通信用光ファイバケーブルとDASによる環境振動情報の可視化技術 ―光ファイバ環境モニタリング―(2)

脇坂 佳史(わきさか よしふみ)
日本電信電話株式会社
アクセスサービスシステム研究所
脇坂 佳史

3. 通信用光ファイバを用いた測定事例

FDM位相OTDR装置を中心として、DASを使用し、通信用に敷設された光ファイバに加わった振動波形を可視化した事例を紹介する。

3.1 交通振動の可視化

光ファイバが地下の管路を通っている区間では、地上の道路を通った車両の振動を可視化できる。図3-1にその結果を示す。一本の斜め線が1台の車両の通過に伴う振動波形に対応する。斜め線の傾きの正負と大きさから車両の進行方向と速度、振動の強さから車両の大きさ、斜め線の間隔や多さから車両の間隔や渋滞具合が推定できる。これら情報を活用することで交通整流の応用が期待できる。また、全体時な振動の大きさから路面状態の粗さ、特に局所的に振動が大きい地点ではポットホール(へこみ)の存在などが推定できる可能性もあり、道路インフラのメンテナンスといった応用も考えられる。

図3-1:交通振動のwaterfall図
図3-1:交通振動のwaterfall図

3.2 振動分布の実空間との対応付け(マンホールを利用する場合)

DASで可視化した交通振動などの測定データを有効活用するには、光ファイバの入射端からの距離(=waterfall図の横軸)が、実空間においてどの位置なのか、対応させることが必要である。例えば、図3-1の横軸のどの点がどの交差点になるのかといった情報を把握しておくことは、交通整流等の応用にも必要である。しかし、光ファイバケーブルのルート情報のようなデータベースの情報だけで実空間と対応させるのは難しい。なぜなら、通信用光ファイバは非常に長く、光ファイバケーブルのルート情報には反映されない余長(例えば接続箱周辺で光ファイバを巻いてループ状にしている部分)が複数存在し、データベースから割り出した情報と光ファイバ実長との間にはずれが生じるからである。
 弊社では、DASのwaterfall図の横軸と実空間上での位置を対応させる方法についても検討を進めている。地下区間については、対応の要となるマンホールの位置を同定できれば良いことに着目し、現場での作業と組み合わせて検出する方法[3]と、そういった作業も無しに割り出す方法[4]の二つを提案した。前者は、マンホールの鉄蓋を打撃し、その振動をDASで検出することで、打撃したマンホール位置を同定する方法である。図3-2は、4つのマンホールを光ファイバが通過した地下区間でのwaterfall図(リアルタイムに取得)であるが、4番目のマンホール(MH4)の鉄蓋を打撃しており、その振動が確認できる。このような打撃振動は、必ずしも高感度とは限らない商用化したDAS装置でも区別が可能な一方で[3]、現場で作業する必要がある。現場作業を必要としない方法として、マンホール地点における振動(交通振動や常時微動)の大きさが他地点に対して小さくなる傾向を利用する方法も提案した。例えば、図3-2では、マンホール位置で振動の振幅が小さいことが確認できる。このような傾向に基づけば、振動強度の分析により、マンホール位置を同定することもできる。

図3-2: マンホール位置の突合
図3-2: マンホール位置の突合

3.3 架空ケーブルの揺れの可視化・電柱を利用した実空間との対応付け

光ファイバが電柱間に敷設された架空区間では、風等による光ファイバの揺れの振動がDASにより可視化できる。架空区間の振動情報を有効活用する上でも、waterfall図の横軸と実空間での位置との対応付けが重要である。対応付けの要として電柱が利用できる。電柱のwaterfall図の横軸での位置を同定する方法として、マンホールの場合と同様に、電柱に振動を与える方法が考えられる。また、弊社では、位相OTDRとは原理が異なるが、より空間分解能が細かい測定方式を用いて、風による振動が伝播する様子(振動パターン)が電柱位置で切り替わることを見出した[5, 6]。そのような振動パターンの変化を解析して、電柱位置を同定することもできる。図3-3が実際に可視化された振動パターンである。位相OTDRでも同様の検討を進めている。こうした振動パターンの変化に着目すれば、振動強度から風等の強さが分かるだけなく、より詳細な情報も得られ、天候の観測ができる。また、ケーブルの揺れ方から、ケーブルの把持状態の異常検知の応用も考えられる。

図3-3: 架空ケーブルの風等による揺れの振動のwaterfall図
図3-3: 架空ケーブルの風等による揺れの振動のwaterfall図

4. まとめ

本稿では、通信用光ファイバをセンサ媒体として利活用し、DASによって振動分布を可視化することで、様々な環境情報を取得する光ファイバ環境モニタリングのコンセプトについて、測定原理や測定事例を交えて紹介した。DASを利用した環境モニタリングの実現に向けては、測定原理や測定事例の引き続きの検討に加え、DASが出力する大量の測定データの取り扱いやAI・機械学習等を活用したデータ分析・解釈に関する検討も必要である。そうした検討を積み重ねることで、本稿では紹介できなかった事例も含めて多くのユースケースを確立し、通信用光ファイバに新たな価値を付与し、様々な社会課題の解決に貢献したいと考えている。



参考文献

  1. D. Iida, Y. Wakisaka, T. Okamoto, N. Honda, H. Hiroyuki, IEICE Gen. Conf. 2019, B-13-10, 2019.
  2. H.Takahashi, Y. Wakisaka, C. Kito, T. Ishimaru, D. Iida, Y. Koshikiya, 27th International Conference on Optical Fiber Sensors, W4.32, 2022.
  3. T. Okamoto, D. Iida, Y. Koshikiya, N. Honda, Journal of Lightwave Technology, vol. 39, no. 21, pp. 6942-6951, 2021.
  4. 日本電信電話株式会社 ニュースリリース「世界初、通信光ファイバの感じる振動状態をセンサとして活用し、通信設備のモニタリング技術を実証」2021年9月27日,
    URL:https://group.ntt/jp/newsrelease/2021/09/27/210927a.html.


【著者紹介】
脇坂 佳史(わきさか よしふみ)
日本電信電話株式会社 アクセスサービスシステム研究所 研究員

■略歴
2016年 東京大学大学院理学系研究科化学専攻 修士課程修了。2017年 日本電信電話株式会社 入社。アクセスサービスシステム研究所にて光ファイバセンシング技術の研究開発に従事。