4 近赤外蛍光色素の目標仕様
(1)波長
筆者が開発した近赤外蛍光カラーイメージング装置の強みを生かそうとすると、700~800 nmの近赤外光で励起して、800~900 nmの近赤外蛍光を発する色素であることが望ましい。
(2)発光量子収率
ICGの発光量子収率の20倍以上の明るい近赤外蛍光色素の開発を目指している。
(3)耐熱性
医療用インプラントに用いられているポリウレタン、ポリプロピレン、およびポリエチレンに溶融混練し成形する過程では、300℃に対する耐熱性が要求される。
(4)褪光性
近赤外蛍光インプラントを室内で遮光することなく保存し、1000ルクスの蛍光灯下に1年間放置した場合でも蛍光活性の低下が5%未満であることを目標としている。
5 試作品を用いた患部可視化実験
目標仕様を満足する近赤外蛍光色素の開発に成功したので、その色素を溶融混練した樹脂製チューブを試作し、動物実験で評価した。
(1)近赤外蛍光樹脂の量子収率
図1には、ICG水溶液と樹脂製チューブの蛍光輝度の比較を示している。ICGを蒸留水に希釈して濃度消光現象を観察すると、概ね5-8ppmで蛍光輝度が最大になるが、非常に弱い。一方、樹脂製チューブの蛍光輝度は非常に高く、ICG蛍光輝度の40倍以上である。
(2)蛍光クリップ
消化管粘膜の止血用クリップのカシメリングの部分に、樹脂製チューブを用いた蛍光クリップを試作し、ブタの食道、胃、大腸の粘膜に軟性消化管内視鏡を用いて留置し(図2)、開発中の近赤外蛍光カラーラパロシステムで漿膜面から観察した。図3に示すとおり、粘膜に留置したクリップの位置を漿膜面から特定することが可能であった。
(3)尿管カテーテル
ブタ尿管に樹脂製カテーテルを留置し、後腹膜脂肪組織に埋没している尿管の可視化が十分に可能であった(図4)。
6 おわりに
筆者は、近赤外光および近赤外蛍光は、いわば医療応用のために存在している光であると認識している。今後は、高知大学発ベンチャー ニレック株式会社と連携して近赤外蛍光樹脂製標識具の製品化研究を本格化したい。
【著者紹介】
佐藤 隆幸(さとう たかゆき)
高知大学医学部循環制御学 教授
■略歴
1985年 高知医科大学 卒業
1985年 東京女子医科大学 循環器内科 研修医・レジデント
1994年 国立循環器病センター研究所 研究員
2000年 高知医科大学医学部循環制御学 教授
2003年 高知大学医学部循環制御学 教授(大学統合による転任)
2019年 大学発ベンチャー ニレック株式会社 代表取締役
大学における研究成果を活用して,動脈可視化や蛍光ガイド技術の製品化研究に従事している。