構造物の高速振動を簡単・高精度に計測する圧縮センシングを用いた新手法

(株)構造計画研究所と広島商船高等専門学校 商船学科 加藤由幹助教の共同研究成果が,オランダ エルゼビア社の論文誌『Mechanical Systems and Signal Processing』に掲載された。
 また、日本機械学会が主催する「Dynamics and Design Conference 2022」における本研究成果の発表が、この度、2022年度機械力学・計測制御部門 部門一般表彰:オーディエンス表彰を受賞した。
 圧縮センシングと呼ばれるデータサイエンス技術とデジタル画像相関法(DIC)を組み合わせた新技術により、高価な高速度カメラを用いることなく構造物の高速振動の分析を実現するという。

■ 本リリースの要点
① モノづくりの現場における振動計測の常識を変える、簡単・高精度に計測を実現する新技術を開発
② 同成果が著名論文誌『Mechanical Systems and Signal Processing』に掲載され、
 また日本機械学会のオーディエンス表彰を受賞
③ 国内での特許も出願済みであり、今後は自動車業界での実用化を皮切りに、
 電力や航空宇宙など他業界への展開を想定
■ 背景
 自動車などの輸送機器、回転機械、配管など多くの人工物は絶えず振動にさらされており、振動がそれらの性能や製品寿命、安全性を大きく左右する。そのため、設計・製造・維持管理といった現場においては振動の計測が不可欠である。
 これらの現場では、加速度センサと呼ばれる接触式センサを用いて計測を行うことが一般的だ。しかし、センサは手作業で貼り付ける必要があり、設置や配線等にかかる手間と労力が課題となっていた。また、複雑形状を持つ対象物や、センサの質量が対象に影響するような軽量または柔軟な構造物は計測が困難だった。さらに、空間的な振動の把握が難しいことから製品の性能や安全性を低下させるリスクがあった。
 一方、デジタル画像相関法(DIC)と呼ばれる画像計測技術と高速度カメラを用いることで、センサを貼り付けることなく、高速で振動する対象物の変位やひずみを非接触かつ面的に計測することが可能となる。しかし、高速度カメラそのものが非常に高価かつ大型であるため導入のハードルが高く、また画素数が低いため高速な微細振動を計測できないといった多くの制約が残る。同社は2017年から同技術を活用した事業開発に取り組んでいるが、その中でこうした振動計測の現場における課題を認識した。

 上記の課題を解決し高速かつ高精度な振動計測を実現するため、この度、広島商船高等専門学校 加藤由幹助教との共同研究を通じて、DIC技術に圧縮センシングと呼ばれるデータサイエンス技術と特殊な撮影方式、およびその数学モデルを組み合わせた新手法であるCompressed Sensing DIC技術を開発した。

■ 実現できること
 圧縮センシングとは、少数のデータからより複雑な情報を抽出するデータサイエンス技術です。MRI などの医療機器分野で用いられているほか、電波天文学の分野におけるブラックホールの可視化などでも実用化されている。
 この技術と既存のDIC技術を組み合わせることで、低速度の撮影画像から高速度の情報を復元するCompressed Sensing DIC技術を開発し、低速度カメラを用いた高速現象の振動計測を実現することに成功した。これにより、従来の課題であった解像度と撮影速度のトレードオフを解消し、高解像度かつ高速な画像振動計測が可能になる。

 本技術は特殊な専用のハードウェアは必要なく、一般的な小型・軽量カメラに、既製品の信号制御装置とストロボ光源を追加するだけで、ソフトウェアで高速な振動計測を可能にする。これにより、従来技術と比較して大幅に機材のコストを削減しながら、手軽に高精度な計測を実現することが期待できる。将来的に、超高解像度カメラを利用した超高分解能な振動計測だけでなく、低価格カメラを利用した画像振動モニタリングシステムの実現も期待される。
 現時点では 1200 万画素の単眼またはステレオカメラを用いた 10fps(1 秒間に 10 枚撮影)の撮影条件で、10μm 以下の微細な振動(参考:髪の毛は 40μm 程度)に対して、撮影速度を大きく超えた 3000Hz超の振動が計測できることを実験とシミュレーションで実証している。

※本成果は2022年5月に国内特許を出願済み、および2023年5月にPCT出願済み。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000062.000023284.html