超音波屋内位置測位技術(1)

(株)イーソニック
中山 哲治

1.はじめに

位置測位において屋外では、スマートフォンやタブレットで利用できる手法としてGPSが使われている。一方ビルや地下の屋内においてはGPS信号が取得できないため専用の位置情報装置が必要となる。現在、スマートフォンやタブレットで受信可能なビーコンは、BluetoothやWi-Fiを利用したビーコン(以降、電波ビーコンと呼ぶ)が一般的である。しかしながら電波ビーコンでの位置測位ではまだ精度において問題点がある。

2.電波ビーコンの問題点および音波ビーコンの優位性

図1 電波ビーコン受信領域

電波ビーコンは装置から発信される電波の強度の範囲内で位置を特定するものである。電波の特性上、1点から発信される電波は球状に広がるため、広い範囲での受信となり位置測位としては、精度の低いものとなってしまう(図1参照)。直径1メートルぐらいを受信範囲とするために電波強度を落とすという選択肢もあるが、それでは天井への取付けた場合、受信範囲外になるので、テーブルにのせてスマートフォンの高さの位置に置くことになる。某図書館でこのテーブルの手法を試していたが、子供がイタズラで別の場所に移動してしまうということがあったようである。
他に精度を上げる手法として電波ビーコンを3か所(または4か所)に配置し3点からの電波強度で位置を決定する方法がある。しかしながら、3つの電波ビーコンに出力強度は多少のばらつきがあるため実地にて出力強度を計測し位置決めをする必要がある。また装置のいずれかが出力低下や、故障で動作しなくなってしまったという事態が発生するとまったく異なった位置情報になってしまう。その他の要因で出力強度が変わってくる可能性があるので頻繁に現地での補正が必須となる。位置測位としては位置がずれるよりも信号を受信できないほうがましである。これらを踏まえると1つの装置にて精度の高い位置情報を取得できるのがベストと考えられる。

図2 超音波ビーコン受信領域

そこで電波という手法から離れて、1装置において精度を上げるため、指向性の高い超音波に着目したビーコン(以降、超音波ビーコンと呼ぶ)の開発が開始された。超音波ビーコンはその指向性という特性により、受信範囲が大幅に狭められるため、位置測位おいて高い精度が得ることが可能になる。一般的に屋内の建物の天井は2.5メートルほどであり、そこに取り付けることを前提として解説していく。スマートフォンを持っている歩行中に対し発信される信号の受信から解析までを行う。人の歩行速度を5km/h(1.4m/s)とした場合、円形照射の端を横切ったときでも90%以上の受信ができるようにするためには、少なくとも0.5秒以内に信号を受信する必要がある。そのためには照射角度として60°は必要となる(図2参照)。

写真1 超音波ビーコンとアプリ

スマートフォンの位置で直径およそ1.5メートルの範囲での受信ということは、1メートルごとに曲がり角があっても「1メートル先を左折」という細かい案内も可能となる。そのため大型地下駐車場おいて自分の自動車の駐車位置までをナビゲーションをするようなアプリケーションの作成が可能となる。また電波ビーコンでは、信号が壁を突き抜けてしまうので、隣の部屋との区別がつかなかったが、超音波信号は壁を突き抜けないため、隣の部屋との区別ができるようになる。
また、吹き抜けのある建物であれば、電波ビーコンではできなかった上下階の区別も可能となる。それにより目的の部屋と隣、上下の部屋との区別が可能になり3次元的なナビゲーションをすることも可能となる。(写真1参照)

先に解説したように超音波ビーコンの優位点は、指向性による高精度の測位ができるということであるが、電波の影響を受けやすい計器類のある環境下での利用においても注目されている。

※図および写真は株式会社イーソニック提供

次回に続く-



【著者紹介】
中山 哲治(なかやま てつじ)
株式会社イーソニック 代表取締役

■略歴
1986年  国立静岡大学 工学部 精密機械工学科 卒業
1986年~ 日本DEC株式会社(現日本HP) 製品開発部
1992年~ 日本タンデムコンピューターズ株式会社(現日本HP) 技術本部
1999年~ 株式会社イーアンドディー 取締役
2013年~ 株式会社イーソニック 代表取締役
JIIA一般社団法人 日本国際情報通信協会会員