオメッセージを通して会議冒頭に表明いただいた。
 会議の流れは(図3)の通りで、全体会議に加えて、主に技術的側面の検討を行う技術部会と、主に利用面に着目した検討を行う利用部会の2つの作業部会を設置し、研究開発と利用の両面から議論を重ねてきた。これら会議に、50社以上の民間企業に加えて、13の関連団体、2の教育機関、8名の専門家、地方公共団体(神戸市)が、内閣府のウェブサイトを通じた参加募集等に応えて登録をいただいた。関係府省庁として、内閣府、文部科学省、資源エネルギー庁、国土交通省、海上保安庁、環境省、防衛省が参加するほか、(国研)海洋研究開発機構をはじめとする5つの公的機関等が参加する規模の大きな官民が集うプラットフォームとなった。

図3:AUV官民プラットフォームの議論の流れ
図3:AUV官民プラットフォームの議論の流れ

(5)AUV官民プラットフォーム提言:3類型を目指して

 松村祥史海洋政策担当大臣の対面参加のもとで令和5年10月11日に開催した第3回全体会合を受けて、将来ビジョンや技術マップをはじめとするAUV官民プラットフォーム提言の内容が固まった。ここでは、将来ビジョンと技術マップを中心に紹介する。
 将来ビジョンの検討では、AUVの具体的な利用に注目したユースケースを、主に利用部会を通して分析してきた。海洋資源開発、洋上風力発電、科学調査・研究、海洋環境保全、海洋安全保障、二酸化炭素回収・貯留(CCS)、水産業、海洋インフラ管理、防災・減災の9つを活用が期待される分野として想定し、参加者から指摘を受けた修正や、企業・団体等へのヒアリング調査の結果を反映してユースケースを具体化し、将来ビジョンを作成した。そして、将来ビジョンを踏まえて分析を行った結果、「技術チャレンジ型」「目的特化型」「小型安価型」の3類型がニーズを満たす鍵になるAUVの形態として浮かび上がった(図4)。

図4:AUV開発の方向性(3類型)
図4:AUV開発の方向性(3類型)

 技術マップの作成では、膨大な技術調査を経て個別技術を網羅的に分析した。AUVの主要技術である航法装置ひとつとっても、慣性航法装置、音響測位、加速度計等、様々な要素があり、これらを国内技術の優位性やサプライチェーン上の課題等の観点から整理をした。例えば慣性航法装置には1つあたり数千万円の高精度なものから、数万円程度のものまである。高精度なものは、AUV全体のコスト増大要因となるが、衛星測位システム(GNSS)を使えない水中で長期間のAUV連続運航を実現するためには欠かせないものである。このような装置は、「技術チャレンジ型」にて国産技術の開発を行い、その成果を「目的特化型」等に反映して国産化していく必要がある。一方、安価なもの(MEMS)は、自動車の自動運転等の分野で普及が進むもので、GNSSを補完する役割を果たしている。自動車分野等における活発な研究開発により水中でも利用可能な一定の精度の製品ができれば、「小型安価型」のAUVへの適用が進むことが期待される。この際、水中においてGNSSの役割を担う音響灯台との組み合わせ等も想定され得る。
 センサについては、例えば音響測深等については国内製品が少なく、海外製品の利用が定着していることを反映した整理となったが、CO2やpH等の環境センサについては、国内製品に一定の強みがある。また、水中コネクタのような基盤部品についての国産化の必要性等も示された。
 AUV官民プラットフォームでは、これらの将来ビジョンと技術マップを組み合わせ、ロードマップを作成した(図5)。提言では、ロードマップを踏まえて「2030年までに、我が国のAUV産業が育成され、海外展開まで可能となるよう、国主導の下で、官民が連携して産業化に取り組む」ことが示されている。出来るだけ早期に民間による自立的な取組を進めるべく、戦略的に取り組んでいく必要がある。

(6)今後に向けて

 国内では、まだまだAUVの利用事例が少なく、潜在的な利用者にとっては、期待通りのデータが得られるか等の懸念がある上、試験的に利用するにもよう船や他の海域利用者との調整等にコストを要するため、参入障壁が高いという課題がある。このような課題を踏まえて、例えば利用実証を行い、AUV利用の具体的な効果を示すとともに、利用時に生じる課題を抽出し、制度環境整備や研究開発等につなげていく必要がある。官民が連携した取組を通して、2030年頃までに洋上風力発電、海洋安全保障、海洋環境保全等の現場で、AUVが標準的に利用されることを期待したい。
 AUV官民プラットフォームでは、共同議長である海洋産業タスクフォースの佐藤弘志運営委員会副委員長と(国研)海洋研究開発機構の永橋賢司理事補佐の2名のリーダーシップのもと、毎回150名程度の多くの方々が参加し、活発な議論を経て提言書を作成いただいた。皆様に感謝を申し上げたい。
 今後は、この提言を受けて総合海洋政策本部参与会議のAUV戦略PTにて検討を進め、AUVの社会実装に向けて、年度内に総合海洋政策本部決定する予定である。

図5:AUVの社会実装に向けたロードマップ
図5:AUVの社会実装に向けたロードマップ


【著者紹介】
角田 智彦(つのだ ともひこ)
内閣府 総合海洋政策推進事務局 上席政策調査員 

■略歴

1996年京都大学理学部(海洋物理学教室)卒業、1998年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了。1998年に三菱総合研究所に入社し、2008年より主任研究員として、海洋再生可能エネルギーや海洋情報管理などの事業に従事(2015年退職)。2015年より笹川平和財団海洋政策研究所にて海洋酸性化などの海洋環境問題や海域管理に関する調査研究に取り組むとともに、「海洋白書」の編集統括などを担当。2022年より現職(出向)、第4期海洋基本計画の策定やAUV戦略の検討に従事。