3.極限環境計測への光ファイバセンサの応用例
長野計器では、光ファイバセンサの開発を行っている。ここでは、ファブリ・ペロー干渉計を用いた高温高圧 圧力温度センサ(Extrinsic型)と高感度加速度センサ(Intrinsic型)を紹介する。
ファブリ・ペロー干渉型圧力センサ
ファブリ・ペロー干渉型の圧力センサは、図4に示すように、圧力によるダイアフラムの変位を反射面間の距離の変化として計測する。
このため、ダイアフラムは光を反射することが可能な鏡面であればよく、電気式センサのようにダイアフラム上に、歪検出素子や、電極、導線を設ける必要がない。従って、センサのサイズ小型化、高温耐性の獲得の点で有利である。従って、極限環境(高温圧力計測, 超小型計測、高精度計測等)で用いられることが多い。例えば、高温圧力計測では、ダイアフラム素材にSiC等の耐熱材料を用いてジェットエンジンの燃焼圧計測の取組がされている。[11]超小型センサによる計測では、光ファイバ先端に直径数百umのダイアフラムを設けて主に医療診断用[5]に用いられている。高精度化に向けては、絶対値計測ができるため、ダイナミックレンジが広い白色干渉[7]が有利である。さらにセンサ構成がシンプルなため長期安定性を達成しやすい。長野計器では白色干渉を利用した極限環境の産業用途向けに圧力温度センサの開発に取組んでいる。
ファブリ・ペロー干渉型高感度加速度センサ
FBG(Fiber Bragg Grating) センサは、光ファイバに回折格子を形成したもので、その反射波長を測定することでひずみ等の物理量を測定する。
鉄道構造物におけるヘルスモニタリングでは、数キロオーダーの大きな構造物を準分布的に計測する必要があり、耐雷性,長期耐久性等は必須である。長野計器では耐環境性能に優れている光ファイバセンサを用いて、鉄道下部構造物の衝撃振動試験[12]を目的に高感度FBG加速度センサを開発した[13] (図5)。
図6に高感度FBGセンサの原理を示す。高感度FBGセンサは、高反射率の2つのFBGを近接配置し、ファブリ・ペロー干渉計を構成することで干渉光を発生させ、透
過光のスペクトルピークが通常のFBGと比較して数十倍鋭くなる特徴を利用したものである。FBGセンサのピーク波長の動きは、マッハツェンダー干渉計で測定する. マッハツェンダー干渉計の感度は、ピーク波長の鋭さに比例するため、通常のFBGと比較して数十~100倍程度の感度向上を得ることができる。そのため、高感度FBGは0.01マイクロストレイン以上の分解能を有し、電気式ひずみゲージと比較すると100倍程度の分解能を有する(図7)。
この高感度FBGを加速度トランスデューサに組み込み、加速度センサとしてのノイズレベルを評価した結果、0.5mgal/√Hz程度の振動の測定を実現し、光ファイバセンサでサーボ式加速度センサと同等レベルの微振動計測が可能となった [14]。また、波長分割多重による複数同時測定にも対応している。
4.まとめ
光ファイバセンサは、高温動作、耐雷性、耐電磁ノイズ性、連続分布型計測等、電気式センサでは実現できない課題を本質的に解決できる。このような特徴を生かして、光ファイバセンサは極限環境センシング分野で応用されている。例として製造業分野での高温高圧向け圧力センサ、構造物健全性評価分野での高感度加速度センサを紹介した。
システムとしての堅牢性をより高めるためには、過酷な環境で対応できる技術開発が重要である。光ファイバに関してはコーティング技術や材料、構造の検討(高温、耐放射線)、光ファイバケーブルに関してはケーブルの堅牢化や被測定物にどのように取り付けるかの施工まで含めた総合的な技術開発が必要である。また、計測器に関してはコストダウンや難環境に対応した小型・軽量・低消費電力が求められている。さらに、システムとしての価値を高めるためには、計測データから必要な情報を取り出すソフトウエアも含めたエンジニアリングが必要である。
今後光ファイバセンサの応用が発展・拡大していくためには、費用対効果の高いセンシングシステムの提案や新たな価値の創造が必要であり、特に電気式センサでは実現できない ”極限環境計測”分野への応用が光ファイバセンサセンシングの発展の鍵を握ると考える。
参考文献
5)Éric Pinet, “Pressure measurement with fiber-optic sensors: commercial technologies and applications”, Proceedings Volume 7753, 21st International Conference on Optical Fiber Sensors; 775304 (2011)
7)Wyant, James C. “White light interferometry.” Holography: A Tribute to Yuri Denisyuk and Emmett Leith. Vol. 4737. International Society for Optics and Photonics, 2002.
11)Robert S. Fielder and Kelly L. Stinson-Bagby “High-temperature fiber optic sensors for harsh environment applications”, Proc. SPIE 5272, Industrial and Highway Sensors Technology, (8 March 2004);
12)国土交通省鉄道局監修, 鉄道総合技術研究所編: 鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編), 基礎構造物・抗土圧構造物, 丸善, 2007.
13)篠田昌弘, 藤田圭一, FBG 光ファイバセンサによる微振動計の開発, 日本非破壊検査協会平成23 年度春季公演大会講演概要集,pp143-144, (2011)
14)Yoshino, Toshihiko & Sano, Yasukazu & Ohta, Daisuke & Keiichi, Fujita & Ikui, Takahiro. (2016). Fiber-Bragg-Grating Based Single Axial Mode Fabry-Perot Interferometer and Its Strain and Acceleration Sensing Applications. Journal of Lightwave Technology. 34. 1-1. 10.1109/JLT.2016.2521440.
【著者紹介】
山手 勉(やまて つとむ)
長野計器株式会社 フェロー
■略歴
1984年 シュルンベルジェ株式会社入社
石油・ガス探査装置の開発に従事
2017年 長野計器株式会社入社、現在に至る
極限環境計測センサ開発を主導
光ファイバセンシング振興協会理事
応用物理学会光波センシング技術研究会常任幹事