インテリジェントセンサーの時代と巨大化するソフトウエア(3)

三田典玄(ITコンサルタント、元慶南大学校(韓国)教授)

●なぜOSSを使うのか?

なぜOSSを使うのかというと、同じ機能ものが、より低いコストで開発できるから、ということだ。そしてソフトウエアの開発費用というのは、そのまま人件費である。人件費も悠長に垂れ流すわけにもいかない。現代は開発競争の時代であり、ソフトウエアの検証などの時間を取られていることさえ惜しい。まごまごしていると、すぐに競合他社が追い抜いていき、より機能の高い製品をより短期でリリースする。そういう時代なのだ。

筆者が関わった例を掲げると、こういうことがあった。あるシステムでOSSのOSを使ったものがあり、それが何が原因か時々停止する。しかし「なぜ停止するか」を追求している時間はない。追求すればもちろん原因をつかめて、バグを修正できるだろうが、当然そのための時間がかかり、納期は確実に遅れる。納期が遅れているあいだに、競合他社は新製品を出して、自社を追い抜いていく。「原因を追求する」などと悠長なことは言っていられない。仕方なく、OSが止まったら、全てが動かなくなるので、動かなくなったことを検知するハードウエアを外部に用意し、それがシステムが止まったことを検知すると、コンピュータの電源を切って、入れ直す、ということを自動的に行う「ウォッチドッグ」という仕組みを付けざるを得なかった。昔であれば「なにを情けないことを技術者はやっているのか?」ということになっただろうが、いまはこれは「当たり前」である。ハードウエアやソフトウエアの巨大化、複雑化は止めようもなく、こういった方法での「トラブル回避」は普通のことになっている。

●インテリジェント型センサーでも重要な「ソフトウエア」

UberのLiDARの死亡事故の例を見てもわかると思うが、今回はメインの航行コンピュータの中のソフトウエアの問題が死亡事故につながった。しかし、センサーの中にもコンピュータがあり、ソフトウエアで動いていることを考えれば、今後、LiDARのセンサーのソフトウエアの問題で事故が起きることもあるのかもしれない。もちろん、筆者は無いことを祈るが、現状では私は祈る以上のことはできない。願わくば、LiDARのソフトウエアに限らず、過度の競争そのものの停止など、なんらかの法的拘束が考えられるべきではないだろうか?と考えている。「LiDARセンサーが原因の死亡事故」。それは、起きる確率はゼロではない。