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みなとみらいにて「海洋ロボット夜の祭典」を開催

自動制御に関する国際的な学術団体であるIFAC(International Federation of Automatic Control)の国際会議IFAC2023が7月に横浜で開催される。

IFAC2023 Industrial Group (Marine System Subgroup)はその開催期間中の7月12日(水)にみなとみらいを会場として海洋ロボットを使ったパフォーマンスを繰り広げるというイベントを予定している。


主催:IFAC2023 Industrial Group (Marine System Subgroup)
協賛:IEEE-OES日本支部(予定), MTS日本支部(予定),株式会社三菱総合研究所
協力:日本丸財団,JAMSTEC
後援:神奈川大学 海とみなと研究所(予定),その他打診中
日時:2023年7月12日(水)15:00 開場、19:15 開演
場所:みなとみらい・日本丸メモリアルパーク(シーカヤックパーク)

申し込みは不要:誰でも自由に観覧可能.
問い合わせ先: (国研)海洋研究開発機構 吉田(yoshidah@jamstec.go.jp)・阿久津

〔プログラム〕
    15:00  開場: 展示・ビデオ上映
    16:00  
    17:00  
    18:00  プレイベントDJ・GEEK BOY
    19:00  海洋ロボット夜の祭典
         #1 水中ドローン演技
         #2 水上パフォーマンス
         #3 自律ロボット演技
    19:45  トークショー
    20:00  #4 海中からのCO2回収
         #5 自律ロボット演技
    20:20  フィナーレ・表彰式
    20:30  閉会

イベント案内サイト(ifac):https://www.ifac2023.org/program/citizen-forums/marine-robots/

送迎用バスの置き去り防止装置「icuco®eyes」発売開始

 icucoは、保育園でお昼寝中の子どもをセンサで見守り、寝姿勢を自動記録するicuco®touch&careを開発。
現在リリースしている午睡チェックセンサ「icuco®touch&care」、園管理システム「icuco®book」に加えて今回内閣府の定めたガイドラインに適合する、送迎用バスの置き去り防止装置「icuco®eyes」の発売を開始した。

 近年、保育所の利用者数の増加に伴い、保育士の負担が増えていることから保育所での事故は増加傾向にあり、2021年に全国の保育所や幼稚園、放課後児童クラブなどで子どもが死亡または重傷を負った事故は、前年比332件増の2347件となり、2015年以降で最も多い結果になっている。
 また、送迎用バスでの園児の置き去り事故が社会問題になっており、2023年4月から送迎用バスに置き去り防止装置を設置することが義務化された。
 icucoは、「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」に適合する安全装置を提供することで園児の安全を守るとともに、保育施設での業務の効率化を目指すという。

●「icuco®eyes」
 自動車部品メーカー発の企業、icucoが提供する高い品質基準で設計された「icuco®eyes」は人の目、センサの目、カメラの目の3つの目で見守り見落としゼロを追求した送迎用バスの置き去り防止装置である。

 「icuco®eyes」は、バスを利用する園児の安全を見守ると共に、乗車・降車のチェック業務を効率化するサービス。送迎用バスの置き去り防止装置とともに専用アプリを使うことで園児の乗車・降車記録を簡単に行える。記録はデータで残り、チェック帳票も自動作成されるので保育士の業務負担を大幅に省力化することが可能。

【「icuco®eyes」の特徴】
1)自動車部品メーカー発の企業が提供する高い品質基準で開発されたサービス
「icuco®eyes」は、icucoの保育サービス事業で蓄積された知見と自動車産業の技術を融合し開発されたサービス。
自動車部品メーカー発だからこそできる実際のバス使用環境下でのテストを通過した装置を提供する。

2)園児の乗車・降車記録、車内確認記録をスマホアプリで簡単に帳票化
 園児の乗降車チェックと車内チェックは、標準装置のスマホアプリ(icuco for nanny)を利用することで簡単に電子記録化することが可能。
いつものチェック業務を行うだけで自動で帳票が作成されるので事務業務を大幅に省力化することが可能である。

3)登降園、連絡帳などの園管理システム「icuco®book」と連携し、園業務をトータルで効率化
 「icuco®eyes」はクラウド時代において保育領域でイノベーションを起こすことを目的とした業務オートメーションスイート「icuco®book」と連携することが可能。登降園や連絡帳との連携はもちろん、園と保護者にバスの運行情報を知らせる機能も付いている。

▶内閣府認定の補助金の対象商品
「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」の降車時確認式に適合している。

※こども家庭庁,送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のリスト
 (https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/list)

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000043967.html

Beyond 5G/6Gに向けて、ミリ波帯での多数同時接続と超低遅延の同時実現

 (株)構造計画研究所と電気通信大学 先端ワイヤレス・コミュニケーション研究センター(AWCC)石橋 功至教授は、Beyond 5G/6G※1 に向けて導入が進むミリ波※2帯において、多数同時接続と超低遅延を同時に実現する無線通信方式を世界で初めて実証した。実証に用いたミリ波サービスエリアの実現には、構造計画研究所が長年取り組んできたソフトウェア無線※3 技術を用いた。

■ 背景と概要
 移動体通信システムは、これまで第3世代(3G)、第4世代(4G)、第5世代(5G)へと進化を遂げるにあたり、より高い周波数帯を使うことで通信の高速化を実現してきた。現行の最新世代である5Gにおいては、従来使用していたマイクロ波と呼ばれる周波数よりもさらに高い「ミリ波」を利用することで通信速度の向上を目指している。今後、2030年以降のBeyond 5G/6G時代においては、ミリ波による高速通信に加えて、自動運転やドローン、ロボットの制御、工場内での超高密度の機器やセンサの活用など、低遅延性や機器の多数同時接続性を要求するサービスの普及が想定されている。

 現行の5Gでは、高速大容量・超高信頼低遅延・多数同時接続といった3つの通信要件が個別に想定されているが、Beyond 5G/6G時代には、そうした通信要件の組み合わせを同時に満たす技術の開発が求められている。例えば、通信許可なしで自由にデータ伝送可能な超低遅延を実現するためのグラントフリー(Grant Free: GF)と多数同時接続を実現するための非直交多元接続(Non-Orthogonal Multiple Access: NOMA)を組み合わせ、低遅延と多接続を同時に満たすグラントフリー非直交多元接続(GF-NOMA)という技術が検討されている。

 しかしながら、従来のGF-NOMAでは、多接続性に関わるユーザ収容数の限界と、遅延に直結する演算量負荷、またデータの復元性能において、それぞれ課題があった。今回、圧縮センシングを用いた新たなGF-NOMA方式※5 を開発し、従来方式より同一周波数リソースに多数のユーザを収容でき、さらに低演算量かつ高精度のデータ復元が可能となった。

 今回の実証実験では、構造計画研究所が培ってきたソフトウェア無線技術を駆使してミリ波による無線通信可能なサービスエリアを実機で構成し、電気通信大学が考案したGF-NOMA方式と復調アルゴリズムを動作させることで、ミリ波帯で多数同時接続と超低遅延を両立した通信が可能なことを世界で初めて示した。

■ 実証内容
 28GHz対応の基地局および端末を、通信機能をソフトウェアで実装することで通信方式の切り替えを自由にできる無線機(ソフトウェア無線機)をベースに構築し、信号処理機能は5GシステムのオープンソースソフトウェアであるOpenAirInterface(OAI)※6 を用いることで、ミリ波対応5G無線通信環境を実現した。今回は、OAI上に新たなGF-NOMAを拡張実装することで、新たな通信方式を検証する5Gシステム基盤として用意し、その検証基盤を用いて実証実験を行った(画像)。
 具体的には、2台の端末から同時に同じ周波数・時間リソースを使用して小容量(10 kbps程度)のデータを送信し、基地局側では専用ハードウェアでなく汎用PCを用いて、3.5ミリ秒(最良値)の遅延で受信データの復調まで2台分ともにできることを確認した。これにより、ミリ波帯の5G通信において、多数同時接続と低遅延を同時に満たす検証方式を技術的に実証することに成功した。

■ 本報道発表内容の分担
 電気通信大学が方式の考案・シミュレーション評価を行い、構造計画研究所が実機環境の構築と方式の実装および実機評価を担った。

 本件は、総務省「電波資源拡大のための研究開発」のうち、技術課題ア「多様なサービス要求に応じた高信頼な高度5Gネットワーク制御技術の研究開発」の、課題ア-2 サブテーマ②「ナノエリア対応高信頼ワイヤレスアクセス実現手法」により得られた成果の一部である。

解説
※1 Beyond 5G/6G:Beyond 5Gは5Gの次の世代(6G)以降の移動通信システム。2030年頃の導入を想定されている第6世代移動通信システム(6G)を含み、これ以降の次世代移動通信システムのことを広く指すため、しばしばBeyond 5G/6Gと表記される。

※2 ミリ波:1mm~10mmとミリメートル単位の波長をもつ電波をミリ波と呼ぶ。ミリ波帯は、厳密にはこの波長区間に対応する30GHz~300GHzの周波数帯のことだが、日本の5Gで用いられる28GHz帯もこれに近いことからミリ波帯と呼ばれる。

※3 ソフトウェア無線:無線機の通信機能をソフトウェアで制御する技術。従来の無線通信システムでは、通信機能はハードウェアで固定的に実装されていたが、ソフトウェア無線技術では、通信機能をソフトウェアで実装します。このため、様々な通信方式や周波数帯に対応できる高い柔軟性とメンテナンス性、低コスト性などの点から、急速に高度化・複雑化する移動体無線通信を実現するための技術として注目されている。

※5 圧縮センシングを用いたグラントフリー非直交多元接続方式:
 各ユーザが非直交系列をプリアンブルとして送信し、受信機が圧縮センシングの枠組みで、送信ユーザ、距離減衰、通信での変動を同時推定した情報を用いて、効率的に各ユーザの情報を復元する通信方式。本技術については、電気通信大学から、2021年3月2日にプレスリリースが発出されている。
 https://www.uec.ac.jp/news/announcement/2021/20210302_3152.html
また、通信系最大の国際会議であるIEEE International Conference on Communicationsの2022年開催(ICC2022)においても、本方式の詳細が発表されている。
 https://xplorestaging.ieee.org/document/9839108

※6 5Gの技術仕様に準拠した機能を包括的に提供する、フランスの大手電気通信研究所EURECOMが開発したオープンソースのソフトウェア。
 https://openairinterface.org/

プレスリリースサイト:https://www.kke.co.jp/release/13698

味の素、東工大とたんぱく質の高効率生産に向けた微生物のスクリーニング法

 味の素(株)はこの度、東京工業大学との共同研究において、再生医療素材や抗体(バイオ医薬用)等に応用可能なたんぱく質を高分泌生産する微生物を短期間で取得するスクリーニング法の開発に成功した。今後、東京工業大学が独自に開発したバイオセンサ技術と、当社の先端バイオ技術を組み合わせた手法の研究開発を推進することにより、有用なたんぱく質の高効率生産を図るという。

 従来、バイオ医薬用のたんぱく質生産には、安価なコストや動物由来成分を含まないなどの利点から、微生物を活用した方法が広く用いられている。一方、たんぱく質を高効率で生産する細菌や酵母などの微生物の株の培養・評価や、目的となるたんぱく質生産プロセスの確認には長期間を要することが課題となっていた。

 今回東工大で開発されたバイオセンサ「Quenchbody (Q-body)」と当社の先端バイオ技術を融合したスクリーニング法を用いることで、直径数十マイクロメートルの微小な液滴内で培養した微生物が、目的となるたんぱく質を生産したことを Q-body で検出し、さらにその微生物を大規模数(数十万)単位で一度に培養・評価することが可能となった。これにより、培養・評価や、目的となるたんぱく質生産プロセスの確認作業にかかる時間を従来より大幅に短縮することができる。この手法の検証結果は、高い評価と共に、有力科学誌「Small」※に掲載された。
 ※材料化学、ナノテクノロジー、医学領域などをカバーする査読付科学誌

 同社はアミノサイエンス®で人・社会・地球の Well-being に貢献していくために「ヘルスケア」、「フード&ウェルネス」、「ICT」、「グリーン」を4つの成長領域としている。本研究開発の推進によって、バイオ医薬用たんぱく質の生産技術に磨きをかけ、ヘルスケア領域でのさらなる成長を目指すとしている。

プレスリリースサイト(ajinomoto):
https://www.ajinomoto.co.jp/company/jp/presscenter/press/detail/2023_05_24_01.html

旭化成、商船三井と開発の船舶用モーターの異常予兆を検知するサービス「V-MO™」

旭化成エンジニアリング(株)は(株)商船三井と船舶用モーター向け状態監視サービス 「V-MO™(Vessel Vibration Visualization Monitor)」を共同で開発した。
同社は販売窓口となる富士貿易株式会社を通じて、国内外の様々な船社、船舶管理会社へV-MOを5月24日(水)より販売し、更なる安心安全運航に貢献するという。

V-MOは船舶に搭載されているモーターに振動センサを設置し、その計測データを解析する事によってモーターの異常検知及び異常原因を診断、継続した状態監視を可能とするサービス。データ解析においては、旭化成(株)デジタル共創本部の知見も生かされている。計測データはクラウドに送信されるため、船上のみならず陸上でもモーターの状態を監視する事ができる。

当共同プロジェクトは2017年に始まり(*1)、2020年から商用化を目指した試運用(*2)を2022年度に完了し、この度の実用化に至る。商船三井においては、複数の運航船へV-MOの搭載ならびにFOCUS(*3)との連携も見据えている。

(*1)2017年11月1日プレスリリース
 「舶用回転機器異常の予兆検知」の実証プロジェクトの実施を決定」

(*2)2020年3月18日プレスリリース
 「旭化成エンジニアリングと商船三井が舶用補機のモニタリングサービス試行を開始」

(*3)2018年10月15日 商船三井プレスリリース「始動!『FOCUS』プロジェクト」

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000086.000079452.html

AIで適性のあるスポーツを判定する「DigSports」の新バージョン

(株)電通国際情報サービス(以下ISID)は、運動能力をセンサで自動測定し、一人ひとりの長所に応じて、どのスポーツに向いているかをAIが提案するシステム「DigSports(ディグスポーツ)」の新バージョンを2023年7月より提供開始する。
新バージョンは、Webカメラで人の動きを推定する画像処理技術を利用することで、従来必要だった深度センサ付きカメラ等専用機材が不要となり、専門の技術者がいなくても簡単に利用できる。

●背景
DigSportsは、体験者が「50m走」や「反復横跳び」などを行うと、AIによって運動能力を測定し、74種目から向いているスポーツを判定できるシステムである。2019年8月の販売開始から、全国の自治体やスポーツ施設、スポーツイベントで採用されており、“運動嫌いな子ども”や“運動が疎遠になった働く世代”が自分に向いているスポーツを見つけ、運動を好きになってもらうことで、スポーツ実施率の向上や運動の習慣化による健康増進に貢献してきた。
今回、導入企業や自治体からの、常設や複数拠点での利用ニーズに応えるため、アーキテクチャを刷新した。

●主な改修点
新たにDigSportsに搭載されるモーションキャプチャ機能はAIによる画像認識で人体の関節を推定し、その関節の上下左右への動いた距離から運動能力を推定する。これまでは専用アプリケーションがインストールされた機材と専用のセンサが必要だったが、新バージョンではそれらが不要となり、PCなど一般的な機材だけで簡単にDigSportsを設置・利用できるようになった。
これにより、時間や場所を問わずDigSportsを常設して利用する、複数拠点で開催するイベントで同時にDigSportsを利用する、などの幅広い使い方が可能となった。

●イベント出展について
名称  :みんなの品川スポーツFES.2023
会期  :2023年6月3日(土) 10:00 – 18:00
会場  :品川インターシティ・品川グランドコモンズ
主催  :日鉄興和不動産(株)
展示会場:新バージョンのDigSportsが誰でも体験可能。

●価格
提供価格(税別)
1)イベント利用
1日利用料:500,000円~
*技術者を派遣する場合には、別途サポート費用・諸経費等が必要。
*PC機材費用は含まれていないため、機材を手配する場合には、別途費用・諸経費等が必要。

2)常設利用(6カ月以上)
お問い合わせのこと。

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000181.000043138.html

バイタル・サイン・モニタリング向けリファレンス・デザイン
(The Reference Designs for Vital Sign Monitoring)(2)

井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ(株)
デジタルインフラストラクチャー
ビジネスグループ
井口 璃音

3.心拍抽出精度を向上させるアルゴリズム

 PPG信号に基づく脈拍数算出アルゴリズムの性能が、血液還流の低下、周囲光、MAによって低下する可能性があることは前述の通りであるが、この中で最も重要なのがMAである10)。これは、体動による圧力が生じると動脈や静脈の幅が変化する為、身体が静止しているときと比べて吸収量や反射量が変化することによる。この課題に対して、PPGセンサの近くに3軸加速度センサを配置しMAノイズを除去する信号処理手法が、弊社アナログ・デバイセズのモーション除去および周波数トラッキング・アルゴリズムを含め、様々に提案されている。

 以下では、心拍抽出精度を向上させるアルゴリズムの実装例として、弊社アナログ・デバイセズのバイタル・サイン・モニタリング向けリファレンス・デザイン、「EVAL-HCRWATCH4Z」を用いた測定データを紹介する。

3.1 MAノイズの影響がみられる測定例

 まず、MAノイズの影響がみられる測定例として、EVAL-HCRWATCH4Zとは異なる手首装着式のウェアラブル機器で取得されたデータを紹介する。図5に示すグラフは、手首装着式のウェアラブル機器で得られたPPG信号、及びそれに基づき算出された心拍数、同機器に配置された3軸加速度センサの出力と、リファレンスとして、スポーツ医学などの研究分野でベンチマークとして用いられる胸ストラップ心拍センサPolar H10 (ポーラル社製)の出力をプロットしたものである。
 測定対象者の状態として、約270秒時点まで歩行しその後走行を開始している。図5左に示すヒートマップは、取得されたPPG信号を高速フーリエ変換(FFT)により解析した結果であり、その上にPPG信号に基づき算出された心拍数とリファレンスの心拍数[bpm]を周波数[Hz]に換算した値をプロットしている。一方、図5右に示すヒートマップは、上から順番に、X軸、Y軸、Z軸方向の3軸加速度センサ出力をFFTにより解析した結果である。

 特に走行開始後、PPG信号に3軸加速度センサから得られた体動と関連性の見られる周波数成分が現われていることがわかる。強度の高い運動による心拍数の上昇と、それに近い周波数成分を持つ体動が同時に生じることで、心拍抽出精度が悪化している。
 このようなMAノイズによる影響に対して、フィルタを用いてノイズが含まれる周波数を除去することが対策として挙げられる。しかし、MAの周波数範囲には脈拍の基本周波数も含まれることから、シンプルなバンドパス・フィルタではその影響を十分に除去することはできない。よって、MAノイズによる影響を高い精度でPPG信号から除去するためには、適応型のフィルタ実装とそれに対して高精度の体動データを供給する加速度センサの搭載が必要になる。

図5 MAノイズの影響がみられる測定例(横軸は時間[sec])
図5 MAノイズの影響がみられる測定例(横軸は時間[sec])

3.2 MAノイズの影響が除去された測定例

 次に、EVAL-HCRWATCH4Zを用いた測定データを紹介する。
 このリファレンス・デザインには、PPGをはじめとする複数のバイタル・サイン・センサ・フロントエンドである「ADPD4100」と、低消費電力の3軸加速度センサ「ADXL362」、Arm® Cortex®-M4 ライブラリとしてプリビルドされた状態のアルゴリズムがそれぞれ搭載されている。弊社アナログ・デバイセズのアルゴリズムは、MAノイズの影響を信号から除去するための適応型フィルタなどを実装し、高い精度で脈拍や心拍変動を算出する。

 図6に示すグラフでは、前項と同様に、リファレンスとしてPolar H10を用いている。
 測定対象者の状態として、約160秒時点まで歩行しその後走行を開始している。前項と同様に、未処理のPPG信号には体動と関連性の見られる周波数成分が強く現われることがわかる。ただし、こちらの測定結果では、PPG信号に基づく心拍数がリファレンスに比較的よく追従しており、MAノイズの影響が適切に除去されていることがわかる。

図6 EVAL-HCRWATCH4Zの測定例(横軸は時間[sec])
図6 EVAL-HCRWATCH4Zの測定例(横軸は時間[sec])

4. バイタル・サイン・モニタリングの開発における課題

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、健康に対する人々の関心はより急速に高まっており、日常的な使用が可能な簡便さと高い精度を両立するバイタル・サイン・モニタリングの実現が望まれている。しかし、一般的なバイタル・サイン・モニタリングを行うウェアラブル機器を用いる場合、未処理のデータをそのまま得ることができない為、新しいシステムの開発や研究を行うことは困難である。また、機器を独自に設計する場合も、センサや信号処理回路などのハードウェアから、高精度に解析を行うアルゴリズムなどのソフトウェアの設計まで必要である為、多大な時間とコストかかる。
 弊社アナログ・デバイセズは、そのようなバイタル・サイン・センシング・システムの研究開発における課題に対して、集積化され、精度・特性が規定された信号処理回路や、筐体設計から解析アルゴリズムを含む評価環境までがまとめられたリファレンス・デザインを提供する。
 前項のデータ測定に用いられたリファレンス・デザイン、EVAL-HCRWATCH4Zは、前述したPPG向けアナログ・フロントエンドと3軸加速度センサの他、心電に基づく心拍数モニタ用アナログ・フロントエンド「AD8233」、高精度な電気化学用フロントエンド「AD5940」、容量デジタル・コンバータ「AD7156」で構成される。その筐体はIP68の防水・防塵に対応する。
 ユーザーは、これら高性能のセンサとセンシング・フロントエンドから得られた、完全に未処理の光学センサや電気センサのデータを取得できる。さらに、プリビルドされた脈拍や心拍変動を算出するアルゴリズムも提供される為、未処理信号を用いた新規アルゴリズムの開発から、心拍数など基礎的なバイタル・サインを用いたより高次の解析を目的とする研究まで、ユーザーの幅広い要求に応えることができる。また、リアルタイム・モニタリングや測定パラメータの詳細設定が可能な専用評価環境が、Windows及びAndroid、iOSの各OSに対応している。
 より詳細に関しては、弊社アナログ・デバイセズが掲載する技術記事も参照されたい11)12)13)

図7 EVAL-HCRWATCH4Zの外観(左)とその構成(右)
図7 EVAL-HCRWATCH4Zの外観(左)とその構成(右)

5. まとめ

 本稿では、バイタル・サイン・モニタリングの一例としてPPGに基づく脈拍のモニタリングを取り上げ、その基本的な信号処理の流れと課題について説明した。本稿の測定例で用いられたリファレンス・デザインをはじめとする弊社アナログ・デバイセズの技術が、多くの人々の健康で持続可能な生活を支えるバイタル・サイン・モニタリングの実現に向けた研究や開発を促進することができれば幸いである。



参考文献

  1. Byung S. Kim and Sun Kyung Yoo “Motion Artifact Reduction In Photoplethysmography Using Independent Component Analysis” IEEE Transactions on Biomedical Engineering, Vol. 53, No. 3, p. 566–568, April 2006.
  2. Cosimo Carrier「バイタル・サイン技術:身体の状態基準保全」analog.com
  3. Vitruvian Shieldがバイタルサインの監視用のスマートウォッチを開発、てんかんの患者に大きな安心感をもたらす」analog.com
  4. 岩﨑 正統「遠隔・個別化医療の未来を担うアナログ・デバイセズ」analog.com


【著者紹介】
井口 璃音(いぐち りおん)
アナログ・デバイセズ株式会社
デジタルインフラストラクチャー ビジネスグループ
ヘルスケア
フィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2020年3月北海道大学工学部 卒業
  • 2020年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に医療機器向け各種ICのアプリケーションサポートに従事。

インピーダンス・センシング向けアナログ・フロント・エンド技術
(Overview of analog front end technology for impedance sensing)(2)

渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ(株)
インダストリアルビジネスグループ
渡邉 慶太郎

4. インピーダンス測定/センシング向けの各種ソリューションと活用事例

 DUTの種類やアプリケーションによって、インピーダンス測定/センシングには多様な性能要求が存在する。また、いずれのアプリケーションにおいても多チャンネル化や低コスト化を背景とした小型化要求や、技術革新を背景とした開発の迅速化要求が強く存在する。他方で、いずれの測定手法は複雑な回路によって実現されるため、多くの場合で据え置き型の計測器を必要としていたことがインピーダンス・センシングの用途を制約してきた。
 これらの要求に応えるため、アナログ・デバイセズでは、ワンチップのICからボード・レベルのリファレンス・デザインまで幅広いソリューションを提供している。

図4 インピーダンス・センシング向け半導体ソリューションの例
図4 インピーダンス・センシング向け半導体ソリューションの例

4.1. ワンチップAFE及び高精度マイクロコントローラ(MCU)

 アナログ・デバイセズは、BIA及びEISに適した周波数範囲でのインピーダンス計測を可能にする、DFTエンジンを搭載したワンチップ・アナログ・フロント・エンド(Analog Front End; AFE)製品及びMCU製品を提供している。
 具体的なアプリケーションの例として、センサの診断機能付きガス測定システム及びバッテリ向けEISのリファレンス・デザインを提供している。また燃料電池の電極劣化を検知できるシステムを開発し、パートナーの燃料電池ベンダとともに有用性の検証を行っている

4.2. 高精度インピーダンス・アナライザ・モジュール リファレンス・デザイン

 比較的低周波数において高確度のインピーダンス計測を行う手法として自動平衡ブリッジ法があるが、その回路構成は複雑である。アナログ・デバイセズでは高精度回路設計のための各種IC(OPAMP, ADC, 電圧リファレンスなど)を提供しているが、併せて開発の迅速化のために自動平衡ブリッジ方式のインピーダンス・アナライザのリファレンス・デザイン ADMX2001を提供している。
 本モジュールは広いレンジのインピーダンスを測定可能であり、様々なDUTに対するEISや電子部品検査に利用可能であるとともに、小型モジュールであり既存の計測器への組み込みも容易である。さらにユーザーが設計する外付けのドライバ回路を接続することで、大電流を要求する用途にも対応可能である。

4.3. ベクトル・ネットワーク解析用AFE IC及びVNAリファレンス・デザイン

 高周波回路は、一般に特性インピーダンスを50 ohmに整合させて設計される。回路と回路を接続するとき、インピーダンスが整合していれば反射が生じないが、整合していなければ反射が生じる。すなわち、反射波の存在からインピーダンスの不整合を検知することが可能であり、入射波/反射波の大きさと位相の情報を得ることができれば、インピーダンスを算出することが可能である。
 アナログ・デバイセズは、反射波を検知するワンチップICとして双方向のゲイン及びVSWR測定が可能なADL5920、簡易的なインピーダンスを算出する用途にはログアンプでの電力検知並びに位相検知が可能なAD8302を提供している。また具体的なアプリケーションとして、ADL5920を用いた水位計の提案を行った
 しかし、高周波数においてより正確にインピーダンスを測定するためには、各種誤差項を校正可能なベクトル・ネットワーク解析システムが必要である。

 本年リリース予定のADL5960はフルn-ポート校正が可能なVNAシステムを構築できる世界初のベクトル・ネットワーク解析向けAFE ICであり、現在リファレンス・デザインとして現在8-ポート VNAを開発中である。このような省サイズかつ経済的なネットワーク解析システムの実現により、高周波数帯における電子部品や基板検査、またインピーダンスを用いたCbMの利用拡大が期待される。

図5 開発中の8-ポート VNAリファレンス・デザイン 試作基板
図5 開発中の8-ポート VNAリファレンス・デザイン 試作基板

5. おわりに

 本稿では、インピーダンス測定/センシングの主要用途と、最新の半導体技術がどのように測定/センシング・システムの小型化や迅速な開発に貢献するかを示した。
 インピーダンスはDUTの物性を反映するが、その電気的モデルは複雑でときに理論付けが難しく、また変化量がわずかである場合も多い。インピーダンスを精度良く測定し、価値ある情報を抽出するためには、高精度アナログ回路と並びプロセッサや各種アルゴリズムも重要である。
 アナログ・デバイセズは、アナログ半導体の集積技術・パッケージ技術を用いてインピーダンス測定/センシングを高精度かつ小型に実現できるICを提供するとともに、デジタルICやソフトウェアにも注力し、データのセンシングから分析までのセンシング・シグナル・チェーンを包括的にサポートする。





【著者紹介】
渡邉 慶太郎(わたなべ けいたろう)
アナログ・デバイセズ株式会社
インダストリアルビジネスグループ インスツルメンツ
シニアフィールドアプリケーションエンジニア

■略歴

  • 2015年3月東北大学理学部 卒業
  • 2017年3月東北大学大学院理学研究科 博士前期課程修了(修士(理学))
  • 2017年4月アナログ・デバイセズ(株)(米国Analog Devices, Inc. 日本法人)入社
  • 以降フィールドアプリケーションエンジニアとして、主に電子計測器市場向け各種ミックスド・シグナルIC及びモノリシック・マイクロ波IC(MMIC)のアプリケーションサポートに従事。
    2020年より、マイクロウェーブ展(MWE)実行委員会展示委員。

1-Wire®バス(2)

永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ(株)
リージョナル・ビジネス・グループ
永井 郁

2.2.1-Wireメモリ/認証デバイス製品

 電源や電気回路が搭載されていないメカ部品や周辺機器、消耗品に1-Wireメモリ製品を追加し正規品認証、使用回数管理、製造情報管理、校正データの保存などを行う事で、製品の安全性や信頼性および機能の向上をはかることができる。図3に1-Wireメモリ製品の一例として112バイトのユーザーEEPROMを持つDS28E055)のブロック図を示す。

図3.1-Wireメモリ製品の内部ブロック図
図3.1-Wireメモリ製品の内部ブロック図

 なお、NFCなどの無線タグ技術を使うことで電源の無い部品や機器の認証を非接触で行う事もできるが、1-Wire製品は物理的接続を必要とすることにより確実に接続されたかどうかの確認を行う事ができ、図3に示すような産業用の電源コネクタや医療機器のカートリッジなど、確実な接続が確認できない場合に本体機器の動作を禁止したい用途に有効である。1-Wireメモリ製品は図4に示すSFN3), 4) (Single、Flat、No contact) パッケージに対応し、機器の接続面に直接取り付けて直接パッケージ端子で電気的接合をとり、コネクタやPCB基板を不要とする簡易で経済的な設計を実現する。パッケージは3.5mm x 5mm x 0.35mm、3.5mm x 6.5mm x 0.75mm、6mm x 6mm x 0.9mmの3種類がある。

図4.1-Wireメモリ製品の用途例とSFNパッケージ(上:用途例、左下:SFNパッケージ写真、右下:SFNパッケージを樹脂筐体に組み込んだ例)
図4.1-Wireメモリ製品の用途例とSFNパッケージ
(上:用途例、左下:SFNパッケージ写真、右下:SFNパッケージを樹脂筐体に組み込んだ例)

 なお、1-Wireメモリ製品として様々なメモリ容量の製品があるほか、医療機器などで求められるガンマ線耐性を保持する製品がある。更にECDSAやSHAなどの暗号化技術を搭載し、1-Wireコントローラとの間で暗号認証を行う1-Wire認証デバイスもあり、用途で求められるセキュリティ・レベルに応じて使い分けることができる。

2.3.温度センサ/iButton®

 図5に1-Wire温度センサの例としてMAX31820PAR6)の外形とコントローラとの結線図を示す。MAX31820PARは-55~125℃の測定範囲、10~45℃の範囲で+/-0.5℃の精度を保証する環境温度センサであり、1-Wireバスの少ピン数の特徴を生かし3ピンのTO92パッケージで提供する。温度センサの精度としては一般的な精度ではあるが、1-Wireバスからの給電で駆動できるため、電源や電気回路が搭載されていないメカ部品や周辺機器、消耗品などの周辺温度の容易かつ経済的な測定を実現する。

図5.1-Wire温度センサの外形と結線図
図5.1-Wire温度センサの外形と結線図

 1-Wireバスのセンサとして、iButton® 7)8)と呼ばれる図6に示すようなボタン電池状の缶パッケージに収められた温湿度データロガーもある。iButton製品は内部に電池、温度センサ、基準クロック、1-WireインターフェースICを内蔵し、事前に専用のソケットに接続してPC経由で測定間隔などの設定を行った後にタイムスタンプ付の温度データの取得を開始する。図5の例にあるDS19239)の場合は-20~85℃の温度測定範囲で測定可能で、-10~65℃で0.5℃精度、0~100%RHの湿度測定範囲で0.04%RHの分解能でデータ記録し、1分間隔のデータ記録頻度で2~3ヵ月以上の動作が可能である。記録されたデータは再び専用のソケットに接続してPC経由で取得する。センサ精度のトレーサビリティ証明として、パッケージおよび内部メモリに記載/記憶された固有のIDに紐づいたNIST証明書が提供される。DS1923のパッケージはIP56相当の封止レベルであり、医薬品や食品などの輸送履歴管理が必要な物資に同梱して使用される実績がある。

図6.iButtonの構造と外形(左上:構造図、右上:外観、下:外形サイズ)
図6.iButtonの構造と外形
(左上:構造図、右上:外観、下:外形サイズ)

3.まとめ

 本稿では、電源や電気回路が搭載されていないメカ部品などのモニタリングや管理を簡易かつ経済的に行える1-Wire技術およびそれを利用したセンサを紹介した。本稿で紹介した技術がセンシング応用を広げユーザーの利便性向上を進めるうえでの一助となれば幸いである。





【著者紹介】
永井 郁(ながい いく)
アナログ・デバイセズ株式会社 リージョナル・ビジネス・グループ

■略歴

  • 1999~2004年電子部品メーカーで製品開発に従事
  • 2004年~アナログ・デバイセズ社 MEMSセンサのビジネス開拓と技術サポート、産業分野のビジネス等に従事

ifm、高速アプリケーション向け光電センサ -高分解能0.01mm-

ifm efector(株)は、過酷な環境でも精密な物体検出を実現した光電センサ”OMHシリーズ”を2023年5月に発売する。

OMHシリーズはアンプ内蔵ながら場所を取らないコンパクトな形状。これまでの光電センサでは難しかった微小部品の検出や高速移動するアプリケーションに使用できる。1200Hz・分解能0.01mmのスピードモードと、一般的な距離センサでは検出が難しい材質も検出することができるパワーモードをアプリケーションに合わせて切り替える事ができ、高い精度と正確な位置決めが要求されるプロセスでの品質向上が期待できるコストパフォーマンスの高い光電センサであるという。

◆主な特長◆
•mm未満の精密な距離測定
•高速アプリケーションに対応
•3つの動作モードと コンパクトなハウジングにより幅広いアプリケーションに適応
•IO-Linkによりパラメータ設定が簡単にでき、プロセス データをITレベルへ通信可能
•距離データをアナログ出力 (OMH551, OMH553, OMH555 アナログ出力/IO-Linkタイプ)

◆製品名・価格◆
・製品名:「光電センサ OMHシリーズ」
・標準価格: 87,500円~ 90,700円(税別)
・販売目標: 年間1200個

ニュースリリースサイト:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000122061.html