3.超音波ビーコンの仕組み
大手自動車部品メーカの試作開発でパラメトリックスピーカの開発に携わってきた。その指向性という特性を他の用途に利用できないかということがずっと考えられてきた。調査の過程で電波ビーコンの問題点を見つけ、指向性という特性を生かし超音波ビーコンを開発できないかということでその大手自動車部品メーカと伴に研究してきた。
超音波ビーコンは、パラメトリックスピーカの応用として開発されたものである。従って、パラメトリックスピーカの仕組みを解説することがそのまま超音波ビーコンの解説となる。超音波は波長が短いため人間の耳には聞こえないということは一般によく知られている。そこで、超音波を可調音の波長に沿って変調することで、可聴音のうねりができ、それが人の耳に聞こえるようになる(図3参照)。なので、超音波を聴くことができる犬やコウモリのような動物には全く異なった音として認識される。超音波変調は既知の技術であるのでネット検索で情報を得ることが容易である。
次に、通常のスピーカと超音波変調した出力の指向性の比較について記述する。
図4は、18kHz~20kHzの可調音と超音波を変調した音源の指向性を比較したものである。同じ18kHz~20kHzの音源でも超音波変調した音源のほうが高い指向性を示すことがわかる。
この特性を利用したものが超音波ビーコンである。
超音波ビーコンは、専用の受信機ではなく、広く使われているスマートフォンでの信号受信をターゲットにおいている。スマートフォンの内蔵マイクではそのままの超音波を受信できないため、内蔵マイクが受信できるような周波数に変調する必要がある。ただし、超音波ビーコンの場合、人の耳に聞こえてはいけないので、マイク性能の上限である18~20kHzに変調している。それほど高い音圧は必要ないので超音波素子には、密閉型が使用されている。
超音波ビーコンは、指向性があるとはいえ、きれいな円錐形に出力されるわけではなく、有効角度も一定ではない。そこでテーパのついた円筒形(以降、ホーンと呼ぶ)の金属を取り付けることで、ほぼ均一な円錐形の出力が可能になった(図5参照)。
超音波素子は、振動により音を出力しているため、振動に対し大変敏感である。その振動が打ち消されないため超音波素子の取付けには工夫が必要になってくる。超音波素子の固定台の材質や配置でかなり音圧に違いがあることが分かった。例えば、超音波素子の固定台としてアルミ板を使用した場合、2mm厚では音圧は下がらないが、1mm厚だと音圧が下がってしまった。アルミでなくスチールを使用すると1mm厚でも音圧が下がらなかった。そのスチールでも表面積を増やすと音圧が下がってしまう。
現在の形になるのにかなりのトライ&エラーが行われてきた。
超音波ビーコンというとハードウェアばかりに目が行きがちだが、実は受信した信号を解析するためのソフトウェアもかなり重要となる。
人が歩いて通過する地点で受信、解析を行うためには、その作業をおよそ1秒以内で行う必要がある。解析時間に制限がなければ、できるだけ長い時間のデータを取得して解析していけばより正確な結果を得ることができるが、短すぎると解析精度は落ちてしまう。少なくとも1秒以内で完了させなければいけないため、そのバランスが重要なポイントとなる。そのためのアルゴリズムの作成にかなりの時間を費やしている。一般的にはSFFT(短時間フーリエ変換)が利用されることが多いようだが、時間軸に対する解析には弱い部分がある。そのため当社では別のアルゴリズムを応用することでその弱点を補っている。また数十年に培ってきたソフトウェアの経験も大きい。
どのようなアルゴリズムを使用したかは社外秘なのでここでは割愛させていただく。以前、取引をさせていただいた某大手企業でも同様なことをやろうとしたようだが、ハードウェアはできてもソフトウェア部分ができなかったようである。
4.今後の課題
超音波ビーコンの認知度はまだ低いため大量生産に至らず、また使用されている部品の価格もまだ高い。電波ビーコンに比べてコスト面ではまだまだ高いと言わざるを得ない。また消費電力においても電池駆動での長時間使用という課題がある。どちらも今後普及してくれば、電波ビーコンでそうであったように解決されていくもの期待している。
※図および写真は株式会社イーソニック提供
【著者紹介】
中山 哲治(なかやま てつじ)
株式会社イーソニック 代表取締役
■略歴
1986年 国立静岡大学 工学部 精密機械工学科 卒業
1986年~ 日本DEC株式会社(現日本HP) 製品開発部
1992年~ 日本タンデムコンピューターズ株式会社(現日本HP) 技術本部
1999年~ 株式会社イーアンドディー 取締役
2013年~ 株式会社イーソニック 代表取締役
JIIA一般社団法人 日本国際情報通信協会会員