可視化技術を利用した近傍電磁界測定システム(2)

根津 伸丞(ねづ しんすけ)
(株)ノイズ研究所
根津 伸丞

4 測定結果から分析

電磁波の可視化を行うことで電磁波の発生箇所の特定や分布、周波数等の様々な解析が可能となる。
図6は卓上電気スタンドの電磁界を可視化した例である。

図6:卓上電気スタンド対策前
図6:卓上電気スタンド対策前

電磁波の強度の色分けにより、赤く表示している箇所が相対的に多くの電磁波を発生しているのが分かる。また、電磁波の強度だけでなく周波数の解析が可能で40MHz付近の強度が大きいことが分かる。図7は40MHz付近の周波数に絞り、対策部品(フェライトコア)を取り付けて再度測定した例である。図6と比べてみると対策の効果をはっきり確かめることができる。
また、今回は対策部品を取り付けて効果の確認を行ったが、予め設計段階で検討した対策部品を外してみることでその効果の確認が可能である。

図7:卓上電気スタンド対策後
図7:卓上電気スタンド対策後

しかし、EMI規格の対策として本システムを利用する場合、近傍で測定した電磁波が抑えられたように見えても、必ずしも電波暗室でのEMI測定で同様の効果を得ることができるとは限らない。
何故なら、被測定物全体から発生する電磁波を測定するEMI規格測定とは異なり、本システムでは電磁界プローブで直近の位置を測定しているため、相関関係を得る事はできず、電磁波の性質上測定する距離(遠方界と近傍界)に大きく依存するためである。従って、本システム上で効果(変化)を確認するだけでなく、EMI測定を行い、その効果を検証することが必要である。その検証結果を蓄積して比較することで対策のノウハウを蓄積することができる。
また、電磁界シミュレーションソフトの結果データとの関係性を比較してみると新たな発見ができるかもしれない。

5 応用

電磁波を可視化するということは、自ら出力している不要な電磁波を抑えることに利用できるだけでなく、電磁波から自らを守ることにも有効である。
例えば、モーターなどの誘導性装置の接点の遮断やリレースイッチのチャタリングなどが原因で、大きなパルス性の繰り返しノイズが発生する場合がある。それが機器の電源線や信号線等から侵入し誤動作や部品を破損することがあるため、そのような現象を模擬する試験を実施し、予め機器がある一定のノイズに対する耐性を持っていることを確認する必要がある。このような機器のノイズ耐性を評価する試験をイミュニティ試験と呼ぶ。
イミュニティ試験時に製品内の部品に誤動作や破壊が発生した場合、ノイズの侵入を防ぐ検討が必要となる。この確認として、実際に試験したノイズを注入し、その侵入経路が把握できれば、効率良く対策することができるはずであり、本システムの可視化技術が利用できると考え次の実験を行った。
周波数ドメインのスペクトラムアナライザを時間ドメインで波形が観測できるオシロスコープに変更し、ノイズ波形を測定するチャンネルとは別にノイズ発生タイミングを検出するトリガ用入力チャンネルを用意した。
これによりノイズを発生させながら被試験機器全体を電磁界プローブで走査することで注入したノイズの侵入経路を正確に捉えることができる。さらに、注入ノイズの波形形状が分かるため、ノイズ波形の変化から減衰、共振などの状況がわかり、より対策の検討が行いやすくなるとともに、対策効果の確認もできると推測した(図8)。

図8:オシロスコープを用いたシステムイメージ
図8:オシロスコープを用いたシステムイメージ

実際に高速の過渡ノイズが発生できる試験器を用いて試作基板にノイズを注入し、検出ノイズの最大値を色分け表示した(図9)。おおまかにノイズの侵入経路とノイズ対策(侵入経路の分離処理)をノイズ分布図によって確認することができた。

図9:ノイズの分布対策後
図9:ノイズの分布対策後

この実験では、対策の効果だけでなく、注入ノイズの大きさや周波数等の性質を変更することにより、波形の変化を捉えることができた。それは今まで勘や経験に左右されていたノイズ対策設計に大きく役立つと言える。
設計者は仮説に基づくノイズ対策を行っているが、それを実証できるツールとしても有効である。
今回は高速の過渡パルスを模擬したノイズを注入して可視化を行ったが、下記のように様々な応用が期待できる。
・筐体の設計
筐体にノイズを与え筐体全体を可視化することで、筐体全体のノイズ分布から筐体自体の形状設計や部品の配置場所の検討が可能。
また、筐体から発する自己ノイズを調べることでシールド効果を確認することも可能である。
・アンテナの分布パターン確認
アンテナのどの位置からどのようなノイズが放射しているのかを確認し、アンテナの設計や使い方に利用できる。
・イミュニティ試験の分析
規格が定める幾つかのノイズを注入し、その波形を被試験機器の様々な位置で分析する事により、機器のノイズ耐性への傾向を把握できる。その傾向からどのようなノイズ試験を行う必要があるか、機器を把握し目的を持って試験に臨むことができる。

6 最後に

可視化が持つメリットとして「分かりやすさ」が挙げられる。分かりやすくすることで効率良く評価できるのは勿論であるが、データに説得力を持たせることができる。それは正しく伝えることに繋がり、後進育成に大きく貢献できると期待する。
今後「分かりやすさ」に加え、さらに「使いやすさ」を追求することで、この可視化技術が少しでも多くの方のノイズ問題の解決に貢献できれば幸いである。



【著者紹介】
根津 伸丞(ねづ しんすけ)
株式会社ノイズ研究所 商品開発部 商品開発3課 課長

■経歴
2000年 株式会社 ノイズ研究所 入社 EMC機器のソフトウェア開発に従事。
ソフトウェアチーム開発責任者。
現在に至る。