産総研、ニオイから魚肉の鮮度を判定するセンシング技術を開発

ポイント
・半導体式センサを複数組み合わせて測定
・実際のガス分析に基づく模擬の鮮度指標ガスで機械学習
・生食の可否を客観的に見極め、生鮮水産物の輸出を後押し

概要
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」)極限機能材料研究部門 電子セラミックスグループ 伊藤 敏雄 主任研究員、崔 弼圭 研究員、増田 佳丈 研究グループ長は、公益財団法人 函館地域産業振興財団 北海道立工業技術センター 研究開発部 食産業支援グループ 吉岡 武也 専門研究員、緒方 由美 研究主査、ものづくり支援グループ 菅原 智明 研究主幹と共同で、魚肉の鮮度をニオイから判定するセンシング技術をブリをモデルに開発した。

すしや刺身といった魚の生食が世界的に浸透しつつあり、新鮮な水産物が日本から海外にチルド状態で空輸されている。海外では、魚の生食に精通する職人が少なく、生食用と加熱用の区別が難しいため、取り扱いの多くは日系の店舗であるのが現状である。日本の水産物の輸出量の拡大には、品質を客観的に保証する指標とその測定方法が必要であり、生鮮水産物の鮮度指標としてK値(※注1)が提案されている。しかし、魚肉の採取が必要で、K値の導出のための化学測定には、特別な技能と一定の時間が必要。そのため、手軽に鮮度を判定する新たなセンシング技術の開発が求められていた。

産総研は、新たなセンシング技術として、ニオイ判定の手法を開発した。魚のニオイを対象とするため、魚肉の採取が不要の非破壊試験である。産総研は北海道立工業技術センターと共同で、魚肉の鮮度ごとのニオイを分析し、この結果に基づき、模擬の鮮度指標ガス(※注2)を作製した。当該指標ガスの計測結果を学習データとし、機械学習で実際の魚肉のニオイから鮮度を判定した。

研究の経緯
産総研では、揮発性有機化合物(VOC)向けの半導体式センサ素子や複数個の半導体式センサでニオイを計測するポータブル測定器を開発している。

複数個の半導体式センサに、一般的な半導体式センサだけでなく、産総研で開発した湿度の影響を受けにくいバルク応答型センサを加えることで、 高湿度下でのニオイの識別能力を飛躍的に向上させた(2019年1月29日 産総研プレス発表)。現在、機械学習と組み合わせたニオイの解析技術の開発を進めている。

なお、本研究開発は、生物系特定産業技術研究支援センターのイノベーション創出強化研究推進事業「輸出促進を目指した生鮮水産物の品質制御と鮮度の“見える化”技術の開発(2021~2023年度)」による支援を受けているという。

※注1:K値
生体のエネルギーの放出・貯蔵に関わるアデノシン三リン酸(ATP)は、魚の死後の時間経過とともに、内因性の酵素により以下のように分解される。
ATP(アデノシン三リン酸)→ ADP(アデノシン二リン酸)→ AMP(アデニル酸)→ IMP(イノシン酸)→ HxR(イノシン)→ Hx(ヒポキサンチン)
K値は化学分析によりそれぞれの成分を定量化し、下記の式により算出される。
K値(%)=(HxR量+Hx量)/(ATP量+ADP量+AMP量+IMP量+HxR量+Hx量)×100
K値は水産物の死後の時間経過に伴って増加することから、低い値の方が鮮度は良好である。

※注2:模擬の鮮度指標ガス
ここでは魚肉の各鮮度状態のニオイをサンプリングし、分析装置でニオイ成分を定量した結果に基づき作製した混合ガス。半導体式センサは同族の化学物質に対して非常に近いセンサ応答値(電気抵抗変化)を示すため、それらの合計の濃度を代表的な一つの化学物質で調製した。構成する各族の代表的な成分の液体を揮発させ、濃度比に基づいて混合した。

ニュースリリースサイト:https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2023/pr20230821/pr20230821.html