液体金属を用いた伸びるバイタル検出センサの開発(2)

横浜国立大学 工学研究院
准教授 太田 裕貴

4. システム開発

4.1スマート電熱グローブ

図 2の加工方法をもとに、スマート電熱グローブを開発した(図8)1。図8a, b, cにスマート電熱グローブ上のシステム構成及び加工方法に関して記載した。液体金属で作成された温度センサの計測温度をもとにIC等からなるコントロールシステムでグローブ上の電熱温度を制御した。実際に、サーモグラフィで観察した結果が、図8d, eとなっており、電熱部分が発熱していることが確認できる。図 8fがシステム回路図となっており、実際に電熱部分が加熱されている(図8g)。電力と温度センサの相関及びその時のサーモグラフィによる温度の相関を示した図が図8hとなっている。このように、温度センサによって電熱部分の温度をコントロールできるスマート電熱グローブを3次元印刷により実現した(図8h)。

図 8:スマート電熱グローブ。
a. 開発した電熱グローブ、b. システムのレイアウト、c. 加工プロセス、d, e. 電熱グローブのサーモグラフィ、
f. 回路図、g. 加熱部のサーモグラフィ、h. 実際に計測した設定温度と電熱グローブの温度
Copyright © 2016 Wiley

4. 2 深部体温計測が可能なイヤラブルスマートデバイス

更に、ヘルスケア用途での高い需要が求められる深部体温を計測するための耳装着型(イヤラブル)スマートデバイスを開発した(図9)6。ウェアラブルデバイスで頻繁に計測される温度計測は、肌温度を基礎に行われている。しかしながら肌温度は外部温度(環境温度)に大きく影響を受ける。一方、医療現場や実際に生体の調子を観察する上で重要な生体の温度は深部温度である。深部温度(深部体温)を計測する方法はわき、口腔内、肛門(直腸)、耳(鼓膜)がある。直腸がもっとも正確な深部体温を計測することが可能である。しかしながら、経時計測するうえでは耳が最も利便性が高い。そこで我々は耳式体温計の原理をもとに、スマートフォンで体温を確認できる”イヤラブル”(Ear+wearable)デバイスを開発した。また本デバイスに骨伝導によるスピーカーを実装することで耳をふさぐことによる障害を軽減した。

体表面温度と商用の耳式体温計で計測した深部体温、作製したデバイスで計測した深部体温の三つの体温と環境温度の相関を検討した。体表面温度は、環境温度によって大きく左右される、一方で短時間であれば深部体温は変化しないことを実証している。さらに、運動時における表面温度と深部温度の変化を探ると表面温度に関しては運動を始めてすぐに上昇するが、発汗とともに表面温度が低下する。その一方で、鼓膜温を元にした深部体温は運動し続けた時間の中で上昇し続ける。これは明らかに表面温度が正しい体温を示していない結果である。スポーツ及び医療において、このような正確な体温を計測できることは有意なスポーツ医学及び基礎医学的見解を提供できるものと考えられる。

図9:3次元プリンティングによるイヤラブルスマートデバイス。
a. 開発したイヤラブルデバイス、b, c. 内部構造とその拡大図、d. 装着部の構造
Copyright © 2017 American Chemical Society. https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acssensors.7b00247

5. 結論

本研究では、液体金属を元にしたその加工方法及びデバイス構築方法を通して本論でLiquid-state electronic systemの更なる可能性を提案した。

「本研究は戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE) (No.181603007)のサポートの元で行われた。」

参考文献

1) H. Ota et al., “Highly-deformable liquid-state heterojunction sensors.”, Nature Communications, 5(5032), pp. 1-9, 2014.

6) H. Ota et al., “3D Printed Earable Smart Devices for Real-time Detection of Core Body Temperature.”, ACS Sensors, 2 (7), 990–997, 2017.

【著者紹介】
太田 裕貴(おおた ひろき)
横浜国立大学 工学研究院 准教授

■略歴
2011年慶應義塾大学大学院理工学研究科後期博士課程修了。同年博士(工学)取得。日本学術振興会特別研究員(PD)にて東京女子医科大学先端生命医科学研究所に所属。
2013年から海外特別研究員、Project scientistとしてカリフォルニア大学バークレー校に所属。
2016年から特任助教として大阪大学産業科学研究所に所属。2017年3月より横浜国立大学大学院工学研究院システムの創生部門にて准教授として研究室を主宰。
2018年に一般社団法人日本機械学会新分野開拓表彰。
2020年に文部科学省表彰若手科学者賞等を受賞。専門は機械工学・電気電子工学。
近年は、液体金属をもちいたストレッチャブルデバイスおよび新生児用スマートデバイスの開発を行っている。