千葉大学分子キラリティー研究センターの尾松孝茂教授、桑折道済准教授、北海道大学大学院工学研究院の山根啓作准教授、大阪市立大学大学院理学研究科の柚山健一講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の川野聡恭教授らの共同研究グループは、誘電体(絶縁体)のナノ微粒子が分散して存在する液膜に光渦(注1)を照射することで、青から青緑の構造色(注2)を示すフォトニック構造(注3)のマイクロリングを印刷することに成功した。
さらに、金属のナノ微粒子が分散する液膜に光渦を照射することにより、単一の金属ナノ粒子を高精度(高解像度)で印刷できることも示した。
これらの印刷技術は、マイクロリングレーザー、プラズモニックナノアンテナといった次世代の光通信や、バイオセンサといったデバイス開発など、次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の確立に繋がることが期待される。また、光渦とナノ粒子の相互作用に基づくこれらの現象を応用することで、混合物中のナノ微粒子の種類(誘電体であるか金属であるか)に応じてナノ微粒子を空間的に分離する「光渦ナノ粒子ソーティング」という新しいナノ微粒子分離法が可能となる(図1)という。
本研究成果は、2021年10月25日にドイツ学術誌「Nanophotonics」にてオンライン掲載された。
●研究の背景
近年、電子デバイスのフレキシブル化、製造のオンデマンド化の需要の高まりに伴い、半導体・電子製品などを印刷(プリンティング)により製造するプリンタブルエレクトロニクス技術に注目が集まっている。レーザー誘起前方転写法(注4)(Laser-induced forward-transfer: LIFT)は、単一レーザーパルスを液膜に照射して印刷したい物質(ドナー物質)を吐出させて転写するという印刷技術。ノズルを使うノズルジェット印刷とは異なり、高濃度で高粘度なドナー物質でもノズルの目詰まりの心配がなく印刷できるため、次世代プリンタブルエレクトロニクスの印刷手法として期待されている。
しかし、LIFTは印刷できるドットの形状やドット内のドナー物質の空間分布を制御することは原理的に不可能だった。これらの課題を克服するため、光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を用いた光渦レーザー誘起前方転写法(光渦LIFT)を考案したとのこと。
●研究者のコメント(千葉大学分子キラリティー研究センター 教授 尾松孝茂)
本技術を活用すると、ナノ微粒子の濃度や光渦の角運動量の次数を変調するだけで様々な色調を発色させることができるので、色材を用いないカラー印刷が可能になる。また、レーザー色素などを含有したナノ微粒子をドナーに用いた場合、構造色に相当する様々な波長で発振するマイクロリングレーザーを印刷技術で形成できる。さらにマイクロリングは光の伝播速度を制御できる光ルーターなどにも応用できると思われる。金属ナノコアはバイオセンサなどのデバイス応用などが期待できる。本技術は次世代プリンタブルフォトニクスに繋がることが期待できるとしている。
●用語解説
(注1))光渦:等位相面(同じ位相の場所を通り、かつ波の進行方向に対して垂直になるような面)である波面が螺旋状(螺旋波面)になっており、中央に光の暗点がある円環型の強度分布をもつ光を光渦と呼ぶ。光渦は、1波長あたりの螺旋波面の巻き数ℓ(整数)に対してℓℏのトルク(軌道角運動量)を有する。
(注2)構造色:物体自身が持つ色ではなく、周期的な微細構造によって発現する色。微細構造により、特定の色のみを反射することで、タマムシのような光沢のある鮮やかな発色を示す。
(注3)フォトニック構造:光の波長と同程度の周期でナノ微粒子が配列してできた構造。特定の周波数に対する選択的な回折(反射)が起こるため、層数あるいは層間隔に応じた構造色が現れる。
(注4)レーザー誘起前方転写法(LIFT):透明基板上に形成したドナー液膜に対してレーザーパルスを照射して、前方にドナー液滴を飛翔させて転写する印刷技術。原理的に転写できる物質の粘度や濃度に制限がない。
●研究プロジェクトについて
本研究は、科学研究費助成事業基盤研究Aおよび科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(CREST)の一環として行われた。また、千葉大学分子キラリティー研究センター内における共同研究の成果。
ニュースリリースサイト(chiba-u):https://www.chiba-u.ac.jp/others/topics/info/post_1019.html